パナソニックもホンダもトヨタもみんな悩んだ
第6話以降、半沢が融資部次長として再生に取り組む相手は、100年の歴史のある名門「伊勢島ホテル」です。このホテルの社長は代々「湯浅家」が務めていて、今の湯浅社長は4代目(社長室に人物写真が3枚かかっているのでそうかと)になります。その下に女性の羽根専務がいて、彼女は、「先代以来、このホテルを動かしてきたのは自分」という自負があります。そして、湯浅社長には面と向かって「(一族の)ワンマンがこのホテルをダメにしたのよ」と言います。羽根専務は、半沢の上司の実力者大和田常務とつるんでいて、経営立て直しのために、一族経営をやめて羽根専務が社長になる案を実現させようとします。
しかし、半沢は、ここまで経営を悪化させたのは羽根専務だと考えます。「湯浅社長には、あなたにはない誠実さがあります」と言って、湯浅社長がそのまま社長を務めながら外国資本を受け入れる案で逆転を狙います。
双方にはいろんな思惑があって単純ではありませんが、「一族経営の善しあし」が一つの対立点になっています。
会社には、伊勢島ホテルのように、創業者一族がたくさんの株を持っていて、一族から社長が選ばれる一族企業(同族企業ともいいます)と、圧倒的に多い株を持っている一族は存在せず、サラリーマンが社長になるというサラリーマン企業の二つがあります。大企業ではサラリーマン企業が多く、中小企業では一族企業が多いのが実態です。そもそも、会社は創業者がいて育っていくものですから、小さいうちは、創業者や一族によるワンマン経営になります。でも、時間をかけて大きくなると、株主の意見が強くなったり、適当な後継者がいなかったりで、サラリーマン企業に移行していくことが多いのです。
たとえば、パナソニックは、少し前まで松下電器産業という社名でした。松下幸之助さんが創業して日本で指折りの大きな会社に育て、2代目社長は養子の松下正治さんが務めました。3代目はサラリーマンの山下俊彦さんが社長になりました。一族が「ゆくゆくは」と考えていた孫の松下正幸さんがまだ若かったためです。その後3代、サラリーマン社長が続いた後、正治さんが正幸さんを社長にしようとしましたが、サラリーマンたちの猛反対で実現しませんでした。松下電器産業は、ここで完全なサラリーマン企業になり、社名からも松下の名が外れていくわけです。
一族経営には、確かにいいところも悪いところもあります。私は、一族経営のいいところは、決断の早さにあると思います。数年で代わるサラリーマン社長とは違いますから、社内の根回しや議論に力を注ぐ必要はありません。即断即決ができます。
もう一つは、会社が一つにまとまりやすいということもあります。サラリーマン企業なら、社長に絶対的な力がないことが一般的ですので、社内で派閥争いがよくあります。一族経営の場合、争っても権力を握れるわけではありませんから、派閥ができにくくなります。会社に求心力が生まれるというわけです。
4年前にサラリーマン社長から豊田家に「大政奉還」されたトヨタ自動車や、創業以来、鳥井、佐治両家から社長が出続けているサントリーなどは、同族経営がうまくいっている例でしょう。
悪いところは、その裏返しです。社長の決断をチェックできないため、会社が暴走してしまうことがあります。また、どうせ権力を握れないという思いが、士気を低下させ、無気力な社風を生むということもあります。
一昨年、大きなニュースになった大王製紙は、悪い例です。3代目社長が、子会社から巨額の不正融資を受けてギャンブルに使っていたことがわかり、特別背任罪で逮捕されました。一族があまりに強くて、社内の誰もチェックすることができなかったということです。
ブラック企業と言われる企業は、強い創業者のいる企業であることが多いようです。これも、強すぎるトップの行き過ぎを誰も止められないことによるものだと思います。
結局、本当に強い会社は、一族の優秀な経営者がいて、なおかつ、その暴走は確実にチェックできる体制のある会社でしょう。
でも、一族をチェックするなんていう体制を作るのは、とても難しいことです。それが無理なら、創業者はサラリーマンにあとを託すのが得策だと思います。ホンダ(正式社名:本田技研工業)の創業者の本田宗一郎さんは、自分の子供をホンダに入社させず、後継者に45歳のサラリーマンを指名しました。社長を退いた後、「社名に本田の名前をつけたことだけが悔やまれる」と言いながら、会社には足を踏み入れなかったそうです。ホンダは、創業者を大切にするサラリーマン企業として成長し続けています。