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自民党の新総裁に岸田文雄氏(64)が選ばれ、第100代の首相に就くことが確実になりました。9年近く保守色の強い「安倍・菅政権」が続きましたが、岸田氏は自民党内でもリベラル色が強い名門派閥「宏池会」(現岸田派)の会長です。同じ自民党の中での「タカ派」(保守派)から「ハト派」(リベラル派)への疑似政権交代とも言えそうです。みなさんの就活戦線にも大いに影響する経済政策で岸田氏は、保守的な「新自由主義」を転換して「成長と分配」を重視すると強調しています。ただ、岸田総裁の誕生の陰では安倍晋三前首相らが大きな力を発揮し、新政権にもかなりの影響力を残すとみられています。「タカ派が支えるハト派政権」になるのかもしれません。岸田新首相で日本はどうなるのか。どんな政権がどんな政策を実施するのかを読み解きます。(編集長・木之本敬介)
日本の「保守・リベラル」の構図や「タカ派・ハト派」については、こちらを読んでみてください。
●今さら聞けない?! 「保守」「リベラル」ってなんだ?
(写真は、就任会見をする自民党の岸田新総裁=2021年9月19日、東京・永田町)
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(写真は、就任会見をする自民党の岸田新総裁=2021年9月19日、東京・永田町)
■岸田さんって?
岸田氏は、祖父、父も衆院議員だった「世襲3世」。東京の開成高校卒で東大に3回落ちて早稲田大学に進んだ話は、本人が「失敗アピール」として語っています。日本長期信用銀行(当時)に就職しましたが、幼少期に米国で経験した人種差別などから「世の中には理不尽なことがたくさんある。変えていかなければならない」と考え、政治家を志したそうです。衆院広島1区選出で連続9期当選。この間、沖縄・北方担当相、外相、自民党政調会長などを務めました。早くから首相候補として「宏池会のプリンス」と呼ばれ、2012年に派閥会長になりました。高校の野球部時代は内野手で、広島カープの大ファン。酒豪としても知られています。30年ぶりの「宏池会政権」
岸田氏が率いる宏池会は、終戦直後の吉田茂元首相の「軽武装・経済重視」政策を引き継ぎ、「所得倍増計画」を掲げた池田勇人元首相が結成した名門派閥です。宏池会からは池田、大平正芳、鈴木善幸、宮沢喜一の4人の首相が輩出。護憲・ハト派の勢力として長く党内の主流派でしたが、その後、麻生太郎氏らが離脱して分裂。代わって台頭したのが今の「細田派」です。1960年に日米安保条約の内容を変えた岸信介(安倍氏の祖父ですね)や福田赳夫の両元首相の流れをくむ派閥で、安倍氏をはじめ党内でもっとも保守的な考えを持つ議員の集まりです。2000年以降、森喜朗、小泉純一郎、安倍、福田康夫と4人の首相を生みました。今では96人が所属する圧倒的な最大派閥です。そんな中での「宏池会政権」誕生は実に30年ぶりのことなのです。細田派に配慮
「多様な声を受け止める寛容な政治」を掲げる岸田氏は、「特技は人の話をよく聞くこと」と繰り返す調整型の政治家です。一方でリーダーシップや発信力には欠けると指摘され、総裁選を戦った河野太郎氏らに比べ国民的な人気は高くありませんでした。しかし、総裁選に真っ先に手を挙げて菅義偉首相の退陣の道筋をつくったことに加え、やや過激な印象を与えて激変が警戒された河野氏に対し、安定感や安心感が国会議員の支持を集め、決選投票では大差で勝利しました。この陰では、高市早苗氏を支持した安倍氏の出身派閥・細田派の大半が岸田氏支持に回ったといわれています。自民党役員人事や岸田内閣の組閣でも、細田派などに配慮した人事が行われています。(写真は、総裁選の結果報告会で高市早苗氏〈右〉の横であいさつする安倍晋三前首相=2021年9月29日、東京・港区)
「私はリベラル、ハト派」だったが……
岸田氏はかつて「(安倍)首相は保守、タカ派。私はリベラル、ハト派」と語ったように、安倍氏とは政治信条が違います。政治手法についても「首相はトップダウンで決める。より個性や多様性を大事にする立場から、やはりボトムアップの政治手法をより大事にしないといけない」と安倍氏との違いを強調したこともあります。ただ今回の総裁選では、当初から安倍氏に配慮する発言が目立ちました。安倍氏が悲願とする憲法改正をめざす考えを示し、森友学園をめぐる公文書改ざん問題では「国民が(調査が)足りないと言っている」といいながら再調査を否定。推進の立場だった選択的夫婦別姓で慎重姿勢に転じ、女系天皇には保守派と同じ「反対」を明言しました。宏池会悲願の岸田内閣となっても、今のところ、タカ派の安倍氏らの顔色をうかがいながらの政権運営にならざるを得ないのでは、とみられています。
(写真は、自民党総裁選で新総裁に選ばれた岸田氏〈中央〉と菅首相〈左から2人目〉。右から総裁選を戦った河野太郎氏、高市早苗氏。左は野田聖子氏=2021年9月19日、東京都港区)
新自由主義→成長と分配
注目の経済政策で岸田氏は、「令和版所得倍増」を柱に掲げました。安倍政権から菅政権に引き継がれた経済政策「アベノミクス」は大企業や富裕層を潤しただけで格差が広がったとの批判があります。「成長と分配の好循環」で経済成長の恩恵を中間層に手厚く分配することで消費を盛り上げ、新たな成長につなげる考えです。そのための方法として、表にある「成長戦略」と「分配政策」を発表。こうした修正路線を「新しい日本型資本主義」と銘打っていますが、安倍政権も似たような政策を行ったものの成果を挙げませんでした。より大胆に分配を行うにはお金が必要ですが、「当面は国債に頼らざるを得ない」と、まずは借金に頼ってでも分配を優先させる姿勢です。成果が挙げられなければ、今でも莫大な国の借金がさらに積み上がるだけ――という心配もあります。11月に行われる衆院総選挙では、立憲民主党をはじめとする野党と政策を競うことになります。私たちの生活の方向を決める「政治の季節」です。これまで以上に日々のニュースに注目しましょう。
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