2022年10月28日

ESの性別欄・顔写真なしの企業増 「自分らしくいられる会社」探そう【イチ押しニュース】

テーマ:就活

 採用試験のエントリーシート(ES)から、性別欄をなくしたり、フルネームの記入や顔写真を不要とする企業が少しずつですが、増えています。大学名を求めない企業もあります。LGBTQなど性的少数者への配慮に加え、多様な人材を採用しないと変化の激しい時代を乗り越えられないという危機感があります。多くの企業が「人物本位の採用」を掲げてはいますが、性別や外見などで判断してしまうアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)をなくすのは難しいといわれます。そこで、少なくとも書類選考の段階では、偏見につながりかねない要素は極力排除しようということですね。LGBTQの当事者にとっては就活のハードルが下がるグッドニュースですが、そうでない人にとっても、より人物の「中身」や「個性」が問われるようになるので、ひとごとではありません。採用選考のやり方から、企業の多様性やジェンダー(社会的性差)への取り組み姿勢が見える時代がやってきたともいえます。企業選びの軸に、「自分らしくいられる企業か」という視点も加えてみてください。(編集長・木之本敬介)

(写真は、顔写真をなくしたユニリーバ・ジャパンの履歴書=同社提供)

「その人の考え方だけで選びたい」

 朝日新聞の記事から、ESや履歴書の性別や顔写真をなくしたケースを紹介します。
東京海上日動火災保険
 9月下旬まで行った秋採用で、応募画面から性別や大学名の記入欄をなくしました。名前は姓だけ書けばよく顔写真の添付も不要に。採用担当者はその理由を「これまで性別や顔写真などが選考に影響していた可能性は否定できない。その人の考え方だけで選びたいので、余計な情報を削除した」と説明しています。過去には顔写真を見て書類選考で落としたケースもあり、顔そのものではなく、服装や写真の形式がきちんとしているかなどを考慮したそうですが、「それも含めて個性ではないかと考え直した。多様な人材を採用しないと変化の激しい時代を乗り越えられない」と語っています。書類選考での「門前払い」をなくせば、より人物本位で採用できることになり、人材の多様性の確保にもつながるとみています。今後の採用でどうするかは「検討中」とのことです。

三菱ケミカル
 2021年春の採用から、性別の記入欄や顔写真の提出をなくしました。名前は、姓だけやニックネームでもOK。2020年に「D&I」(ダイバーシティー&インクルージョン=多様性を認め合うこと)を経営方針の一つとしたのがきっかけです。新卒総合職の選考への応募者は前年の約2倍、内定者のうち女性が占める比率は4~5ポイント高い20%台後半に。面接で女性をあえて多く通すことはせず、人物本位で採用した結果だといいます。同社は、この取り組みでジェンダー平等や多様性への意識が高いと示すことができ、「企業ブランドの向上につながった」ともみています。

ユニリーバ・ジャパン
 2020年に始めた先駆けの会社です。導入時には、男女別の応募数などのデータをとれないと困るのではといった懸念もあったものの、人事担当の幹部は「なければないで何の問題もなかった。若い世代のジェンダーなどに関する意識は上の世代よりも進んでいる。会社もそれにあわせていかないと、人材を確保できないリスクがある」と言います。顔や性別が分かることになる面接の担当者についても、「無意識の偏見をなくす継続的なトレーニングを続けている」そうです。

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顔写真でネガティブ評価との調査結果も

 顔写真は採用にどう影響しているのか、立教大学特定課題研究員の矢吹康夫さんが今年6月に調べました。用意した顔写真は、特徴の少ない人、眼鏡をかけている人、茶髪の人、肥満の人、顔に一見してわかる症状がある人など12種類。年齢など他の項目も複数ずつ準備し、無作為に組み合わせて架空の履歴書を約6400枚用意。企業などの人事担当者約800人に8枚ずつ10段階で評価してもらったところ、資格・免許や大学での成績などが重視されたが、顔写真についても一見してわかる症状がある人や、茶髪の男性、肥満の女性は強いネガティブな効果が出ました。矢吹さんは「履歴書における顔写真の影響は強く、面接に進む前に容姿だけで門前払いされてしまう恐れがある。公正な採用に顔写真は必要ない」と話しています。

(写真は、厚生労働省が2021年3月に示した履歴書の新たな様式例。顔写真欄は残ったが、「写真をはる必要がある場合」と記されている)

なぜパンツスーツ?と疑問視されたら…

 性的少数者たちは就職活動中にどのようなことに難しさを感じているのでしょうか。NPO法人「ReBit(リビット)」が2018年にLGBTQを対象に行った調査では、生まれたときの体の性と異なる性で生きるトランスジェンダーの当事者(95人)のうち、性のあり方で困難やハラスメントを経験した人が87.4%にのぼりました。具体的な困りごとでは、半数弱が「ESや履歴書に性別記載が必須だった」と回答。「男女別のスーツやバッグなどの購入」「人事や面接官から、性的マイノリティでないことを前提とした質問や発言」などが続きました。「性自認と異なるスーツ・服装、髪型、化粧をしなくてはならなかった」も3割いました。

 LGBTQの当事者でなくても、就活スーツのスカートなどに抵抗感を持つ人もいると思います。最近は、学校の制服でもスカートとスラックスを選べるところが増えています。就活こそ、自分をアピールする機会。自分らしくいられる服装で臨んでください。たとえば面接で、女性なのになぜスカートではなくパンツスーツ?と疑問を投げかけられるようなことがあったら、そこはあなたには合わない会社かもしれませんね。入社しても不快な思いをする可能性があるからです。会社に合わせるのではなく、自分の個性を評価してくれる会社を探す就活を目指してください。

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