あきのエンジェルルーム 略歴

2015年02月26日

「性善説」で多様な働き方を後押し! 受け継がれる「やってみなはれ」 ♡Vol.25

 いつも心にエンジェルを。

 今回のエンジェル企業は、創業者の鳥井信治郎が残した名言「やってみなはれ」で知られるサントリーホールディングス(SHD)です。朝の連続テレビ小説「マッサン」に登場する鴨居商店のモデルにもなっていますね。2014年の売上高がキリンホールディングスを抜いて、国内飲料メーカーの首位になったことでも話題になりました。創業は1899年という老舗。美術館にコンサートホール(右写真)、東北の復興支援から、水を育むための森づくりまで、幅広い社会貢献でも知られています。
 2013年12月末時点で、SHDの社員数は4765人、女性社員は2割ちょっとです。2013年に東証一部に上場した、食品事業を担うグループ会社のサントリー食品インターナショナル(SBF)の社員は1518人、女性社員が1割強です。国内外のグループ企業の従業員を合わせると37000人(2014年12月末)を超える巨大カンパニーですが、これから紹介するのは、SHDとSBFの2社と雇用契約を結ぶ社員の話です。
 経済産業省主催のダイバーシティ経営企業100選をはじめ、さまざまな指標で「働きやすい会社」ランキングの上位に登場するサントリー。それでも15年くらい前までは、出産や結婚を機に退社する女性社員が年に30人ほどいたそうです。それが2013年度ついに「ゼロ」になりました。

 SHD人事本部ダイバーシティ推進室課長の弥富(いやとみ)洋子さん(左写真)は振り返ります。
「彼女たちの退職は会社にとって大きな損失でした。女性社員にとって仕事と家庭の両立のハードルが高く見えてしまう現状をなんとかしたいと思ったんです」
 
 同社がダイバーシティ経営に大きく舵を切ったのは、2010年のこと。社内調査で同社が「サントリー大好き人間の集まり」ということがわかり、それが強みであると同時に、「似たような価値観が固定してしまっては発展できない」という危機感から、当時の人事本部長がダイバーシティ経営を宣言したのです。2011年には、年齢、性別、国境、ハンディキャップを超えた多様な人材の確保、柔軟な働き方を推進するための部署、ダイバーシティ推進室が発足しました。

 取り組みは女性の活躍推進にとどまりません。「Change to survive!」(変わらなければ、生き残れない)を合言葉に、介護、ワークライフバランス、LGBT(性的少数者)まで、さまざまなテーマでセミナーを開催したり、制度を改定したりして、働きやすい環境を整えてきました。
 中でも充実しているのは働き方の選択肢です。かつては原則として週1日(上限2日)、しかも自宅でしかできなかったテレワーク(在宅)勤務が、2010年8月からは、社外でも可能になり、さらに勤務を10分単位で選択し、労働時間としてカウントできるようになりました。たとえば8時~10時まで自宅で働いてから出社、社内で11時~13時まで働き、また帰宅して14時~17時30分まで働く、というように……。1日の所定労働時間は7時間半、例では足して7時間半になるようにしてみましたが、必ずしも1日単位で帳尻を合わせる必要はなく、月ごとに労働時間を管理することもできます。ライフスタイルに合わせて社員自身がアレンジできます。在宅勤務中に昼休みを取ることももちろん可能です。
 また、フレックス勤務も部署でなく、個人単位で使えるようになりました。5時~22時までの間であれば、自由に勤務時間を選べます。5時~12時半でも、14時半~22時でもよいわけです。しかも、ぶっ続けに働く必要はなく、8時30分~12時半、15時~18時と分割することもできます。
 どちらの制度も、子育てや介護といった特別な理由がなくても、勤続2年以上で、業務上支障がなければだれでも使える、というから太っ腹です。
 たとえばテレワークの場合、2013年度は全社員(SHD+SBF)の約半数にあたる3243人が利用しています。定着したのは、2010年に管理職全員に“半ば強制的に”テレワークを実践してもらい、「問題ない」ということが体感できたのが大きかったそう。やはり働きやすさには「上司の理解」が不可欠なんですね。
 働いた時間は自己申告ですが、社外でどんな仕事をするのか、業務計画とその成果は上司と共有し、パソコンのログインログオフの記録も取っています。
 「他社の人事担当者から『あまりにも“性善説”すぎやしませんか』と突っ込まれることもあります。誤解してほしくないのですが、ただやみくもに働きやすさを追求しているわけではなく、より快適な労働環境を整えることで、しっかり働いて成果を出してもらいたい、その期待のあらわれ。まさに『やってみなはれ』精神で生まれた制度なんです」と弥富さん。

 同社には22時以降は業務を行わない、というルールがあります。時差の関係や、突発的な理由で使う場合は部長による人事への申請が必要で、ルール導入時は人事部員が22時になるとオフィスを見回っていたほど。そこで「掟破り」が見つかってしまうと、部長が人事から状況確認のヒアリングを受け、再発防止への努力を迫られるそうです。

 「これもただ残業を減らす、というのが目的ではありません。必要な残業は認めますし、日頃から計画的にメリハリをもって“濃く”働いてほしいからこその仕組みです」と弥富さんは言います。
 さらにいま充実させようと取り組んでいるのが男性社員の育児参画です。2011年9月、男性の育児休職率向上を目的に育休を一部有給化した制度「ウェルカム・ベビー・ケア・リーブ(WBC)」を導入しました。この結果、2011年度にはたった2人しかいなかった男性の育休取得者は、2012年に13人、2013年度に40人、2014年度はすでに60人と、急増しています。
 そこでも「上司」をうまく使っています。同社では、男性社員に子どもが生まれると、机の上に置く「ちちおやになりました!仕事も子育ても全力投球!」と書かれたプラスチックボード(左写真)が配られます。それはパパ社員に直接送られるのではなく、人事部からパパ社員の上司に送られ、職場で上司からパパ社員に手渡されます。

 弥富さんは「周囲の人もだれがパパになったばかりなのか意識できますし、上司から『子育てもがんばれよ』と言ってもらえたら、本人も早く帰りやすいですよね。男性の育児参加を職場全体でポジティブに受け止めるようになりました」といいます。

 同社が目指したのは子育て中の女性だけが働きやすい、ではなく、「だれにとっても働きやすい」です。その結果、子育て中の女性も働きやすい企業になったのです。女性管理職もゆるやかではありますが増え続けています。現在はまだ8%前後ですが、目標は2025年度で20%です。

 2013年度の離職率は定年や役員就任で退職した人をのぞくとわずか0.53%。どれだけ居心地がいいか、よくわかりますね。採用や仕事について知りたい人は「人事のホンネ2015シーズン第10回サントリー」もぜひ読んでください。