言葉マイスター ナカハラハラハラ 略歴

2015年01月14日

女性も会社も「細部」をほめよう!~具体的に書く/話すとは

 今回は直接「ことば」の話ではなく、ESや面接における「具体的」に書く(話す)ことについて考えます。
 ESでも面接でも「具体的に」書く(話す)ように、とよく言われると思います。ある意味「耳にタコ」かもしれません。

 私は現在の職場・教育総合本部に異動してきて2年弱になります。その間に就活生の皆さんのESや作文を合わせて1000通以上見てきました。また朝日新聞が就活生の皆さんを応援する「朝日学生キャリア塾」では、100人以上の模擬面接をしてきました。そこで感じるのはまだまだ皆さんの多くが「抽象的」だということ。

 では「具体的」の対義語である「抽象的」とはそもそも何なのか。ESや面接で言うと、

 ・代わりがきく = 書き手(話し手)ではなくても、誰でも書ける/どこにでもある話
 ・追体験できない = 書き手(話し手)の体験した情景を他人が描けない

 ことだと思います。

 ESは「私小説」、面接はあなたの「ドキュメンタリー」です。それはどういうことか。就活生の皆さんが複数集まった時にいつも私が言うのが

 「ESに書いた内容を手書きではなくテキスト形式で書き、無記名で全員分プリントアウトする」
 「複数枚集まったそのESを、書き手以外のあなたの親友に見せて、あなた自身のESを当ててもらえないようなESはダメ」

 ということです。つまり、名前という記号ではなく「書いている中身」そのものに「あなた自身」が透けて見えないとダメなのです。

 では具体的には(キター!)どうすればいいのか。よく言われるのは「5W1H」を書くことですね。そのための手段を二つ教えます。そこを意識するだけでグッと中身が良くなります。

 その1。修飾語ではなく数字で語れ(データ主義)

 丁寧に書いているつもりで陥りがちなワナです。あなたは知っていても他の人には伝わりません。

 ・小さな頃から → *歳から/小学*年生から
 ・長年~ → *年間にわたり/*歳から始めて今まで
 ・大きく成長した → 英検のような資格なら「*級を取った」(TOEICなら「*点」。「元々※点だった」という成長度合いが分かると更に良い)/運動系なら記録(タイム、大会*位、段位……)/芸術系でもコンクールの結果など
 
 「数詞」を常に念頭に置くのも大事です。

 ・私が部長になってから新入部員が大幅に増えた → 何人なの?(前年は何人だった?)
 ・映画好きで暇さえあれば見ている → 月何本?年間何本?
 ・自転車旅行が好きで、日本の都道府県はほぼ制覇しました → いくつ行った?(残りはいくつ?)

 その2。詳細であればあるほど良い。最終的には固有名詞をめざせ

 この話をするとき、いつもたとえに挙げるのが「ラーメン作文」です。「ラーメンを食べた」では伝わらない、ということ。

 ・いつ = 昨夜 → 昨日の午後11時ごろ
 ・どこで = ラーメン屋で → 「ラーメン太郎」で → 「ラーメン太郎」新宿歌舞伎町店で
 ・誰が(誰と)= サークルの友人と → 大学のテニスサークルでペアを組んでいる佐藤君と二人で
 ・何を = ラーメンを食べた → 豚骨ラーメンを食べた → お店イチオシの「野菜全部乗せチャーシュー5枚乗せニンニク増量」豚骨ラーメン(ギョーザ・半チャーハン付き)を食べた
 ・どうした = 満腹になった → 「15分完食で無料」キャンペーンに挑戦したが、残念ながら1分超過で果たせず。分量的には満足だった

 ラーメンはあくまでたとえです。ES(や面接)に置き換えられます。例えば……

 ・語学留学の体験 → どこの国、どの街、ホストファミリーの家族構成は(もちろん1で書いたように数字=「期間」も忘れずに)
 ・リーダーシップがとれる → 3年次の学園祭で渉外部長を務め、お笑いタレント「****」さんを呼んだ。謝礼は相場の半額、**万円で済んだ
 
 などなど。

 結局のところ「あなた」しか体験していないことを書くことが「具体的」ということです。
 冒頭3段落目の私の体験。もう一度よく読んでみて下さい。

 最後に。これはあくまで「個人的な」意見ですが、就活は恋愛に通じるところがあると思っています。ESがラブレターなら、面接はデートでくどく場面。
 そこで「誰でも言うような」事を書いても(言っても)心には届きません。「自分だけの」言葉、そして徹底したディテールが勝負のカギです。

 これまた個人的な考え方かつ、いかにもオッサンやと笑われるかもしれませんが、私が女性を褒めるときに心がけているのが「パーツを大事にする」こと。
 「どこが好き?」と聞かれて「全部」と言うようではアウト。髪形、アクセサリー、香水、バッグ……。それはすなわち「細部にまで関心を持っていますよ」という意思表示にもなるのです。

 面接で「御社のチャレンジ精神に共感して!」なんて言っても相手に響きません。じゃあそのチャレンジとは何なのか。具体的な商品名、その特徴、他者と比較して優れているところ……。そういったことを挙げましょう。

今週のおまけ ~どうせ褒めるなら100パーツ褒めてみよう~

 女性はパーツで褒める、という私の気持ちを端的に表している名曲があるのでご紹介します。「放課後プリンセス」というライブアイドルの「ジュリエット ~君を好きな100の理由~」です。恋する女性に送る、男性のあふれんばかりの気持ちを「具体的に」示すことで表しています。

 この曲はまず1番のサビで

 ♪君の声が好き/君の顔が好き/君の優しい心が大好き/君のしぐさが好き/君の笑顔が好き/いくらでもリストにするよ

 と恋する相手の良いところを列挙します。そして2番で

 ♪君の瞳が好き/君の髪が好き/君の少し抜けたところも好き/君のほくろが好き/君の唇が好き/いくらでもリストにするよ

 と畳みかけます。そしてCメロのあと1番のサビを繰り返して、一番最後に

 ♪君の体が好き/君の手足が好き/君のひたむきな横顔が好き/君のうなじが好き/君の全部が好き

 とまとめます。

 NGと言った「全部」が最後に出てきますが、個別具体的に列挙した後だからこそ、「そのくらい言い尽くせないんだ」という気持ちを伝える結果になっています。うまいなぁ、と思います。

先週の答え合わせ ~「役不足」の使い方、あってますか?~

さて、前回出した宿題の答えです。

「ことばマイスター」なんて肩書、私には役不足です

重荷というか面はゆく感じている私の気持ち。
この表現では……「言い表せていません」。
むしろ「物足りない!」と怒っていることになります。

「役不足」は「本人の力量に対して役目が軽すぎること」です。
しかしよく似た「力不足」と意味を混同して使っている人が多い言葉です。