過去2回、校閲の仕事の説明などを通して、「人はいかに間違える(そしてそれに気づかない)生き物か」という話をしてきました。じゃあ実際のところ、どうやったらその間違いを無くせるのか。皆さんが知りたいのはまさにそこだろうと思います。
一生懸命書いたESや作文。その誤字脱字を無くすにはどうしたらいいのか! 答えは……。
「 自 分 で は 無 理 。 」
以上です。さよなら。
……さすがにこれじゃ怒られるか(苦笑)。でもこれは一番の真実です。要は、
「自分で書いた文章を自分で校閲しても、誤りを見つけられる可能性は極めて低い」
ということです。我々校閲記者は日々「他人」である社会部や政治部の記者が書いた原稿を読んでいます。第三者として思い入れや思い込みを排し、フラットな気持ちで読む。だからこそ「校閲」が成り立つのです。ですから仕事で校閲に関する原稿などを書いた際も、原則「自分で」ではなく、先輩後輩問わず職場の誰かに見てもらいます。なんせ我々ほど「人の書いたものが危ない」ことを知っている職業はありませんから(苦笑)。
つまりその意味では……
1:他人に読んでもらう
これはとても有効です。例えば前回書いた変換ミス。「書き手」は間違った方を使っていても脳内で正しい方に変換してしまう。誤字や脱字もそう。自然に「補って」しまう。なぜならその文章(=完成品)が頭の中で出来上がっているから。
一方、初めて読む人はそのワナに陥る心配がない。友人・家族・先輩や後輩。「中身」のアドバイスもありがたいですが、そもそも「文章」としてどうか、という意見をもらってみましょう。「間違い」だけでなく、過去にも何度か書いてきた「過剰な繰り返し」や「締まらない長文」などといった、自分では気づきにくい悪癖も指摘してくれる可能性大です。
とは言え忙しい毎日。誰かに頼む暇や余裕もない。一人暮らしの下宿で、明日朝一にESや作文を提出しなきゃならんのだ! という人もいるでしょう。
そう言う場合でも、絶対にやってほしいことは……
2:パソコンならプリントアウト。手書きならコピーをとる
必ず「紙で」チェックするということ。そして鉛筆でもペンでもいいから(できれば色つきが望ましいです)、線を引きながら一字一句を押さえて(文節ごとに区切るとよい)単語ベースで意味をかみしめながら読み直すこと。これだけでも全然違います。
3:2度目以降の紙チェックは形式を変える
余裕があって複数回チェックできるなら(というかするべきなのですが)、同じ形式でやるより何かしら形を変えましょう。例えば、
・フォントを変える
・縦書きを横書きにする(あるいはその逆)
・文字ポイントを大きく(or小さく)する
・文字取り(=1行あたりの文字数)を変える
上記したように「初めて」見る形にすると、新鮮な目で見ることができます。特に文字取りの変更はオススメです。脱字や衍字(えんじ、語句の中に誤って入った不必要な文字のこと。「話したた」とか「語っった」など)は行またぎで起きると見逃すことが多いものです。
なに?プリンターが家にない?きょうびモノクロプリンターで中古ならそんな高くもないでしょう(汗)。仕方ない。そう言う場合は……
4:音読する
黙読はまさに「脳内」で完結してしまいます。前回冒頭で引用した、文字を前後入れ替えた奇妙な文章も、声に出すと明らかに引っかかるはずです。ペンはないけれど、一文字一文字を「押さえる」からですね。
そして実は一番声を大にして言いたいのは……
5:時間を置いて読み直す
何事も「余裕」をもって。勉強でも仕事でも一緒です。バタバタで作ったものが良いわけがない。確かに「勢い」はある種の「力感」を生みますが、ビジネス文書に(毎度しつこく言っていますが、ESは皆さんが最初に書くビジネス文書です)そんなものは要りません。必要なのはあくまで事実とデータ、客観的な説得力です。
あなたの伝えたいこと、売り込みたいこと。最初は書き殴りでもいい。それをしばらく寝かせてから読み返すことで、誤字脱字はもちろん、優先順位や「見せ方」についても色々と気づくはずです。
皆さんが魂を込めて書くESや作文です。せっかくならより完成度の高いものをめざしましょう。
いったん校閲の話は今回で筆を置きますが、また折を見て色々とお伝えできれば、と思っています。