言葉マイスター ナカハラハラハラ 略歴

2015年01月07日

「ことばマイスター」なんて肩書、私には役不足です……(?)

 皆さん、明けましておめでとうございます。年末年始は帰省されたり、お友達と過ごしたりしてリフレッシュされた方も多いのではないでしょうか。かく言う私も、このコラムを帰省先の関西で書いております。食べまくり飲みまくりで絶対太った……。

 ちなみに往路は1日の夜に夜行バスで東京を出発したのですが、ニュースにもなった大雪のため、本来の予定(約9時間半)を大幅に超える18時間半もかかって関西に着きました。さすがにヘトヘトになりましたが、これも良い経験と思うあたりは新聞記者、そして「このネタでしばらくウケ取れるな……」とほくそ笑むあたりは関西人の性です(笑)。学生の皆さんも就活で長距離バスを使うことが多いと思いますが、くれぐれも天気予報(自分の住んでいる地域だけではダメですよ)には気をつけて、余裕を持ちすぎるくらいの気持ちで移動してくださいね!

 さて、年明け一発目で久しぶりの更新ですから、ウォーミングアップをかねて皆さんの言葉力チェックといきましょう。

 次の五つの文章のうち、本来の意味や言い方で使われていないものがいくつかあります。いくつあるでしょうか。

 ・紅白歌合戦で気になった歌のタイトルが思い出せない。イントロのさわりは分かるんだが。
 ・元旦の夜は故郷で高校時代の友人と会い、大いに語り合った。
 ・初夢は、あわや内定獲得という良いものだった。正夢になるように頑張るぞ。
 ・今年は年明け早々降ったりやんだり、いやな雨模様だったなあ。
 ・最終面接に向けてやれることはすべてやった。準備は万端だ。

 正解は……なんとすべて誤用・俗用です。

 *「さわり」は元々浄瑠璃の用語です。曲中一番の聴きどころを指します。そこから転じて「聞かせどころ・見どころ」の意味になりました。「導入・イントロ」の意味ではありません。
 *元旦の「旦」は本来「朝・夜明け」の意味です。したがって「元旦」だけで「元日の朝」という意味です。「元旦の朝」ではダブりになりますし「元旦の夜」では意味不明ですね。しかし最近では「元旦」を「元日」の意味も含めて載せている辞書も増えてきました。
 *「あわや」は「危うく……するところ」という意味で使う言葉です。良い事に使うのは適切ではありません。皆さんが内定したくないのなら構いませんが、そんなことはないですよね。
 *「雨模様」は「雨が降りそうな様子」が本来の意味です。降ってしまっては使えません。
 *「万端」は「ある物事についてのすべての事柄」。「準備万端」だけでは「準備が全て整った」意味にはなりません。「準備万端が整う」が正しいです。しかし「準備万全」なら構いません。「万全」は「全てに完全で手抜かりがないこと」の意味だからです。

 いかがでしたか? 「え……全部間違って使っていた……(汗)」と年明け早々、不安な気持ちにさせたならすいません。
 実際、1問目の「さわり」は、文化庁の「国語に関する世論調査」(2007年度)によれば、「話などの最初の部分のこと」と考える人が半数を超えています。年代別調査でも、なんと全ての年代で本来の意味ではない方を選んだ人が多いという結果が出ています。

<ご参考:文化庁月報 >

 そうやって考えると、この「さわり」は今や本来の意味で使っても「伝わらない」可能性の方が高い、ということになってしまいますね。とは言え「なーんだ、みんなそうなら安心じゃん」と思うなかれ。「自分の思っていることをそのまま相手に過不足なく」伝えることは難しいんだ、という、ある意味「恐れ」を持ってほしいのです。

 ほんの小さな「認識のズレ」が大きな誤解を生む。日常生活でもしばしば見受けます。誤解を解けるチャンスがあればよいですが、面接などの一発勝負でそれをやってしまっては取り返しがつきませんよね。過度に萎縮する必要はありませんが、就活においては常に、自分の言葉に「明確な意図と責任」を持つよう心がけて下さい。

 最後にひとつ。今日のタイトルにもネタを仕込みました。「ことばマイスター」という肩書、私自身は正直重荷というか面はゆいのですが、「役不足」という言葉でその気持ちを言い表せているでしょうか? 正解は次回に。

【今週のおまけ ~「よこはま・たそがれ」で感じたことばの力~】

 紅白歌合戦、皆さんはご覧になりましたか? HKT48がトップバッターらしくフレッシュでしたね。SKE48とNMB48もメドレーで短い中、しっかりと見せ場を作っていました。AKB48の「心のプラカード」をメンバーが見せていく演出もユニークでした。そして個人的に一番心打たれたのはももいろクローバーZ。あいにくのインフルエンザで出られなくなった有安杏果(ももか)さんの衣装を残り4人のメンバーが自分の衣装に切り貼りして出演していたり、会場が緑一色(有安さんの担当色です)で埋め尽くされたりしていたのにはグッと来ました。

 感想がアイドルばっかり? そんなことはないですよ。

 「ことば」でご飯を食べていることもあり、私は常々「歌詞」に注目してしまう、というか「歌詞好き」なんですね(今までの「おまけ」からも伝わると思いますが)。
 今回の紅白で改めて「ことばの力」を感じさせられたのが、五木ひろしさんの歌った「よこはま・たそがれ」でした。

 ♪よこはま たそがれ ホテルの小部屋
 ♪くちづけ 残り香 煙草のけむり
 ♪ブルース 口笛 女の涙
 ♪あの人は 行って 行ってしまった
 ♪あの人は 行って 行ってしまった
 ♪もう帰らない

 最近の歌のように言葉数が多いわけではない。説明過多でもない。むしろそっけないくらい。しかし具体的な「単語」を積み重ねることで情景を聞き手に明確に想像させる。そして一言も感情を表す言葉がないのに、胸を突くようなわびしさと切なさが伝わって来ます。

 作詞をした山口洋子さんは銀座のクラブを経営したり、作家として直木賞も受賞するなど多芸多才の人でしたが、昨年9月に77歳で亡くなられました。
 この曲は、それまでヒットに恵まれなかった五木さんにとって、起死回生をかけて挑んだ勝負曲でした。そしてオリコン1位を獲得するなど、まさに「代表曲」となり、その後の五木さんが活躍するきっかけとなります。

 紅白での歌唱後、五木さんが「山口洋子先生、ありがとうございました」と語られていました。万感胸に迫るものがあったのだろうなあ、と見ているこちらも涙目になってしまいました。