2025年12月24日

高市政権ではじめての「税制大綱」 自動車税制、年収の壁、住宅ローン減税…… ぜひ関心もって【イチ押しニュース】

テーマ:経済

 与党の自民党日本維新の会が12月19日、「与党税制改正大綱」をとりまとめました。税金の仕組みを変える方針のことで、みなさんの生活や今後の経済にも影響を与えるものです。特に今年は、いわゆる「積極財政」をすすめ減税志向の強い高市早苗首相が就任後はじめての税制大綱ということで、大きな注目をあつめていました。ポイントは・自動車をめぐる税制の見直し ・いわゆる「年収の壁」引き上げ ・防衛費を増やす財源としての所得税増税 などです。「高市色」はどの程度税制にあらわれたのか、ぜひポイントをつかんで今後の社会の流れや自分の生活を考える材料にしてください。(編集部・福井洋平)
(写真・2026年度税制改正大綱の文書を持ち、写真撮影に臨む自民党の小野寺五典税調会長(中央右)と日本維新の会の梅村聡税調会長(同左)ら=2025年12月19日/写真、図版はすべて朝日新聞社)

高市政権で自民党税調会長を「更迭」

 そもそも、税制大綱とは何でしょうか。

 税金の仕組みをどう変えていくかについては、毎年夏に各省庁や業界団体などが要望を提出するところからスタートします。それらを受けて翌年度の税制について検討するのが、自民党の「税制調査会」(税調)という組織です。ここが話し合いを重ね、連立を組む与党の要望などもふまえて「与党税制改正大綱」という文書にまとめます。これがほぼそのまま政府の方針となり、年明けの国会に法案として提出され、成立すると税金の仕組みが変わる――という流れになっています。「自民党税調」は税金の仕組みを決めるうえで重要な組織であることがわかります。

 自民党の税調会長は、8年にわたって宮沢洋一参院議員がつとめていました。宮沢氏はいわゆる「財政規律」派として知られ、財源のあてがないような減税案は通さない姿勢を打ち出してきました。高市首相は、減税や政府の財政出動などを通じて市場にお金をどんどん流通させていく「積極財政」派です。そのため宮沢氏を党税調会長から「更迭」(やめさせること)し、税調経験のない小野寺五典衆院議員を会長にすえました。これまで少数の専門家が仕切ってきた税調のあり方を変え、「国民目線で開かれた税調」(小野寺会長)をめざすという目的がありましたが、実態は高市首相の意向が強く反映される税調になったと朝日新聞の記事は指摘しています。

 また、いま自民党は参院で過半数割れしており、国会で法案を通すには野党の協力が不可欠です。そのため、税制大綱には野党である国民民主党の意向が強く反映されたといいます。

自動車の「環境性能割」なくなる

 こういった事情から、今回の税制大綱はこれまでとは違う方向性が打ち出されるのではないか、と注目を集めていました。では具体的な内容はどうなったのか、見てみましょう。

① 自動車をめぐる税制見直し
 今回の改正では、自動車を買うときにかかる自動車税の「環境性能割」が2026年度から廃止されることになりました。これは高市氏が自民党総裁選時に2年間の停止を訴えていたもので、まさに「高市色」のあらわれです。

 環境性能割は、燃費など環境への負荷に応じて支払う税のことです。いまは、車を買うときに車両価格の0~3%を、消費税とは別に払っています。これをなくすことで自動車の買い替えをうながし、トランプ関税の逆風をうける自動車業界の支えにするという狙いがこめられています。

 一方、いまガソリン車よりも税負担が低いとされているEV(電気自動車)については、新しい負担を求める仕組みを導入します。たとえばエンジンの排気量に応じて払う自動車税の「種別割」について、EVはこれまでもっとも安い負担のみでしたが、車の重さに応じて負担する仕組みに切り替えます。これはガソリン車よりもEVが重い傾向があり、道路を傷めやすいとされているため、もっと負担を求めるべきだという指摘を受けての変更です。

年収の壁引き上げ、一方で防衛増税も

②年収の壁を160万円から「178万円」に引き上げ
 2024年の衆院選で国民民主党躍進の原動力となった「年収の壁」問題。所得税がかかりはじめるラインを引き上げることで、実質的に減税となります。また、税金がかからないように仕事量を抑える、いわゆる「働き控え」をなくすという効果も期待されています。

 昨年までは103万円だった「壁」は、今年度から160万円に引き上げられています。今回の税制大綱では、これを国民民主党が主張する「178万円」まで引き上げることになりました。自民は当初、年収が高くなるにつれて追加的な控除の上げ幅を縮小し、税収減を抑えようとしていましたが、結局、国民民主の意向をくみ2年間の時限措置として、基礎控除の額を年収665万円以下は同額となるまで引き上げました。基礎控除の額は年収によって差があり、高所得になるほど控除の額は減っていくのですが、これを同じにしたわけです。これにより、年収665万円を境に控除額が急減するいびつな構造となり、前後で手取りが逆転することになります。

③防衛増税
 減税の話がつづきましたが、一転して増税になるのが所得税。所得税額に1%を上乗せする「防衛特別所得税(仮称)」が新設されます。そのかわりに、東日本大震災の復興財源として課している「復興特別所得税」の税率を1%分下げて、当面は実質的な負担が増えないようにしています。高市首相は防衛費の増額に意欲を見せており、今後も防衛費の財源をどうするかという議論は続きそうです。

中古住宅の住宅ローン減税拡大、暗号資産減税も

④その他
 ほかに、下記のようなトピックがあります。
・住宅ローン減税、中古の適用拡大……ローンを組んで家を買う際、所得税が一定期間戻ってくるという「住宅ローン減税」という仕組みがあります。いまはざっくりいえば新築住宅を買うほうが有利な仕組みになっていますが、中古住宅を買う際にも使いやすいように変更します。首都圏では住宅価格が高騰していますが、比較的買いやすい中古住宅の購入を後押しする目的があります。

・暗号資産 一律20%に減税
 暗号資産(仮想通貨)の取引で得た利益にかかる所得税はこれまで最大55%の税率がかかっていましたが、金額の大きさにかかわらず一律20%に減税します。これにより、市場を活性化させるねらいです。

・高校生扶養控除 控除額の縮小を見送り
 高校生年代(16~18歳)の子どもを持つ親の税負担を軽くする「扶養控除」という仕組みについて、児童手当が拡大されたことから控除額を引き下げることが検討されていました。しかしこの方針が報じられた直後にSNSで批判が噴出し、高市早苗首相はXで報道を否定、結果的に縮小は見送りとなりました。ここも、高市カラーが色濃く出た分野といえるでしょう。

 減税志向といわれてきた高市政権ですが、今回の税制大綱に先行して決まったガソリンと軽油の旧暫定税率の廃止による税収のダウン(年1.5兆円)を穴埋めする必要もあり、さまざまな増税策も打ち出されています。今回の改正で税収が増えるか減るかはいま精査中とのことです。

政治の激動が税制にも影響

 自動車税制や住宅ローン減税の見直し、暗号資産減税など、税制の変更によって政府がなにを後押ししようとしているかが見えてきます。ライフプランやビジネスを考えるうえでも、税制改正の方向は知っておいて損はない知識です。

 衆議院、参議院での与党過半数割れ(現在は衆議院は与党が過半数確保)から首相交代、公明党の連立離脱、日本維新の会の与党入りと政治の世界で激動が続き、その影響がこういった税制改正にも表れています。今後の日本はどう変化していくのか、こういったニュースを材料に考えてみてもいいかもしれません。

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