街の書店は逆風の時代続く
書店の減少が止まりません。2014年度に1万5千店近くあった書店は、2024年度には1万店強にまで減っています。政府は書店を地域の重要な文化拠点と位置づけており、昨年4月には斎藤健経済産業大臣(当時)が書店経営者らと対話集会を開くなどして検討を重ね、6月10日には政府が「書店活性化プラン」を公表しました。
文化庁の2023年度調査では、「1カ月に1冊も本を読まない」人が全体の6割を超え、読書離れが進んでいるといいます。本を買う手段もアマゾンなどのネット書店が隆盛で、街の書店にとっては逆風の時代が続いています。リアル書店の存在意義とは何なのか。書店活性化により、読書離れは止まるのか。そもそも読書のメリットとは何なんだろうか――。これから社会に出て行くみなさんにも、ぜひ考えていただきたいテーマです。(編集部・福井洋平)
(写真・書店経営者らとの車座対話後に書店を視察する斎藤健経済産業相(当時)=2024年4月17日/朝日新聞社)
ネット書店伸びる一方で街の書店は
一般社団法人日本出版インフラセンターの調べでは、2014年度に1万4658店だった書店は、2024年度には1万417店まで減っています。また、約3割の自治体には、書店が1店もありません。
書店が急激に減った理由のひとつは本離れ、活字離れです。出版科学研究所によれば、日本の紙の出版物の売上は、1996年の2.7兆円から2022年には1.1兆円にまで落ちています。人口減によるマーケット縮小にくわえて、スマホが普及、デジタルコンテンツが豊富に提供されるようになり、紙の本を読む時間が減ったことが大きな要因です。とりわけ落ち込みが激しいのが雑誌で、1996年には1.6兆円近くあった売上が、2022年には約5000億円と3分の1以下に落ち込んでいます。
そしてもうひとつの理由がネット書店の浸透です。出版物の売上が年々減少しているなか、ネット書店の売上は2013年に1600億円だったところ、2022年には2900億円まで伸びています(出版科学研究所調べ)。書店では見つけづらく、注文から入手まで数日かかるような本も、ネット書店なら検索してワンクリックで家まで届けてくれたりします。あわせて電子出版の市場も年々増加しており、2022年には雑誌の売上を上回りました。電子出版の9割近くは、電子コミックが占めています。
書店は「文化創造基盤」
本は、文化を下支えし、国力をはぐくむ大事な基盤です。総務省調べでは、2023年に出た書籍新刊の刊行点数は6万4905点。1日あたり約180点の本が生み出されている計算です。インターネットが普及してデジタルコンテンツも豊富になりましたが、やはり本のもつ情報の量、深さ、幅広さははかりしれないものがあります。昨今は生成AIが発達し、いろいろな質問に懇切丁寧に答えてくれるようになりましたが、いまのところ生成AIはあくまでインターネット上の情報をあつめて整理するツールです。生成AIを使いこなすためにも、より深く、より体系的に、より専門的に知識を得るためにも、本を通じて情報や知識を得る重要性はこれからも失われないでしょう。
ネットで本を買えるし読むこともできるのなら、街の書店がなくなってもしょうがない――という考え方もあるかもしれません。しかし、リアルな書店には重要な役割があります。昨年、経済産業省は「書店振興プロジェクトチーム」を立ち上げ、10月に「関係者から指摘された書店活性化のための課題」という報告をまとめました。そこでは本に出会う経路として「(リアルの)書店」「図書館」「ネット」の3つをあげ、書店は「地域に親しまれており、創造性がはぐくまれる文化創造基盤として機能してきた」と述べています。
書店の「一覧性」が変化に対応する力養う
さらに、書店の重要な特色として「一覧性」をあげています。たくさんの人に本を目にとめてもらい、手を伸ばしてもらえるよう、書店員の方々は工夫を重ね、様々なジャンルの本がたくさん書店には並んでいます。これが一気に視野に入ること=「一覧性」があることで、「ふと目に入った本や、それまで関心がなかったのに気になる本が浮かび上がり、そうした本との出会いにより、新たな経験を得ることで、読み手の人生を変えうる」と報告書には記載されています。これは、ネット書店ではなかなか得られない経験といえます。図書館にもリアル書店のような機能はありますが、借りた本は返さなければいけませんし、線を引いたり付箋を貼ったりすることもできないというデメリットがあります。また、書店は図書館に比べて最新刊が多く並ぶため、とくに現在のトレンド、動きを感じ取ることができるという良さもあると思います。
AIをはじめとする技術の進歩や、激動が加速する世界情勢を考えると、今後の社会がどう変化するかを見通すことは非常に難しくなってきます。ある日突然、自分がやってきたこととはかけ離れた仕事に就くことになったり、想像もしなかったライフイベントが起こったりする可能性も十分あります。そんな時代を生き抜く「変化に対応する力」を養うために必要なことは、自分の視野を広げて「幅広い好奇心」をもつこと。そう考えると、街の書店に足を運んで自分が知らない分野の本をパラパラ立ち読みしたりする経験はとても大切なものだと感じます。筆者も、本の選び方、並べ方やポップ(売り場にある宣伝広告物)に工夫がこらされている書店をまわると、「なんだろう、この本は」と普段は買わないような本を思わず手にとってしまうことがよくあります。
(写真はiStock)
返本の削減や電子タグ導入を検討
では、書店を守るためにはどうしたらいいのか。今年6月に経産省が公表した「書店活性化プラン」では、「返品の削減」を一案にあげています。
ふつう、小売店が仕入れたものは、たとえ売れ残ってもメーカーや卸売会社に返品することはできません。ところが本には「委託配本制度」という仕組みがあり、書店が売れ残った本を自由に返品することができるのです。売れない本を抱え続けるリスクがないわけですから、書店にとってはいい仕組みのように見えます。しかし、売れ残りのコストを出版社が背負う分、本の利益のうち書店の取り分が低く抑えられている、という側面もあるのです。いま書籍では約3割、雑誌では約4割が返品となっています。売れない本や雑誌を移動させる輸送コストも膨らんでおり、経産省は返品の削減をめざす方針です。
このほか、効率的な在庫管理のために電子タグ(RFID)を導入したり、別々に書店に届く雑誌と付録を書店でセット組みする負担が重いためその緩和を出版社側に求めたり、といった提案も盛り込まれています。これらの取り組みが進むと、場合によっては、本の値段の上昇につながるかもしれません。みなさんの生活にも影響のある話だと思います。出版、マスコミをめざす方はもちろん、それ以外の方もぜひこれを機会に本の未来、書店の未来について考えてみてください。また、街で書店をみかけたらぜひ立ち寄ってみてください。自分の気に入った書店が見つかると、人生がよりいっそう楽しくなります。
(写真はiStock)
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