・俗に、人に対して露骨に見下した態度を取ること。また、組織の上の者が下のことを理解しないで考えを押しつけること。
とあります。最近だと、沖縄県の普天間飛行場を辺野古へ移設する工事を巡り、
「上から目線の『粛々』という言葉を使えば使うほど、県民の怒りは増幅していく」
と、翁長雄志(おなが・たけし)県知事が菅義偉(すが・よしひで)官房長官に投げかけた件で思い出す人も多いのではないでしょうか。
この言葉自体はそれほど古くからあるわけではなく、「上から目線」で朝日新聞の記事を検索すると、2006年12月に初めて登場します。世間で広く使われるようになって、まだ10年にもならないというわけです。
ではここで、ちょっと私からのメッセージを読んでみて下さい。
「いつもご愛読ありがとうございます。この連載を全部読んでいる人は、就活での言葉選びはもう万全でしょう。ES通過はもちろん、面接も最終まで残って当然ですね」
どうですか? イラッとしましたか? すいません、わざと「上から」を強調して書いてみました。もっとも、それほど腹立たしさを感じなかった人もいるかもしれません。それは恐らく「(就活生である)皆さん」が「私」より立場が「下」だと自覚しているからでしょう。
翁長知事の発言で議論になりましたが、そもそも「粛々」は「おごそかなさま」「しずかなさま」を表す言葉で、それ自体に見下す意味はありません。移設の是非はさておき、まず沖縄県民の気持ちに寄り添おうとしない(ように見える)政府の「姿勢」に対して「見下された」と、知事は感じたのでしょう。
そこで私の例文(?)です。これも、文章そのものは極めて丁寧なものです(自分で言うな……苦笑)。ではどこが良くないのか。そう。文末の「当然」ですね。ここには「そうでない人はあり得ない」という排除の論理、「決めつけ」があります。これが「上から」を感じさせるわけです。
実はこれ、みなさんの就活においても同様の危険性があります。
「え?『採用される』立場として、へりくだり過ぎて変になることがあったとしても、『上から』はありえないでしょ」
という声が聞こえてきそうです。しかし、グループディスカションや面接で
「常識的に考えて~」「普通は~」
と言うこと、ありませんか。もちろん文脈次第で、そういう言葉が出るときもあるでしょう。ただ、これが口癖だという人はちょっと気をつけた方が良いと思います。なぜならこの言葉は、知らず知らずのうちに、「自分の基準」を他者に押しつけていることにつながるからです。
あなたの考える「常識」が他者の「常識」と違うことなんてざらにあります。自分の知っていることが、他者の知っていることといつでも重なるわけではありません。
これもグループディスカッションでたまに見かけるのですが、とにかく「意見の否定から入る」話し方をする人。これも良くありません。自分の意見を強く印象づけたい、その積極性は買いたいし大事ですが、もっとうまいやりかたがあるはずです。
「なるほど、あなたの考え方は***ということですね。では、※※※というやり方はどうでしょうか」
相手を受け入れた上で自分の意見もきちんと提示する。とにかく生き馬の目を抜いてでも自己を売っていくとも言われる外資系やベンチャーならまだしも、多くの日本企業はやはり「協調性」「他者の尊重」を重要視するものです。そもそも、グループディスカッションはディベートとは違います。「勝ち負け」が問われているのではないのです。(あさがくナビで連載中の「パックンの就活ワークショップ」8回目「グループディスカッション、通過するコツは?」もご覧ください。下にリンクがあります)
ちょっと話が就活からはそれますが、新聞を始めとするマスコミ各社は、鉄道・航空会社の「ダイヤ改正」を「改定」と表記するように心がけています。なぜか分かりますか? ダイヤ変更は、利用者にとってプラスになることが多いものです。しかし不便になる人もゼロではありません。例えば今まで急行が止まっていた駅が、全体のスピードアップのために止まらなくなるとか……。そこで「改正」というプラスの意味を持つ言葉ではなく「改定」というニュートラルな言葉に言い換えるのです。これもひとつの「上から目線」回避策というわけです。
「他者の=弱者の」視点に立てるか。就活にも通じることだと思います。