
衆院選で大敗し、
石破茂首相が辞任を表明したことで行われている
自民党総裁選。5人が立候補し、10月4日に投開票が行われ新総裁が決まります。
石破氏が
総裁になってから参院選、衆院選と自民党は連敗し、衆参ともに少数与党になりました。これまで長年つづいてきた自民党と
公明党の連立与党体制は、新しい総裁のもとで組み変わる可能性もあります。日本の今後の針路が変わる選択となりますので、ぜひ選挙結果に注目してください。(編集部・福井洋平)
(写真・討論会に臨む(左から)小林鷹之・元経済安保相、茂木敏充・前幹事長、林芳正・官房長官、高市早苗・前経済安保相と小泉進次郎・農林水産相=2025年9月24日/写真はすべて朝日新聞社)
昨年の総裁選で石破氏に敗れた5人が立候補
今回の自民党総裁選には小林鷹之・元経済安保相、茂木敏充・前幹事長、林芳正・官房長官、高市早苗・前経済安保相、小泉進次郎・農水相の5人が立候補しています。林官房長官と小泉農水相は、いまの石破内閣のメンバーでもあります。また、5人とも昨年の自民党総裁選に立候補し、石破氏に敗れています。
5人の候補の主張は、どこが違うのでしょうか。朝日新聞デジタル版では5回の連載記事「論戦の核心」で5氏の主張を分析しています。
違いが見えるポイントのひとつは経済政策です。物価上昇で生活が苦しくなっている今、物価上昇を上回る賃金の上昇を実現する、という姿勢は5候補とも同じです。ただし、物価高の負担を減らす政策や、経済成長を後押しする政策を行うためには財源が必要で、これを赤字国債、いわば借金でまかなうかどうかは、重要な政策の判断基準となります。
高市氏「世界の潮流は積極財政」

9月23日の共同記者会見で、赤字国債発行を「原則として慎まなければならない」としたのは林氏です。「金利ある世界に戻ってきた。規律ある財政運営をすると、常にマーケットに対して発信をしなければならない」と発言しています。
日本では
バブル崩壊後の長引くデフレから脱却するため、金利をゼロに抑える政策が続いてきました。2016年には「
異次元の金融緩和」の一環として
マイナス金利政策も導入されます。金利を下げることでお金を借りやすくし、景気をよくしてデフレから抜け出すねらいです。しかし2024年に
日本銀行は政策を転換し、利上げをすすめています。金利が上がれば 、多額の借金を抱える国の利払いも増えます。そのため、これ以上借金に頼る財政にしてはいけない、というのが林氏の主張です。その他候補からも「コロナ禍のような、よほどの
財政出動が必要である場合以外は赤字国債発行に慎重であるべきだ」(茂木氏)、「金利リスクを意識しなければならない」(小林氏)といった慎重意見が出ました。そんな中、高市氏は唯一「どうしてもというときには、国債の発行もやむを得ない」と述べています。立候補会見でも「今や世界の潮流は
積極財政」と述べており、財政に対する考え方は他の候補と一線を画しているとみられます。
(写真・自民党総裁選の候補者共同記者会見に臨む(左から)小林鷹之元経済安全保障相、茂木敏充前幹事長、林芳正官房長官、高市早苗前経済安保相、小泉進次郎農林水産相=2025年9月23日、東京・永田町の党本部)
小泉氏は改革派イメージ前面に出さず?

ほかにも、たとえば高市氏は「外国勢力から国民を守るための法律がないということでは困る」として「スパイ防止法」の制定への着手を掲げています。スパイ防止法については、小林氏も制定の必要性を主張し、「(日本が)スパイ防止法的なものを対抗手段として持つことは、中国への一定の抑止になる」と語っています。
ただ、そのほかに大きな争点となりそうな政策の違いは正直あまりないように見えます。たとえば政治家によって意見が大きく分かれている「
選択的夫婦別姓」の問題。小泉氏は前回の総裁選では「別姓を求める方がいる。もう決着すべきだ」と主張し、積極的な姿勢を示していました。しかし今回は持論を封印し、23日の共同記者会見では「旧姓の通称使用の拡大」などを訴える他の4候補とともに早期導入には慎重な姿勢で足並みをそろえています。小泉氏は前回の総裁選討論会でかみ合わないやりとりを繰り返して失速した経験があり、今回の記者会見では発言を慎重に選び、「改革派」のイメージも前面に押し出さないようにしたのではとみられています。林氏、小林氏、茂木氏も、記者会見で積極的に論戦を展開しようという姿勢はみられなかったと朝日新聞の記事では論評しています。失言、失策を恐れるあまり、他の候補と違いを際立たせるような強い主張を避けている印象があります。
(写真・質問に答える小泉進次郎・農林水産相=2025年9月24日)
連立・連携相手の政党はどこかにも注目

少し異色の打ち出し方をしているのが高市氏です。22日の所見発表演説会で高市氏は、自身の地元でもある奈良県で、観光客の一部が奈良公園の鹿を「蹴り上げる」「殴って怖がらせる」などの行為をしていると主張。「日本をかけがえのない国にしてきた古来の伝統を守るために体を張る」と述べるなど、外国人問題に対して強硬な姿勢を示しました。前述のスパイ防止法制定など以前からの保守的主張にくわえ、外国人問題に言及した理由は、「日本人ファースト」を掲げて議席を伸ばした
参政党への意識がみえてきます。
高市氏は9月28日に配信されたYouTubeの番組で参政党との連携について問われ、「この政策だったら一緒にやれる、ということを協力していくのは、立法府としての全体の責任だ」と述べ、参政党や日本保守党との政策協議に前向きな姿勢を示したと朝日新聞デジタル版の記事にあります。きわめて保守的な政策をかかげ、自民党に対しても批判的立場にある両党との連携は現実的ではないという指摘もありますが、それだけ高市氏は参政党に流れたとみられる保守的な自民党支持層や、右派的な自民党員票にアプローチしたいと考えているように思われます。
誰が総裁になったとしても、自民党が少数与党であることにかわりはなく、自民党+公明党という連立の枠組みも変わる 可能性もあります。日本維新の会や国民民主党が連携、連立の相手として取りざたされていますが、どこと組むかによって政策の方向性は大きく左右されることになるでしょう。総裁選後の政治の動きにも注目が必要です。
(写真・高市早苗・前経済安保相=2025年9月24日)
石破氏の思いこもった首相国連演説
総裁選が行われているさなか、石破首相はアメリカ・ニューヨークの国連本部で、首相としては最初で最後の一般討論演説にのぞみました。緊迫度を増す中東情勢に対しては、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザでの地上作戦について「この上なく強い言葉で非難する」と踏み込み、日本にとってパレスチナの国家承認は「するか否か」ではなく「いつするか」の問題だとも発言。また、
・法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が歴史的な挑戦を受けている。健全で強靱な民主主義を育て、守り抜くことが肝要だ
・アジアの「寛容の精神」に支えられ、日本は世界の恒久平和に力を尽くしてきた。分断よりも連帯、対立よりも寛容を
など、演説のはしばしに石破氏らしい思いをにじませました。国際秩序を守ること、アジア諸国との連帯・寛容の姿勢を示すことなど、いずれも非常に難しいテーマではありますが、新しい総裁がこの石破氏の思いを引き継ぐ姿勢を示すのか、それともまったく違う姿勢を打ち出すのかにもぜひ注目したいと思います。
(写真・第80回国連総会で一般討論演説を行う石破茂首相=2025年9月23日午後、米ニューヨークの国連本部)
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