一色清の世の中ウオッチ 略歴

2013年10月24日

三木谷vs孫、ビジネスの日本シリーズの行方は (第19回)

無料で仕掛けたeコマース戦争

 東北楽天イーグルス、やりましたね。初めての日本シリーズ進出です。言い方は悪いですけど、9年前に「近鉄とオリックスのいらない選手」を集めて発足したチームが、よくここまで来たと思います。田中マー君という絶対的なエースがいますから、他の投手が頑張れば、巨人相手に勝つという大番狂わせが現実の物になりそうな予感がします。

 そういえば、私の古巣の週刊紙アエラ今週号(10月28日号)の表紙は三木谷浩史・楽天会長兼社長でした。22日の日本経済新聞の1面には、三木谷さんの講演内容が写真付きで載っていました。
 野球だけでなく、業績も絶好調とあって、三木谷さんの露出が増えているのでしょう。楽天の連結ベースの売り上げは前年同期の3割増し、利益は2割増しのペースです。先日、大手段ボールメーカーの社長さんと話す機会があったのですが、「ネット通販が好調なおかげで、私どもも繁忙です」と言っていました。三木谷さんは「わが世の春」を謳歌しているように見えます。

 でも、そうはいってられない強烈な一打が、ヤフー会長の孫正義さんから放たれました。10月7日に、孫会長が突然、電子商取引モールの出店料や手数料などすべての費用を無料にすると発表したのです。楽天にしても、ヤフーにしても、これまでは出店者から初期費用、月額出店料、売り上げに応じた手数料を徴収していて、それが収益の大きな柱でした。
 ただ、王者・楽天の背中をなかなか見ることができないヤフーは、ビジネスモデルそのものを変えることにしたのです。孫会長は「地代をもらうというやり方は間違っていた。大いに反省し、根底からひっくり返そうと思い至った」と語っています。とにかくまず赤字覚悟で出店者や売り上げ総額を増やすことに専念し、最終的には、その規模を利用した広告販売額で儲けるというモデルにしようということのようです。

 楽天に影響がないわけがありません。出店者や顧客がヤフーに流れれば、楽天の売り上げは打撃を受けます。対抗して出店料などを引き下げたり無料にしたりすると、利益は薄くなります。案の定、楽天の株価は大きく下がり、役員は手分けして、アナリストへの状況説明に追われました。ただ、ヤフーの株価も下がりました。市場は、電子商取引業界に、「利益なき繁忙」の時代を招くと見たのです。

 電子商取引業界は、楽天、ヤフーに加え、アマゾンという米国資本の強者がいます。無料通話アプリのLINE(ライン)もまもなく、ネット通販を始めることを公表しています。他にも、新興のモールは続々誕生しています。将来性はまだまだあるとみて、競争が激しくなっています。

 今の日本で最も火花が散っているビジネス最前線という感じがします。そこで戦っているのが、孫さんと三木谷さんですから、ビジネス界の日本シリーズといっていいかもしれません。今シーズンのパ・リーグは、楽天がソフトバンクを下しましたが、ビジネスの戦いは分かりません。孫さんが仕掛けて、三木谷さんが反撃する。こんな豪華な対戦ですから、見ている分にも興味津々です。就活生なら業界に参加して、実際に戦ってみるのも面白いと思います。ただ、私が聞くところによると、楽天などは外国人の採用に力を入れていて、日本人学生には年々門が狭くなっているようです。それに体育会的体質ですから、甘い考えは禁物だそうです。