言葉マイスター ナカハラハラハラ 略歴

2015年04月01日

人間は間違える生き物 ~校閲の話・その1

 今日から新年度。たまたまですが、この連載も30回目。キリ番ですね(10も20も特に何もしませんでしたが。苦笑)。アルバイトを始めたり学年が一つ上がったりして、皆さんの周りも何かしら新しくなったことと思います。

 私事ではありますが、実は私も今日から「新しく」なりました。2年間席を置いた教育総合本部から、古巣である編成局校閲センターに戻ったのです。(残念ながらエイプリルフールではありません……)

 「それに伴いこのコラムも終了」と思ったのですが、さすがに掲載開始から1年も経っていないのに終わるのはいかがなものかという使命感(!)と、私が「もう少し書きたい!」というワガママを押し通したことも合わせ、もう少し続けることになりました。これまでの毎週更新から原則隔週になりますが、改めてよろしくお願いします。

 新聞製作の「現場」に戻るのは2年ぶりです。今まで通り「ことば」で皆さんの就活を支える方向性は変わりませんが、せっかく「動いている」職場に戻るのですから、日々の仕事で気になった「時事用語」など、ニュースの側面からも「ことば」を取り上げるのも面白いかな、などと考えています(編集長とダブらないようにしないと……ですね。笑)。
 最近ちょっとご無沙汰の「アイドルから学ぶ」就活も、もちろん時々挟んでいきますので乞うご期待!

 ちょっと前置きが長くなりました。というわけで今回は私が10年以上にわたって携わってきた「校閲」の話をしようと思います。
 そもそも皆さん「校閲」という言葉を知っていますか? 新聞社(や出版)志望の方はさすがに知っているかもしれませんが、他業種志望の方にはちょっとピンと来ないかもしれませんね。

 辞書を引くとこう書いてあります。

 *しらべ見ること。他の人の文章・原稿などに目をとおして正誤・適否を確かめること。(広辞苑)
 *印刷物や原稿を読み,内容の誤りを正し,不足な点を補ったりすること。(大辞林)
 *文書や原稿などの誤りや不備な点を調べ、検討し、訂正したり校正したりすること。(デジタル大辞泉)

 一番下に注目。恐らく多くの方が知っている「校正」とは少し違うのです。
 ものすごく大ざっぱに説明すると

 ・校正 = 元原稿と照らし合わせて「文字」の誤り・食い違いをただす(制作上起きたミスを直す)
 ・校閲 = 原稿を読んで「文字」「内容」の誤りを正す(事実関係の誤りも直す)

 という違いがあります。
 分かりやすい例として、ノンフィクション作家・石井光太さんが新潮社の校閲を絶賛した約2年前のツイートを引用します。

 新潮社の校閲は、あいかわらず凄い。 小説の描写でただ「まぶしいほどの月光」と書いただけで、校正の際に「OK 現実の2012、6/9も満月と下弦の間」とメモがくる。 このプロ意識! だからここと仕事をしたいと思うんだよなー。
 https://twitter.com/kotaism/status/330588815582433281/photo/1

 小説内の日付に該当する夜空の月の状態を(当然当夜の天気も)調べた上でOKを出しているわけです。素晴らしい!

 皆さんが書くES(あるいは大学で書くリポートや論文)は「筆者」が自分自身なので、正確には「校閲」することは出来ません(当然ですが、筆者以外の他人が見るからこそ意味があるのです)。しかし、誤字・脱字、あるいは思い込みから来るミスを防ぐために、「校閲の技」を応用することは可能です。また、我々校閲者が長年の蓄積で身につけた「書き手が陥りやすいワナ」を知ることで、更にそのミスを減らすことができます。

 何度も書いたと思いますが、どんなに良い主張や熱い思いがあふれるESを書いても、誤字・脱字や事実誤認があると評価はガタ落ちです。そんなもったいないことが起こらないよう、次回は具体的なテクニックなどを話したいと思います。

今週のおまけ ~名は命に通ず(名前間違いは命取り!)~

 間違えてはいけないものの筆頭と言えば固有名詞。中でも「名前」はその最たるものでしょう。

 作家であり、文芸春秋社を興した実業家でもある菊池寛(きくち・かん)は、本名の読みが「ひろし」であったこともあり、読み方にはそれほどこだわらなかったそうですが、自分に届く郵便の宛名が「菊“地”」となっているものは一切目を通さずに捨てた、との逸話があります。

  俳優・香川照之さんの母親で、自身も女優の「浜木綿子(はま・ゆうこ)」さんを「浜木 綿子」と思っている人が私の知り合いにはいました。そう言えば歌手・やしきたかじんさんのことを「やしきた・かじん」だとずっと思い込んでいる友人もいたなぁ(笑)。

 ちなみに、たかじんさんの芸名は本名の「家鋪 隆仁」をひらがな読みしたものです。豆知識(笑)。
 そもそも、関東の皆さんはたかじんさんを「歌手」だと知っていたのだろうか、と不安になる関西人……(苦笑)。「やっぱ好きやねん」「東京」「あんた」など名曲たくさんありますよ(ちなみに歌声は番組中の地声と違い極めて美声)。