言葉マイスター ナカハラハラハラ 略歴

2015年04月30日

ミスをみすみす見逃さないために ~校閲の話・その3

 タイトルはダジャレですね。すいません(笑)。

 過去2回、校閲の仕事の説明などを通して、「人はいかに間違える(そしてそれに気づかない)生き物か」という話をしてきました。じゃあ実際のところ、どうやったらその間違いを無くせるのか。皆さんが知りたいのはまさにそこだろうと思います。

 一生懸命書いたESや作文。その誤字脱字を無くすにはどうしたらいいのか! 答えは……。

 「 自 分 で は 無 理 。 」

 以上です。さよなら。

 ……さすがにこれじゃ怒られるか(苦笑)。でもこれは一番の真実です。要は、

 「自分で書いた文章を自分で校閲しても、誤りを見つけられる可能性は極めて低い」

 ということです。我々校閲記者は日々「他人」である社会部や政治部の記者が書いた原稿を読んでいます。第三者として思い入れや思い込みを排し、フラットな気持ちで読む。だからこそ「校閲」が成り立つのです。ですから仕事で校閲に関する原稿などを書いた際も、原則「自分で」ではなく、先輩後輩問わず職場の誰かに見てもらいます。なんせ我々ほど「人の書いたものが危ない」ことを知っている職業はありませんから(苦笑)。

 つまりその意味では……

 1:他人に読んでもらう

 これはとても有効です。例えば前回書いた変換ミス。「書き手」は間違った方を使っていても脳内で正しい方に変換してしまう。誤字や脱字もそう。自然に「補って」しまう。なぜならその文章(=完成品)が頭の中で出来上がっているから。
 一方、初めて読む人はそのワナに陥る心配がない。友人・家族・先輩や後輩。「中身」のアドバイスもありがたいですが、そもそも「文章」としてどうか、という意見をもらってみましょう。「間違い」だけでなく、過去にも何度か書いてきた「過剰な繰り返し」や「締まらない長文」などといった、自分では気づきにくい悪癖も指摘してくれる可能性大です。

 とは言え忙しい毎日。誰かに頼む暇や余裕もない。一人暮らしの下宿で、明日朝一にESや作文を提出しなきゃならんのだ! という人もいるでしょう。
 そう言う場合でも、絶対にやってほしいことは……

 2:パソコンならプリントアウト。手書きならコピーをとる

 必ず「紙で」チェックするということ。そして鉛筆でもペンでもいいから(できれば色つきが望ましいです)、線を引きながら一字一句を押さえて(文節ごとに区切るとよい)単語ベースで意味をかみしめながら読み直すこと。これだけでも全然違います。

 3:2度目以降の紙チェックは形式を変える

 余裕があって複数回チェックできるなら(というかするべきなのですが)、同じ形式でやるより何かしら形を変えましょう。例えば、

 ・フォントを変える
 ・縦書きを横書きにする(あるいはその逆)
 ・文字ポイントを大きく(or小さく)する
 ・文字取り(=1行あたりの文字数)を変える

 上記したように「初めて」見る形にすると、新鮮な目で見ることができます。特に文字取りの変更はオススメです。脱字や衍字(えんじ、語句の中に誤って入った不必要な文字のこと。「話したた」とか「語っった」など)は行またぎで起きると見逃すことが多いものです。

 なに?プリンターが家にない?きょうびモノクロプリンターで中古ならそんな高くもないでしょう(汗)。仕方ない。そう言う場合は……

 4:音読する

 黙読はまさに「脳内」で完結してしまいます。前回冒頭で引用した、文字を前後入れ替えた奇妙な文章も、声に出すと明らかに引っかかるはずです。ペンはないけれど、一文字一文字を「押さえる」からですね。
 そして実は一番声を大にして言いたいのは……

 5:時間を置いて読み直す

 何事も「余裕」をもって。勉強でも仕事でも一緒です。バタバタで作ったものが良いわけがない。確かに「勢い」はある種の「力感」を生みますが、ビジネス文書に(毎度しつこく言っていますが、ESは皆さんが最初に書くビジネス文書です)そんなものは要りません。必要なのはあくまで事実とデータ、客観的な説得力です。

 あなたの伝えたいこと、売り込みたいこと。最初は書き殴りでもいい。それをしばらく寝かせてから読み返すことで、誤字脱字はもちろん、優先順位や「見せ方」についても色々と気づくはずです。

 皆さんが魂を込めて書くESや作文です。せっかくならより完成度の高いものをめざしましょう。

 いったん校閲の話は今回で筆を置きますが、また折を見て色々とお伝えできれば、と思っています。

今週のおまけ ~「真夜中のラブレター」に気をつけて~

 上で書いたことを真っ向否定するようですが(笑)、実は思いの丈をぶつけるような文章だって、頭を冷やした方がいいんですよね。
 「真夜中のラブレター」という言葉があります。副交感神経の働く夜は、理性より感情が強くなってしまって、普段だったら絶対書かないような赤面モノの文章を書いてしまう、という現象を指します。
 だから朝一で投函したらダメだよ、という戒めでもあるわけですね(笑)。

 ビジネスの世界でも、夜中に書いたメール(特に苦情や指摘など)は感情的になりがちだから、一度保存して朝見返した方がいいと言われています。

 ちなみにaikoさんの5枚目のアルバムは「暁のラブレター」(名盤!)というタイトルです。収録されている楽曲の大半が夜半に作られた、という文字通りの意味に加え、まさに夜中のラブレターのように(恥ずかしい中身かもしれないけれど)思いをそのまま聴き手に届けたい、という意図もあるそうです。

 3曲目に収録されている、13枚目のシングルでもある「アンドロメダ」には何度も泣かされました(苦笑)。

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