2025年11月27日

朝日新聞の記事で、半導体業界の就職事情を知ろう【就活イチ押しニュース】

テーマ:経済

日本はながらく競争力が低迷

 そもそも半導体とは、電気を通す「導体」と、通さない「絶縁体(ぜつえんたい)」の中間的な性質をもつ物質のことです。この物質を使うことで、電子の流れを制御するのです。この性質を使ってつくられるICチップなどの部品も半導体と呼びます。AIや高速通信の5Gなど最先端技術に半導体は欠かせません。アメリカのコンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーは、半導体の世界市場は2030年に1兆ドル(150兆円)と現状から3割増えるという見通しを示しています。AIの開発や運用に欠かせない先端半導体を製造しているアメリカの半導体大手エヌビディアは、2025年10月末に時価総額が世界ではじめて5兆ドルを上回りました。

 たいへん景気のいい半導体業界ですが、日本はながらく競争力が低迷してきました。1990年代までは世界のトップを走っていたのですが、技術革新の波を乗り越えるのに必要な投資を十分に行うことができず、1990年代末から2000年代にかけて電機メーカーが相次いで撤退。2003年には日立と三菱電機の合弁会社ルネサステクノロジ(現ルネサスエレクトロニクス)が誕生するなど再編が進み、官民一体のプロジェクトもいくつか走りましたが、目立った結果が出たとはいえない状況でした。

政府の巨額支援受けるラピダスに注目

 この潮目がかわったのが2020年前後です。AIの進化が加速しはじめ、また半導体を海外に依存する経済安全保障上のリスクも顕在化し、半導体の重要性が高まってきました。これをうけて政府も戦略を強化し、半導体エンジニアの求人数も急速に伸びていきます。

 ルネサスエレクトロニクスや東芝から派生したキオクシアなどのメーカーがしのぎをけずっていますが、いま日本の半導体産業で注目を集めているのが2022年に政府の肝いりで誕生したラピダスです。経済産業省が旗を振り、最先端半導体の量産をめざしています。これまで政府は1.7兆円の支援を決め、2026~27年度に約1兆円を追加支援する方針も明らかにしています。くわえて2025年度中に1千億円、2026年度にはさらに1500億円以上の出資も予定しています。政府の入れ込みようが伝わってくる数字ですね。拡大期ということもあり人材獲得にも積極的で、現在の社員数は約1千人ですが目標どおりに2027年に量産を始められれば2千人体制に増やす計画といいます。将来をみすえ、新卒採用にも力を入れ始めました。
(写真・次世代半導体の量産をめざす「ラピダス」の工場=2025年6月12日、北海道千歳市)

TSMCは優秀人材の現地採用強化

 一方、ラピダスと人材獲得を争っているのが台湾のTSMCです。ここは「ファウンドリー」という業務形態をとっていて、自前の工場を持たない「ファブレス」と称される半導体の開発・設計企業から発注を受け、製品を生産しています。ラピダスもこういった受託生産をめざしていますが、TMSCは受託生産ですでにトップの地位を確立し、時価総額の世界トップ10にも食い込むなど同業他社に大きく差をつけているのです。

 TSMCは2020年に横浜市、2022年に大阪市にデザインセンター(DC)を開設しました。DCは世界5カ国にあり、いずれも優秀な人材を現地採用しています。日本の2拠点では現在計約260人が働いていますが、400人体制に増やす計画だそうです。新卒も2023年以降は10~20人を採っています。

 ラピダスは現時点ではまだ半導体量産ができおらず、経営は巨額の政府投資に頼っています。そのため新卒の基本給についても、大盤振る舞いしづらい状況にあります。一方、待遇が悪すぎてもTSMCなどのライバルに人材を持っていかれることから、待遇の設定には難しさがつきまとっているようです。
(写真・台湾積体電路製造(TSMC)のロゴマーク=横浜市西区)

半導体製造メーカーは日本が強い

 半導体の業界には、こういった半導体を設計・製造するメーカーのほか、半導体をつくる機械を製造する製造装置メーカーもあります。日本はこの分野では強く、世界シェア3割程度を誇っています。製造装置国内首位の東京エレクトロンや、検査装置の世界最大手であるアドバンテスト、洗浄装置に強みをもつSCREENなど、いずれも業績好調で日本の株式市場も牽引する優良企業です。東京エレクトロンについては、「就活ニュースペーパー」で昨年採用担当者にインタビューしていますので、興味のある方はぜひ確認してみてください。このほか、半導体の基板になるシリコンウェハーは信越化学工業が世界トップシェアです。

 低迷していた日本の半導体産業ですが、AIブームと国策により、人材採用競争も活発になっています。周辺の産業にも波及していくことが見込まれます。いま半導体業界にはどういったプレイヤーがいるのか、伸びているのはどの企業なのか、強みは何なのか。業界を志望している就活生以外も知識をつけておくことで、今後のビジネスの展開を見据えられるようになると思います。ぜひ関心をもってニュースをチェックしてみてください。

◆朝日新聞デジタルのベーシック会員(月額980円)になれば毎月50本の記事を読むことができ、スマホでも検索できます。スタンダード会員(月1980円)なら記事数無制限、「MYキーワード」登録で関連記事を見逃しません。大事な記事をとっておくスクラップ機能もあります。お申し込みは
こちらから

アーカイブ

テーマ別

月別