2年ほど前、「ネガポ辞典」なる本がちょっとしたブームになりました。元はスマホのアプリで、「ネガティブ(否定的)な言葉をポジティブ(肯定的)に言い換える」ところからついた名前です。どんな言葉が載っているかというと……
・愛想が悪い → 媚(こび)を売らない・他人に流されない・気疲れすることがない
・口うるさい → 思いやりがある・重要事項を思い出させてくれる
・存在感がない → まわりにとけ込める・縁の下の力持ち・落ち着いている
・不幸 → これから幸せになれる・忍耐力がある
「うまいなあ」と感じるものから「ちょっと強引じゃね?」と思わず苦笑するものまでありますね。しかしこの発想自体は、ESや面接でも応用がきく……というかぜひ使ってほしいのです。
言う間でもなく、ESや面接では「ウソ」は厳禁です(「背伸び」もそれに近いかな)。結局のところ、海千山千の人事担当者には、表面をちょっと取り繕ったってバレバレ。なので皆さんは当然ながら「正直に」書く(言う)ことになる。
自分に自信が無かったり長所がはっきりしなかったりする場合、それを馬鹿正直に書く人がいます。また、オープンである(=真正直である)事をPRしたいあまり、「短所」に見えることを申告する人もいます。
「一匹おおかみだと言われます」
「口べたです」
「気が多い性格です」
「飽きっぽいところがあります」
そりゃあウソつきよりは良いでしょう。でも、こんなこと書かれて人事担当者が採用したいと思いますか? 私なら嫌です(苦笑)。そこで「ネガポ」を使ってみましょう。
「自主性があると言われます」
「聞き上手です」
「好奇心旺盛です」
「切り替えが早いところがあります」
あら不思議。一気に採用したくなった(笑)。
これはまあ極端な例ですが、性格や長所に限らず、「物事を違う言い方にする」という手段は、色んな場面で応用が利きます。実は前回の「同じ文末【思う】は避けよう」もその一例。これまた以前書いた、「漢語+する」を和語にするのも同様ですね。
英作文でも、同じ動詞ばかり使うのは悪文だと言われます。例えば「話すこと」一つとっても、talk・tell・speak・say……と(本来は微妙な使い分けがありますが)たくさんのボキャブラリーを駆使する。そうすることで「知識の引き出し」があることもアピールできるのです。
今週のおまけ~「愛してる」を言わずに愛を語る
私の尊敬する作詞家のひとりに、松本隆さんがいます。細野晴臣さん、大瀧詠一さん、鈴木茂さんと組んだ伝説のロックバンド「はっぴいえんど」のドラマーとしても知られます。
作詞家としては、アイドルからアーティストまで幅広く作品を提供。特に80年代、松田聖子さんに提供した作品(風立ちぬ、ピンクのモーツァルト、渚のバルコニー、瑠璃色の地球、赤いスイートピー……etc.)はいずれも有名です。
最近でも、「マクロスF」の挿入歌であるランカ・リー(こと中島愛さんの)「星間飛行」の作詞を手がけた、と言えばご存じの方もきっといるでしょう。
そんな松本さん、常々意識されていることがあると言います。以前TBS系のテレビ番組「情熱大陸」でもこうおっしゃっていました。
「愛してる」って連呼しても
全然信用できないよね。
誰か隣に女の子が来て
「私はあなたのことが好きなんです」って
100回言われてもさ、嘘かもしれない…。
どうやって“愛してる”とか、“好き”って言葉を使わないで
それを伝えることができるのか。
それが分かればさ、歌になる。
(「情熱大陸」公式サイトより)
「愛してる」や「好き」を使わずにどうやって愛を語るか。ESや面接とは一見全く違う世界に思える作詞の世界ですが、「手あかにまみれた言葉を使わず、いかに磨きをかけるか」という点では通じるような気がします。
そんなことを踏まえて、松田聖子さんの「赤いスイートピー」の歌詞全文を読んで下さい。この作品は最後の最後になって「好きよ」が出てきますが、そこにいたる過程があるからこそ、この一言がとっておきの意味を持ちます。
いつもなら歌詞を引用するのですが、皆さんに直接見て欲しいので今日は書きません。ぜひ歌詞サイトで検索して下さい(曲を持っているなら歌詞に注目して聴いてくれても構いません)。