一色清の世の中ウオッチ 略歴

2013年06月21日

幸せな会社選び (第1回)

意外においしい歴史ある会社

 このコラムを担当することになりました一色です。就活生の皆さんの姿を頭に浮かべながら、今の世の中を私なりに解説していきたいと思っています。
 私は35年も前に朝日新聞社に入り、経済記者をしたり週刊誌の編集者をしたりテレビのコメンテーターをしたりして過ごしてきました。この間、いろんな会社を取材したり、いろんな会社の人とつきあったりしてきました。かっこよさそうに見える会社の人が愚痴ばかり言っていたり、斜陽と言われる会社の人が生き生きしていたり、会社の格付けやイメージと社員の幸せは別物だと思うことがよくありました。だからいつの時代も会社選びは難しいわけです。

 会社には四つあります。①成長していて仕事が楽②成長していて仕事がきつい③成長していなくて仕事が楽④成長していなくて仕事もきつい、の四つです。誰もが一番いい会社だと思うのは①でしょう。でも、①は数が少なく、入るのがとても難しいはずです。今から30年以上前、私が就活している頃、文化系学生の就職人気ナンバーワンは毎年、東京海上火災(現東京海上日動火災)でした。会社の実情に疎かった私は友人に「東京海上火災って聞いたことのない会社なんだけど、どうして人気があるの」と聞いたことがあります。友人は「業界は順風で給料がよくて仕事は楽だからさ」と教えてくれました。東京海上火災が本当に仕事の楽な会社だったかどうかは知りませんが、本当にそうだったとすれば、そんな会社はなかなかないでしょう。あまりに狭き門ということで、①狙いは無謀です。
 ④もできれば避けたいところです。成長してなくて仕事がきついというのは、生き残りをかけて社員が必死にならざるを得ない会社でしょうから、幸せになれるかどうかより、会社がいつまであるかが心配になります。

 問題は②と③です。私の経験では、②は伸び盛りの若い企業や外資系の企業に多いタイプです。先日、外資系金融機関の営業をしている女性と話し込む機会がありました。彼女はいかに外資系金融が日本企業と違うかを語ってくれました。同じ部署に、年収1億円以上の人も年収200万円の人もいること。すべてがライバルで、他の人のお客さんの電話をとっても自分のお客さんにしようとする人までいること。「明日から来なくていい」と突然社長から言われることが珍しくないこと。聞いていて「私には無理だ」と思いました。
 外資系コンサルタント会社のマッキンゼーにいたことのある慶応大学の先生が言っていたのですが、マッキンゼー時代、最高で一カ月500時間働いたことがあるそうです。休みも取らず31日働き続けても、一日16時間以上働いた計算になります。仕事はおもしろかったそうですが、さすがに疲れて3年でやめたと言っていました。「私なら1年ももたないな」と思いました。

 一方、③は古い日本企業に多いタイプです。長い伝統があるため土地や株式などの資産を多く持っていて、古くからのお客さんががっちりついていて、業界自体は斜陽でも意外に耐性があります。労働組合もしっかりしていて、休日や残業などに目を光らせていますので、きっちり休めます。おっとりした社風と言っていいでしょう。私は繊維とか鉄鋼といった業界を担当したことがありますが、このあたりにはそういう会社がたくさんありました。ある紡績会社は社長経験者が6人も7人も存命で、「よほど居心地がいい会社だったんだろう」と当時の記者仲間で話したことを思い出します。もちろん今、そういう会社の社員は「きつくなった」と嘆きますが、社風はなかなか変わるものではありません。

 就職するなら②がいいか③がいいか、これはそれぞれの人生観でしょう。仕事はきつくても、収入やキャリアに跳ね返るなら②がいいと思う人もいるでしょうし、収入やキャリアよりも人間らしい暮らしができる③がいいと思う人もいるでしょう。もちろん、時間がたてば②が徐々に③になっていく場合もあるでしょう。会社は生き物ですから、会社は老いるものです。逆に③が突然成長分野の先頭に躍り出て②のようなギラギラした社風に変身する場合もないとはいえません。ですから、まさに難しい選択です。私がもう一度就活するなら③を選ぶかなと思うのは、きっと年をとりすぎたせいでしょう。