
日本維新の会と連立し、新たな首相となった高市早苗氏。女性初の首相として今後の活躍に期待が高まっており、朝日新聞が10月25、26日に行った調査では内閣支持率は68%で、発足直後の支持率としては2001年の小泉純一郎内閣以降、3番目に高い数字となっています。
公明党の連立離脱という衝撃的事件を乗り越え、高市政権は好スタートを切ったといえそうです。
とはいえ、維新と連立しても少数与党であることにかわりはなく、政権基盤はまだ盤石とはいえません。そんな状況下で高市首相はどんな国をつくろうとしているのでしょうか。10月24日に行われた「
所信表明演説」のポイントをみてみましょう。これから社会に出ていく就活生のみなさんにとっても大切な情報だと思います。(編集部・福井洋平)
(写真・衆院本会議で所信表明演説をする高市早苗首相=2025年10月24日/写真、図版はすべて朝日新聞社)
防衛費増額の前倒しに言及

今回の所信表明演説でまず指摘されているのは、かつて長期政権を築いた
安倍晋三元首相との親和性の強調です。演説のあちこちに、安倍元首相を思い起こさせるフレーズが入れ込まれていました。たとえば演説の序盤、高市首相は「世界の真ん中で咲き誇る日本外交を取り戻す。国家国民のため、果敢に働いてまいります」と述べ、自民党議員から大きな拍手を得ています。この「世界の真ん中で咲き誇れ」というのは、安倍元首相が好んだフレーズとして知られています。このフレーズは演説終盤、外交・安全保障について触れた場面で「我が国周辺では、いずれも隣国である、
中国、
北朝鮮、
ロシアの軍事的動向等が深刻な懸念となっています。こうした国際情勢の下、世界の真ん中で咲き誇る日本外交を取り戻します」と再度使っています。
このフレーズにつなげて打ち出したのが、防衛費増額の前倒しです。
演説では「主体的に防衛力の抜本的強化を進めることが必要」と明確に述べ、防衛費を2027年度に
国内総生産(GDP)比で2%に増額するという現行目標について「
補正予算と合わせて、今年度中に前倒して措置を講じる」としました。高市政権誕生で防衛に関する産業は活性化すると期待されており、
三菱重工や
IHIなど防衛に関連する企業の株価は政権誕生後「高市銘柄」として注目されるようになっています。今後の業界トレンドを考える上でも重要な動きですので、ぜひチェックしておいてください。
「強い経済」強調、積極財政めざす

所信表明演説の序盤で高市首相は「何を実行するにしても、『強い経済』をつくることが必要」と述べ、「この内閣では、「経済あっての財政」の考え方を基本とします」「『責任ある
積極財政』の考え方の下、戦略的に
財政出動を行います」と発言。これによって「税率を上げずとも税収を増加させることを目指します」としました。
先日の就活ニュースペーパーでも触れたとおり、高市首相は総裁選時から「責任ある積極財政」を掲げており、その方針を改めて強調した形になります。ざっくりいえば、政府が大判振る舞いをして国の景気をよくしていこうという方針を明確化したわけです。具体的な政策として「最優先で取り組むことは物価高への対応」と表明し、
ガソリンの旧暫定税率の廃止法案について今国会での成立を目指す方針を示しています。また、「日本成長戦略会議」を新設し、
経済安保や
食料安保に関連する「危機管理」への投資で経済成長を図る考えも強調しています。株式市場は高市政権の積極財政姿勢を評価し、
日経平均株価は10月27日にはついにはじめて5万円を突破しました。
「強い経済」というのも安倍元首相が好んだフレーズです。経済政策を全面に打ち出しながら防衛力強化など保守的な政策を進めていくのは、まさに安倍政権の運営と重なるものです。
(写真・終値でも5万円を超えた日経平均株価を表示する画面=2025年10月27日)
財政健全化の意識もある?
一方で、防衛費の増額や財政出動など、政府支出が増える話ばかりが強調されていることは気になります。日本は支出が収入を大幅に上回る財政赤字が続いており、巨額な債務残高つまり借金を抱えている状態で、ここからさらに政府支出が増えていけば日本の財政に対する不信感が募り、財政危機にもつながりかねません。
景気がよくなり税収があがることで財政も健全化するというのが高市政権のシナリオですが、失敗すれば国を傾けかねず、まさに「責任ある」政策の遂行が強く求められます。あるエコノミストは、演説で金融政策に触れなかった点や政府債務についての表現などから「当初想定されていた金融・財政政策での拡張色を薄めている印象がある」と指摘。また政府内にも「財政規律についての言いぶりは、徐々にこれまでの政府の考え方に近づいてきている」(経済官庁幹部)といった見方があるそうです。つまり、財政赤字を減らして健全化することに対しても意識するようになっている、ということです。これからどの程度の額の予算を組み、どうやって財源を捻出していくのか、高市政権の手腕が問われます。
外国人政策の打ち出し方にも注目

高市氏といえば、総裁選時に奈良のシカが外国人に「蹴り上げられている」と発言するなど、外国人政策に対して強い意欲を示しています。今回の演説では、「一部の外国人による違法行為やルールからの逸脱に対し、国民が不安や不公平を感じている」と主張、「排外主義とは一線を画すが、毅然(きぜん)と対応する」と述べています。また、外国人による土地取得なども含め、ルールの厳格化に向けて外国人政策の担当閣僚を新設したことも演説内でアピールしました。担当となった小野田紀美経済安全保障相は総裁選で高市陣営の「キャプテン」をつとめたほど高市氏と政治信条が近く、就任会見では外国人をめぐる制度や政策の見直しを検討する考えを表明しています。
「排外主義とは一線を画す」と表明はしていますが、外国人に対する強硬な姿勢が行き過ぎれば、結局は排外主義につながりかねません。どの程度国内外が納得できる政策を打ち出していくか、注視していく必要があるテーマです。立命館大の上久保誠人教授(現代日本政治)は朝日新聞のインタビューで、「国内外から向けられている高市氏への懸念を払拭(ふっしょく)するような要素は、今回の所信表明には乏しかった。政府に対する信頼がなければ、高市氏が掲げた政策の多くは実現が困難だろう」と指摘しています。高市氏が強調する「世界の中心で咲き誇る」日本をつくれるのか、外国人政策の打ち出し方にも今後注目が必要です。
(写真・就任後初の記者会見をする小野田紀美・外国人政策担当相=2025年10月22日)
連立相手の維新、野党にも配慮姿勢
高市氏が総裁となったことを受けて公明党が連立を離脱。新たに連立相手となった日本維新の会は大臣や副大臣などを出さない「閣外協力」となるなど、政治の情勢は流動化しています。引き続き少数与党となっている高市首相は今回の演説で、連立相手である維新を中心に他党への配慮を示す表現も盛り込んでいます。たとえば維新がこれまで訴え、連立合意書にも記された社会保険料の負担軽減。首相は演説で「社会保障制度改革を進めていく中で、現役世代の保険料負担を抑えます」と明言しています。また、野党の強い反発が予想される議員定数の削減やスパイ防止法の検討についての言及はありませんでした。衆参で安定的な多数を維持していた安倍政権時と違い、野党側とも丁寧に議論、合意形成を進めていくことが高市政権には求められています。
高市氏は今回の原稿を何度も推敲して演説に挑んだそうです。さっそく米トランプ大統領と会談するなど大きな山場が続きますが、これからどういった「高市カラー」を打ち出していくか、ぜひ注目してください。
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