一色清の世の中ウオッチ 略歴

2014年02月06日

「ゆとり世代」は実はすごいのではないか (第33回)

バレエもソチも「ゆとり」の成果か

 「ゆとり教育で分数の計算もできない大学生が増えた」「ゆとり教育で好きなことしかしない若者が増えた」などといった「ゆとり教育」批判が燃えさかり、2011年度から「脱ゆとり教育」が始まっています。「ゆとり教育」を受けた世代は「ゆとり世代」(1987年度生まれ~2003年度生まれ、現在9歳~26歳)と呼ばれ、この言葉は世間ではあまり前向きな使われ方をしていません。今の就活生は、まさにゆとり世代ど真ん中で、そんな呼び方にいやな思いをしたこともあるのではないでしょうか。でも、私は前から、ゆとり教育ってそんなに悪いことだったのかという疑問を持っていました。

 最近、わが意を得たりと思うことがありました。テレビなどでも大活躍の夏野剛・慶応大学大学院教授の教育に関する講演を聞いたのですが、夏野教授は、ローザンヌ国際バレエコンクールで、日本人が1位、2位、6位と上位を占めたことについて、「これこそゆとり教育の成果ではないでしょうか」と力説しました。一位の二山治雄さんは17歳、二位の前田紗江さんが15歳、6位の加藤三希央さんが18歳。確かにいずれもゆとり教育を受けた世代です。ゆとりがあるから、好きなバレエにうちこめ、世界で認められるレベルに到達できたという解釈です。

 そういえば、ソチ五輪で活躍が期待される選手もこの世代です。アメリカのスポーツイラストレイティッド誌が予想する金メダル候補の日本人は、スキージャンプの高梨沙羅さんとフィギュアスケート男子シングルの羽生結弦さんの二人ですが、高梨さんは17歳、羽生さんは19歳と二人とも堂々のゆとり世代です。銅メダル候補に挙げられていますが、私は金ではないかと思っている浅田真央さんは23歳で、もちろんゆとり世代です。
 スポーツや芸術は、小さい頃から打ち込まないとなかなかトップクラスにはなれません。練習の場は学校外になります。学校にゆとりがあったほうが打ち込めるのは確かでしょう。以前に比べて、こうした分野で世界的に活躍する若者が増えたように感じるのは、夏野教授や私だけではないと思います。断定はできませんが、ゆとり教育がいい影響を与えた可能性はあります。

 ただ、まだ根拠の薄い「ゆとり教育バッシング」は続いています。昨年末の朝日新聞でジャーナリストの池上彰さんが書いていた記事は、その点を突いていました。経済協力開発機構(OECD)が3年ごとに実施している「学習到達度調査」(PISA)の結果を報じた新聞記事についてです。15歳を対象にした2012年の結果は、日本の学力の向上傾向を示しました。ただ、ある新聞はこの理由について、「『ゆとり教育』からの転換で、学力が着実に向上していることを示した」と書いたのですが、池上さんは、「『脱ゆとり教育』が中学校で全面実施されたのは12年度からでした。12年に成績の良かった生徒たちは、『脱ゆとり教育』を受けていないのです」と、何でもかんでもゆとり教育のせいにするなという趣旨のことを書いています。

 ゆとり教育は、どちらかというと日教組の考え方に近く、日教組憎しの保守的な考えの人たちは、そうした視点から批判していた感もあります。今も、学校の土曜日休日をなくそうとか道徳を教科にしようとか、様々な「ゆるみを締め直す」動きが出ています。でも、個性とか多様性とかいうものは、ある程度のゆるみがあって生まれるもののような気がします。
 私は、ゆとり教育の評価はまだ定まっていないと思います。あと20年、30年して、その前後の世代に比べてどんな人材が輩出して、どんな社会を作っているか、で判断するべきでしょう。
 がんばってください、「ゆとり世代」の皆さん。