会社の論理に染まるな
楽天の優勝セールの77%引きが一部商品でウソだった問題では、三木谷社長が頭を下げました。三木谷社長は、11月3日に東北楽天イーグルスの優勝を喜び、9日には父親を病気で亡くし、11日には謝罪するということで、さぞや起伏の大きな日々を過ごしたものと思われます。
最近、企業の不祥事が目立ちます。ほかにも、ヤマト運輸や日本郵便は、クール便なのに常温で仕分け作業をしたり配達をしたりしていたとし、役員が謝罪しました。みずほ銀行は暴力団組員に融資していた問題で、佐藤康博頭取らが責任を厳しく問われています。JR北海道はレールの異常を放置していた問題で、レールの点検数値を改ざんしていたという不祥事が新たに浮上しています。
どこもかしこも何をやっているのか、と思います。これらの不祥事に共通するのは、個人の不祥事ではなく、会社の不祥事であるということです。悪質さに濃淡はありますが、普通の社員たちが普通に仕事をこなす過程で起きた不祥事です。つまり、会社の論理に染まった人間なら、誰でも関わる可能性のある不祥事だと思います。
会社というのは、儲けなければつぶれます。儲けなければという思いや損を出してはいけないという思いが、違法な行動をとらせたり、世間から非難されるような行動をとらせたりしがちです。「きれいごとでは仕事はできないんだよ」と豪語するようなタイプが出世し、「それは問題ではないですか」と反発するタイプは出世しない風土が日本の企業社会にはまだあるように思います。
例えば、食品虚偽表示問題でも、「おかしい」と思っていた人は内部にいたと思います。表沙汰になるとほとんどの人が「おかしい」と思うのですから、いないはずがないと思います。でもその「おかしい」が通らなかったのは、「前からやっている」「他でもやっている」「大した問題ではない」という会社の論理にかき消されたのでしょう。「うちだけやめて売り上げが落ちたら誰が責任をとるんだ」と強く言われて黙ってしまう姿は、容易に想像できます。
みずほ銀行の問題は、「関わると面倒だ」という経営者の心理が働いたと思います。暴力団組員への融資をきれば、暴力団との間のトラブルを引き起こす可能性があるし、世間に取引があったことを知られると銀行にダメージがある、ならば目をつむって時が過ぎるのを待とうという心理です。保身と言われても仕方がないと思います。
ヤマト運輸やJR北海道のケースは、「人手不足で大変なんだから、丁寧になんかやってらんないよ。誰にも分からないだろうし」ということだろうと推測できます。
これから会社に入ろうとする就活生たちは、自分が不祥事に関係するなどと思ってもいないでしょう。でも、気をつけていないと人は会社の論理にあっという間に染まってしまうものです。建設会社に勤めると「談合は必要」、電力会社に勤めると「原発は絶対安全」、商社に勤めると「リベートも営業活動のうち」、不動産業界に勤めると「駅から10分は駅から5分のこと」などと言い始めます。そうするうちに世間から非難される一線を超えてしまうことだって出てくるのです。
そうならないようにするには、会社のために仕事をするという気持ちでなく、顧客や社会のために仕事をするという気持ちでいることです。そして自分の正義感に照らしておかしいと思うことに出会ったら、臆せず「おかしい」と言いましょう。なかなか難しいことですが。