
医療や福祉、運輸や接客業など、日々の暮らしを支える仕事。コロナ禍で特に注目を集めるようになり、「
エッセンシャルワーカー」という呼び名も定着しました。年末年始も、こういった方々の仕事のおかげで暮らしが支えられていると実感します。
しかし、そんな大切な仕事であるにもかかわらず、賃金は十分な水準にあるとはいえません。政府はエッセンシャルワーカーの待遇についてはじめて調査した結果を2025年9月に公表しましたが、それによると平均賃金は他の職種に比べて100万円低く、50代後半では200万円差に広がっているといいます。そのため、人手不足も深刻な状態です。なぜこのようなことになっているのか、就活生であるいまだからこそじっくり考えてみたいテーマだと思います。(編集部・福井洋平)
(写真・介護や保育などを支える「ケア労働者」の労働組合の会見。厚生労働省へ賃上げの必要性を訴えた=2025年11月20日/写真、図表は朝日新聞社)
50代後半で200万円の年収差

冒頭のデータが示されたのは、厚生労働省が9月に公表した「労働経済の分析(労働経済白書)」です。毎年公表されていますが、今回の白書では人手不足に注目して分析をしています。エッセンシャルワーカーとされる医療・福祉、運輸・建設、接客・調理などの職種について「社会インフラ関連職」と定義し、約2200万人を対象として調査しました。
その結果、社会インフラ関連職の平均の年間所得は436.1万円で、それ以外の職種の540.6万円と比べて104.5万円低いということがわかりました。さらに年齢に応じた賃金上昇幅が小さいことも明らかになっています。20代前半までは社会インフラ関連職のほうが年収が高いものの、賃金上昇がおさえられており、20代後半から逆転、50代後半では約200万円の差が生じているとのことです。白書では、「着実に処遇が改善される仕組みを整えることが重要だ」と指摘しています。
ちなみに白書では社会インフラ関連職を①医療・保健・福祉 ②保安・運輸・建設 ③接客・販売・調理の3カテゴリーにわけていますが、平均所得は①が467万円、②が447万円なのに対し、③は367万円と、相対的に低くなっていることも明らかになりました。
世界的な傾向にも
今回の調査で、エッセンシャルワーカーの待遇の悪さがはっきりとデータで明らかになりました。この傾向は日本にとどまらず世界でも同様で、国際労働機関(ILO)が生活に不可欠なサービスに従事する労働者=キーワーカーを対象にした2023年の報告書では、平均賃金が他の業種よりも26%低いことがあきらかになりました。さらにこの差の3分の2は学歴や経験の差で説明がつくが、のこり3分の1は説明がつかない格差だったといいます。賃金だけでなく、長くて不規則な労働時間や不安定な雇用、有給の病気休暇の取りにくさといった課題も指摘されています。
エッセンシャルワーカーの賃金が低くなる理由について、朝日新聞の記事で田中洋子・筑波大名誉教授(経済史・労働政策)は経営側の儲けにつながる金融コンサルタントや企業ロビイストなどが高給を得るようになる一方、人を助けるような社会に不可欠な職業が儲けにつながらないとして冷遇されてきた、と分析しています。くわえて医療や介護の分野では、社会保障費を削る動きも待遇の悪さを後押ししている状況です。
12業種で生産性向上のため投資促進

国も、待遇改善に乗り出しています。エッセンシャルワーカーの多くは中小企業勤務ということで、その生産性をあげるために、2029年度までの5年間で官民合わせて約60兆円の投資を促します。特に12の業種については計画を掲げて、投資と賃上げを推進するとのことです。具体的には、下記の12業種です。
1. 飲食業
2. 宿泊業
3. 小売業
4. 生活関連サービス業
5. その他サービス業
6. 製造業
7. 運輸業
8. 建設業
9. 医療
10. 介護・福祉
11. 保育
12. 農林水産業
生産性向上のためには業務の効率化が必要で、そのカギとなるのがデジタル化です。具体的には2029年までに介護ロボットなどのIT機器を9割の事業所に導入し、物流業界では配車計画や運行ルートの作成を電子化して荷待ち時間の減少をめざすといいます。さらに 飲食業や宿泊業ではモバイルオーダーや配膳ロボット、自動チェックイン機の導入で労働生産性を35%向上させる目標をたてています。今後、上記の業界では投資の促進、働き方の大きな改善が進められていくことが予想されます。こういった業界のサービスを利用する側としても、その業界で働く側としても、この政府の動きは見逃せません。今後どういった変化が起こっていくか、ぜひ注目していきたいところです。
企業、政治が変わる必要性

前述の田中氏は朝日新聞のインタビューで、「日本は既成の仕組みを『絶対』と考え、その仕組みの中でなんとかしようとする人が多い」とし、その結果エッセンシャルワーカーが「構造的に過重労働と低賃金に追い込まれて」いると指摘しています。低賃金でもしょうがない、ではなく「企業が発想を転換して自ら制度を変えたり、政治の力で、介護報酬などの仕組みを働く人本人に十分なお金が届くように変えていったり、できることはあるはず」と田中氏は語ります。企業や政府が変わるためには、サービスの利用者として、また有権者として意識を変えていくことも必要と感じます。エッセンシャルワーカーが安定した収入を得られる仕事になり、人手不足に悩まずにすむようになることは、日本経済全体の安定にもつながります。エッセンシャルワーカーの問題を他人ごとととらえず、ニュースをチェックして考える機会をぜひつくってほしいと思います。
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