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2021年06月30日

社会

「選択的夫婦別姓」いつ実現? 自分ごととして考えよう【時事まとめ】

最高裁判決は「国会で判断を」

 結婚するには夫婦どちらかの姓(名字)を選び、一方はそれまでの姓を捨てなければならない――。国内では当たり前ですが、世界では日本だけの特異な仕組みだって知っていますか。女性が姓を変えて夫の姓を名乗る夫婦が96%を占めます。でも、結婚しても仕事を続ける女性が増え、姓を変えることによる不便・不利益をこうむる人が多くなり、姓を変えなくても結婚できる「夫婦別姓」も選べるようにしようという議論が活発になっています。「選択的夫婦別姓制度」と呼びます。夫婦同姓でも別姓でも好きなほうを選べるようにするだけなので、すぐにでもできそうなものですが、「家族の絆が失われる」といった反対論が根強く実現の見通しは立っていません。夫婦同姓を定めた民法などの規定は、結婚の自由などを保障した憲法に違反すると訴えた裁判では、最高裁判所が6月23日に「合憲」という判決を出しました。ただ、制度のあり方は「国会で論じ、判断すべき事柄」と指摘し、政治にボールを投げた形です。今年の秋に行われる衆議院の総選挙では大きな争点の一つになりそうです。就活生のみなさんにとっても、就職してから多くの人が直面するであろう大事なテーマです。「自分ごと」として考えてみてください。(編集長・木之本敬介)

(写真は、自民党の有志議員でつくる「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」の設立総会=2021年3月25日、国会内)

政府にも導入の機運

 夫婦同姓を「合憲」とし政治が決めるべきだとする最高裁判決は、2015年に続き今回が2回目です。その政治の世界で、この問題は四半世紀前から論じられてきました。法務大臣の諮問機関である「法制審議会」が、選択的夫婦別姓導入を含む民法改正案の要綱答申したのが1996年。しかし、「伝統的家族観」を重くみる自民党議員の反対が強く、政府の改正法案は国会に提出されませんでした。2001年には自民党内に推進派の会が結成され、改正目前までいきましたが反対派に阻まれました。

 2020年にも制度導入の機運が盛り上がりました。反対派の安倍晋三前首相から、かつて賛成の立場を示していた菅義偉首相に代わったことや、制度導入を望む若い世代の声が多数寄せられたことを受けて当時の橋本聖子男女共同参画相が意欲を示したためです。政府が年末に決めた第5次男女共同参画基本計画の原案には、選択的夫婦別姓制度について「必要な対応を進める」と踏み込んだ表現がありました。ところが、この一文に自民党の反対派議員が猛反発し、最終的には夫婦別姓の言葉自体が削除されて「家族の一体感」など慎重な文言が加わり、最終的には後退してしまいました。

(写真は、夫婦別姓慎重派の議員連盟設立総会=2021年4月1日、国会内)

改姓の不利益と反対派の主張

 改姓には具体的にはどんな不利益があるのでしょう。免許証の書き換えやクレジットカードの更新など膨大な手続きが必要になるだけでなく、旧姓のままで仕事がしにくかったり、仕事上は旧姓を使用できても海外でトラブルになったりする不利益が生じることがあります。慣れ親しんだ姓を変えることで、アイデンティティーの揺らぎに悩む人も多くいます。

 不利益を減らそうと、政府は行政手続きでの旧姓併記を推し進めてきました。2019年から住民票、マイナンバーカード、運転免許証で認め、看護師、介護福祉士、保育士といった職業の免許や登録証、会社役員名を載せる商業登記簿でも、旧姓を添えられるようになりました。しかし、納税、年金受給、特許出願といった分野は、戸籍名しか認められていません。このため婚姻届を出さず、やむなく「事実婚」の形をとるカップルもいますが、配偶者控除をはじめ税制上の優遇を受けられないなど、こちらも大きな不利益をこうむります。

 結婚するときに妻の姓に改姓したソフトウェア会社サイボウズの青野慶久社長は以後さまざまな不都合に直面したことから、選択的夫婦別姓制度の実現を求めて発信を続けてきました。「別姓が法的に認められないことで、会社は社員の戸籍姓と仕事で使う旧姓のふたつを管理しなければいけない。改姓手続きを必要とする機関の窓口にも無駄な負荷がかかっています。本来必要のないコストで、日本の生産性が損なわれています」と語っています。

