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自民党総裁選は実質的に総理大臣を選ぶ選挙です。有力候補と目されている小泉氏の発言は今後の日本を考えるうえでも無視できません。果たして解雇規制の緩和は実現されるのでしょうか。現状の議論を確認し、自分たちの将来を考える材料にしてみてください。(編集部・福井洋平)
(写真・総裁選をPRする大きな垂れ幕が掲げられた自民党本部=2024年9月2日/朝日新聞社)
小泉進次郎氏が解雇規制見直しを公約に
小泉元環境相は9月6日の立候補表明会見で、1年以内に実現する規制改革の筆頭に労働市場改革をあげ、その柱として解雇規制の見直しに言及しました。まず、解雇規制とは何でしょうか。会社の経営者など、労働者を雇う側(使用者)が一方的に労働契約を終わらせることを解雇といいますが、使用者の都合で労働者が自由自在にクビになるようだと、安心して生活が送れません。労働契約法では、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない」ような解雇は無効であると定められています。ちなみに、解雇をする際には少なくとも30日前に解雇の予告をする必要があり、予告をしない場合には30日以上の平均賃金を支払わなければいけません。あまり使いたくない知識かもしれませんが、念のため頭の片隅に置いておいてください。
(写真/iStock)
整理解雇の4要件とは
解雇が特に問題になるのは、労働者側に落ち度がないケースでしょう。使用者側が不況や、経営状態が悪くなったことを理由に行う解雇のことを「整理解雇」といいます。労働者側に落ち度がないわけですから、次の4つの要件に照らし合わせて本当に整理解雇をしていいのかどうか、厳しく判定されることになっています。
・人員削減の必要性
人員削減が、不況や経営不振といった企業経営のうえでの必要から実施されるものであること
・解雇回避の努力
配置を転換したり、希望退職者をつのったりするなど、他の方法で解雇を回避するように努力したこと
・人選の合理性
整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、運用も公正であること
・解雇手続きの妥当性
労働組合または労働者に、解雇の必要性などについて納得を得るために説明を行うこと
「希望退職」とは、企業が期間をかぎって労働者の自主的な退職を募集することで、多くの場合は退職を促進するために退職金を割り増しするなど、企業が負担を背負って行います。上記の四つの要件をみたさなければ、整理解雇は認められません。
大企業に限り整理解雇要件を緩和する
小泉氏が主張しているのは、この整理解雇の要件のうち、「解雇回避の努力」要件を見直すことです。これまで大企業は整理解雇にあたって、希望退職募集や配置転換を求められてきました。小泉氏はこれに加えて学び直し(リスキリング)や再就職支援を義務づける法改正をめざす、としました。つまり大企業に限り、希望退職募集や配置転換をしなくても、従業員に学び直しをさせたり再就職を支援したりする仕組みをつくれば、整理解雇ができるようにするということだとみられます。ちなみに労働市場改革については、同じく立候補を表明している河野太郎デジタル相も公約に取り入れています。こちらは、解雇をする際に金銭的な補償をするルールを整備するというものです。よさそうな政策に思えますが、裏を返せばお金を払いさえすれば解雇をしてもよくなる、とも取れるため、これまで労働組合がリストラを助長する危険性があるとして反対してきた政策です。
(自民党総裁選への立候補を表明し、会見する小泉進次郎元環境相=2024年9月6日/朝日新聞社)
反対意見も続出
現在行われている立憲民主党の代表選の候補者は、小泉発言に一斉に反発しています。「昭和の化石みたいな政策だ。首を切られる人が増え、日本の経済と社会はますますダメになる」(8日、枝野幸男前代表)
「自民は経営者目線でしかない。人を大事にしないことが明確になった」(8日、泉健太代表)
労働市場の流動化は必要だとした野田佳彦元首相も、解雇規制緩和ではなく「自然体の労働市場の流動化があるべき姿だ」としています。この件については、自民党総裁選に立候補した高市早苗経済安保相も「日本の解雇規制は(先進国の中でも)割とまだ緩い方だ」として、反対の姿勢をみせています。
候補者は反対意見と向き合う姿勢を
4つの要件があるとはいえ、整理解雇は禁止されているわけではありません。リスキリングや再就職支援の義務づけが大企業にとって厳しい要件とは現段階では言えず、労働組合などが懸念するように、企業が気に入らない従業員を自由にクビ切りすることができるようになる可能性は否定できません。
解雇規制緩和は、みなさんや私たちの働き方を大きく変える可能性のある政策です。明日の首相になるかもしれない小泉氏や河野氏は、私たちが納得できるような言葉をこれから発信していけるでしょうか。大きな反発が予想される政策だけに、決まった原稿を読んだり反論をブロックしたりせず、反対する人たちと真っ正面から向き合って説得する姿勢を候補者のみなさんに望みたいと思います。
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