テレビ局のビジネスモデルはどうなるの
妻が語るいきさつはこうでした。加入しているケーブルテレビ会社から電話があって、「今の契約よりずっと便利で、お値段もお安くなるサービスが始まりました。ご説明に上がりたいのですが」というので、来てもらったそうです。すると、従来のチャンネルはすべて見ることができる上、ネットにつながり、料金も安くなるという「いいことづくめ」であることが分かり、セットしてもらったということです。こちらが探し求めたわけではないのに、スマートテレビの方が勝手にわが家にやってきたのです。
面白いので、いろいろ試してみました。リモコンで文字を打ち込んでグーグル検索ができますので、ネット上のサイトが見放題です。天気予報などのアプリもたくさんあります。スカイプもできます。メールはまだやっていませんが、多分できると思います。全国のFMラジオ番組を聴くこともできます。何より、ユーチューブが威力を発揮します。これまでパソコンの画面で見ていた映像が、42インチの画面で動きます。アップされていたテレビ番組を見ると、これは無料のオンデマンド視聴と同じだということを実感します。
今、スマートテレビという次世代のテレビがじわじわと注目を集めています。わが家にきたのは、ケーブルテレビ会社によるものですが、テレビ受像器そのものがスマートテレビ仕様になっているものも出始めています。グーグルとソニーが組んだグーグルTVがアメリカでは販売されています。アップルがiTVを発売するのではないかという噂も絶えません。ただ、アメリカのテレビ局がスマートテレビ向けの番組提供を拒否していて、今の時点ではそれほど伸びていないようです。
日本でも動きはあります。パナソニックが今年4月に発売した「スマートビエラ」について、民放テレビ局とパナソニックの間で一悶着がありました。「スマートビエラ」のテレビCMをテレビ局側が放送しないことにしたのです。テレビ局側の言い分は、「画面にテレビ局の放送以外の情報が表示されるのは、困る。使い慣れない人がテレビ番組とネット情報を混同する恐れがある。災害時にネットで間違った避難情報が流れ、それをテレビ局提供の情報と信じて行動すれば人命に関わる」といったものでした。
この問題は結局、パナソニックが、来年以降売り出す機種で画面の表示方法を見直すことと、今回のCMも音声でテレビの操作をできる機能に限ることにしたことを民放側に伝えたことで、CMが放送されることになりました。
でも、「めでたし、めでたし」ではないのです。本当の問題は、画面の表示方法やCMの表現方法ではありません。スマートテレビそのものが、民放テレビ局のビジネスモデルを壊すのではないかと、怖がられているのです。民放テレビ局は、スポンサーからのCM収入で成り立っています。若者のテレビ離れとか、録画視聴が増えてCM飛ばしが横行しているといった問題を抱えていますが、それでもテレビの影響力はまだ大きく、収入を維持しています。
ただ、スマートテレビが普及すると、様相は大きく変わってきます。テレビ放送は、テレビ画面に映っているコンテンツの一つに過ぎなくなります。これまでもゲームやビデオ、レンタルDVDに画面が占拠されることはありましたが、インターネットの多様なサービスとなると、ゲームやビデオよりはるかに影響は大きいでしょう。テレビ放送の画面占有率が低くなって、テレビCMの価値は低くなります。そうなると、民放テレビ局のビジネスが成り立たなくなる恐れがあるわけです。
民放テレビ局は、仕事が華やかそうで、給料も高く、就職人気の高い業界です。でも、そうした業界もネットによる社会の大きな変革の波にさらされつつあるのです。(新聞業界は一足先にさらされていますが)
本当に先が読めない時代です。こんな時代に会社を選ぶのは、さぞ難しいでしょう。誰も読めないのですから、読むことをやめて、エイヤッと跳ぶことも必要だと思います。