同姓義務づけは世界で日本だけ

 反対・慎重派の主張は、別姓を認めると「家族の一体感が失われる」「日本の伝統が壊れる」「子どもが混乱する」といったことに集約されます。日本では明治時代に入って一般の人々も姓を名乗ることになり、まず導入されたのが「夫婦別姓」でした。1876年の太政官指令で、妻は実家の姓を用いると定めました。1998年には民法が成立し「家制度」導入とともに妻が夫の姓を名乗る「夫婦同姓」が始まり、夫婦どちらかの姓を名乗る現在の制度は1947年の民法改正から続いています。「伝統」といっても日本の長い歴史の中の120年余ことに過ぎないわけです。

 世界はどうなのでしょう。法務省が2010年に主要各国に問い合わせたところ、日本以外に法律で夫婦同姓を義務づけている国はありませんでした。同姓か別姓かを選べる例として挙げられたのが米国、英国、ドイツ、ロシアなど。一方、フランスや韓国、中国などは「原則別姓」で、イタリアやトルコは夫婦の姓を合わせる「結合姓」です。奈良大学の床谷文雄教授(家族法)によると、もともとは西洋諸国でも夫の姓に統一する「夫婦同姓」が一般的でしたが、20世紀後半になって男女平等の考え方などから各国で制度の見直しが進みました。1979年に国連で女子差別撤廃条約が採択され、1980年代にはデンマークやスウェーデンが相次いで選択的別姓を導入。1990年代には保守的家族主義が強いとされていたドイツも続くなど世界的な潮流となりました。国連の女子差別撤廃委員会はこれまでに何度も、日本政府に対し選択的夫婦別姓の導入を含む民法改正を勧告したり、追加的情報の提供を求めたりしています。

(図は、2020年11月27日の朝日新聞から)

世論調査でも賛成多数に

 国内の世論も変化しています。内閣府の世論調査では、2012年には法改正に賛成する人と反対する人どちらも約36%と拮抗(きっこう)していましたが、2017年には賛成が42.5%になり、反対(29.3%)を上回りました。賛成する人のうち、実際に法改正されたら夫婦別姓を希望するという人は約2割いました。朝日新聞社が実施した2021年4月の全国世論調査(電話)で選択的夫婦別姓の導入について聞いたところ、賛成67%、反対26%でした。

 経済界でも選択的夫婦別姓制度導入を求める声が強まっています。朝日新聞が6月に報じた主要100社アンケートでは、経営者個人の考えを聞いたところ、「導入してもよい」が43社で、「導入する必要はない」はゼロでした。

焦点は自民党の対応

 最高裁に押し戻された国会はどうするのか。野党はこれまで何度も選択的夫婦別姓の議員立法を提出してきましたし、自民党と連立を組む公明党も賛成の立場。焦点は自民党です。制度の導入に慎重な議員らでつくる自民党の議員連盟は6月11日、秋の総選挙の公約に旧姓の通称使用の拡大を盛り込むよう求める決議をまとめました。決議では「改氏による不便や不利益を早急に解消しなければならない」と訴える一方、選択的夫婦別姓制度については「親子別氏が子どもに与える悪影響などから国民世論の懸念は大きい」と指摘し、「冷静かつ、慎重に議論を行わなければならない」としています。自民党内ではその前日、推進派の議員連盟が、選択的夫婦別姓を導入しても「家族のきずなは不変」などとする中間とりまとめを公表し公約に盛り込みたい考えを示しています。

 閣僚の中にも賛否両論があります。橋本聖子氏の後任の男女共同参画相になった丸川珠代氏は大臣就任前の1月、選択的夫婦別姓への反対を呼びかける書状に署名。就任後の国会で理由を問われ「家族の一体感について議論があって、家族の根幹にかかわる議論だという認識をもったからだ」と答えました。小泉進次郎環境相は記者会見で選択的夫婦別姓制度について「反対する理由は何もない」と発言。河野太郎行政改革相は「党議拘束を外して決を採ることがあってもいい」と述べ、政党に縛られず議員個人の判断で投票する形式も選択肢との考えを明らかにしています。

 秋に行われる総選挙で各党が、具体的にどんな公約を掲げるのか。選択的夫婦別姓制度に関する方針や姿勢も見極めたうえで投票に行くようにしましょうね。

(表は、2019年の参院選で各党が掲げた夫婦別姓に関する公約)

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