言葉マイスター ナカハラハラハラ 略歴

2014年11月12日

「煮抜き」はうまいが「い抜き」はまずい~話し言葉に気をつけようその2

 前回に続き、少し方言の話を。私が関西人なのは前回お話ししました。会社に入るまでずっと関西にいたのですが、自分では方言と思っていなかった言葉が関東では通じず、驚いたことが何度かあります。例えば、「かしわ=鶏肉」「みずや=食器棚」「ほかす=捨てる」など……。

 (正確には前二つは「古語」と言うべきで方言とは言い切れないのですが、まあ関西で使われることが多いので)

 一方、自分では使いませんが意味の分かる関西弁、というのもあります。「煮抜き」がその代表格。おそらく関東の人は全く分からないでしょう。これは「ゆで卵」のことです。

 「煮抜き」はおいしいのですが、「い抜き」は困る。今日はその話から始めたいと思います(おまけだけじゃなくて前置きも長くなってきたな……苦笑)。

 「このテニスサークルでのつらい経験が、今の私を作ってるのだと思います」
 「未来の日本の行く末について、真剣に考えてる先輩を見習いたい」
 「1日5冊本を読んでます。もう5年続けてる日課です」

 いずれも会話で出てくる分には、違和感なく口にしたり耳にしたりしますね。でも文字で見るとどうでしょう? ちょっと落ち着かない感じがしませんか。これが「い抜き言葉」です。以前お話しした「ら抜き」ほどポピュラーではありませんが、これもいわゆる「話し言葉」の典型です。
 書き言葉としては、それぞれ「作っている」「考えている」「読んでいます/続けている」とした方が良いですね。

 また、話し言葉では使いがちな身近な人への敬称や丁寧過ぎる言葉使いも、公的な文書や発言にはそぐいません。

 「お父さん、お母さん」→「父、母」(おじいちゃん、おばあちゃん→祖父母、おじさん、おばさん→叔父叔母・伯父伯母も同様)
 「お昼ご飯」→「昼食」

 話し言葉だと意識しないでつい書いてしまう例は他にもあります。以下の文章はどうですか?

 「就活を頑張っているみたいだけど、そんなことは問題じゃない」
 「そのくらいで何とかなるんだったら、すごいうまくいっているはずだ」

 ずいぶん上から目線の物言いですね。こんなこと言われたらMK5(前回参照。笑)ですね……なんて冗談はさておき。 

 「~みたい」は話し言葉。「~のようだ」としましょう。「~だけど」は「~だが」や「~だけれど」に。
 「そんな(こんな)」は「そういう(こういう)」とする。「~じゃない」は「~ではない」に。

 「~だったら」は「~であれば(~ならば)」。「すごい」は「すごく」でもいいですが、「とても」や「非常に」の方が書き言葉らしくてより良いです。

 改めて書き直しましょう。

 「就活を頑張っているようだが、そういうことは問題ではない」
 「そのくらいで何とかなるのならば、非常にうまくいっているはずだ」

 どうですか。ずいぶん印象がきちっとしましたよね?

 就活は「オトナ」の一歩を踏み出すための側面も持っています。当たり前ですが、会社は「オトナ」が働く場所だからです。「コドモ」気分の話し言葉を使っているような人は必要とされません。初回に話したように、「身についていない」言葉はかえって見苦しいものですが、やはりドレスコードは必要なのです。

 少し意識を研ぎ澄まして、「オトナの」装いが出来るように努力しましょう。

今週のおまけ ~ドラマと主題歌、愛の伝え方が違います~

 「い抜き」は話し言葉としてはむしろ「自然」ですから、当然歌詞やセリフ、タイトルには山のように出てきます。ですから、今回は逆に「入っている」印象的な作品を取り上げましょう。

 ドラマ「愛していると言ってくれ」。1995年の作品です。

 <最高視聴率28.1%を記録した豊川悦司・常盤貴子主演、北川悦吏子脚本の名作。聴覚に障害のある新進青年画家と、女優を目指す若い女性との純粋で繊細なラブストーリーを描く。主題歌はDREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE」で、こちらも大ヒットを記録した>(TBSチャンネルより)

 私は当時23歳でしたが、いやぁ泣いた泣いた。本当に素晴らしいドラマです。北川さんの脚本作品では「ビューティフルライフ」「ロングバケーション」と並ぶ名作だと思います。
 見たことのない方がいるかもしれないので、中身についてとやかく言いませんが、タイトルは「愛してる」でなく「愛している」。その重みを感じさせる作品です。

 ……ところがドリカムの主題歌(こちらも素晴らしい)の歌詞は「愛してる」。不思議というか面白いですね(笑)。