話題のニュースを総ざらい!面接で聞かれる!就活生のための時事まとめ

2025年11月21日

経済

日本生命、銀行から「情報持ち出し」なぜ起きた? ニュースで業界の動向チェックしよう【時事まとめ】

ニュースチェックは企業研究に欠かせない

 企業研究を深めるためには、企業の採用ウェブサイトや経営報告書などのチェックに加え、その企業にまつわるニュースをチェックすることが欠かせません。ニュースをチェックする大きなメリットは、公式情報だけではわかりにくいその企業のマイナスポイントや不祥事も客観的にチェックできることです。今回は朝日新聞の記事から、就活生に人気の高い生命保険最大手の日本生命社員らが行っていた「情報持ち出し」について取り上げます。金融業界をめざす人はもちろんそれ以外の方も、今回のニュースの概要を押さえて自分の社会人生活の糧としてください。(編集部・福井洋平)
(写真・記者の質問に答える日本生命保険の赤堀直樹副社長=2025年9月12日/写真、図版はすべて朝日新聞社)

銀行の内部情報をスマホなどで持ち出す

 まず、日本生命社員らによる「情報持ち出し」とは何か、朝日新聞の記事に基づき整理してみましょう。

 今年7月、日本生命から三菱UFJ銀行に「出向」していた社員が、同行の内部情報を無断で持ち出し、日生の営業部門が営業に利用していた――と朝日新聞が報じました。記事によると、この社員は同行員が保険商品を売った際の業績評価の体系や、他の生保の商品の改定時期や内容を同行がまとめた資料などを持ち出していました。目的は、「当社商品の販売推進につなげたいと考え、社外秘の情報と認識しながら内部資料を持ち出した」(日本生命)とのことです。

 日本生命は社内調査を行い、9月には7金融機関で計604件に上る情報持ち出しが確認できたという調査結果を公表しました。出向者は銀行などの内部情報を私用のスマートフォンで撮影し、LINEで日生側に送るなどしていたそうです。出向先の上司らの許可は得ずに持ち出しており、日生は「営業秘密の侵害」を禁じる不正競争防止法の趣旨に照らして不適切だったと判断しました。10月には、日本生命とならび日本を代表する生保会社の第一生命保険から銀行などに出向していた社員らが、やはり出向先の計27の金融機関から内部情報を無断で持ち出していたこともわかりました。さらに11月に入り、日本生命の完全子会社であるニッセイ・ウェルス生命保険の出向者が、2金融機関から計943件の情報を無断取得していたことも明らかになっています。こうなると、情報持ち出しは業界内で広く横行していた可能性も否定はできなくなっています。
(写真・日本生命の看板)

銀行で生命保険売るルートが

 まず、なぜこんなことが起きたのか、背景を説明します。

 生命保険はよく街で見かける代理店の窓口やインターネットなど、さまざまなルートで販売されています。そのなかでも大きなルートとなっているのが、銀行などの金融機関を通した「銀行窓販」(窓口販売)です。むかしは保険商品を銀行で扱うことはできませんでしたが、2001年に一部が解禁、2007年に全面解禁されました。「窓販」といっても、実際は訪問による販売も含まれています。生保会社にとっては銀行が抱えている幅広い顧客層を相手にできるわけで、非常に重要な販売ルートです。保険料の一部を積み立てていく「貯蓄型」を中心に、資産運用にも役立つとアピールして販売してきました。銀行側も手数料収入が入るという、ウィンウィンの仕組みになっています。

 客は、銀行の窓口で複数の保険を選ぶことができます。ただ、銀行の行員は保険の知識が十分でなく、実際には保険会社から「出向」してきた社員が窓販を担当することが多いとのことです。「出向」とは、出向元の会社に籍を残しつつ、出向先の会社での仕事に従事することです。保険会社から「出向」した社員が銀行で保険を販売するとなると、どうしてももともと在籍していた保険会社の商品をひいきしてしまうのではないか、という疑念がつきまとってしまいます。ちなみにもとの会社の籍を離れて新たな会社に籍を移すことは、出向ではなく「転籍」といいます。大きな違いがありますのでこの機会に覚えておきましょう。日生は今年4月時点で、保険販売や営業支援の名目で、大手銀行や地銀、証券会社などに約50人が出向していました。

「不正競争防止法」違反のおそれ

 日本生命は、銀行に自社員を出向させている目的を、「保険を代理販売する銀行員の教育」と説明してきました。しかし朝日新聞の記事によると、出向社員が年に3回ほど集まる会議で「銀行の構造をつかんで日生のシェア拡大につなげる」「日生のためだけに動いているわけではないが、信頼獲得に向け行動している」といった発言があったそうです。また、会議に出席する前に書類を提出させ、「他社商品採用検討状況」「銀行の評価体系」など銀行の内部情報記入を求めていたといいます。日生は書類への記入は「無理のない範囲の協力だった」とし、情報を無断で持ち出すような指示ではなかったと強調していますが、結果として600件を越える情報持ち出しが発覚していることには注意を払う必要があります。

 朝日新聞の記事では、出向者を集めた会議で「出向先金融機関の実態や自身の取り組み、他社情報を日本生命本部へ共有」することを「対日本生命」の貢献項目としてあげていたことや、「銀行に気づかれないように持ち出せ、という組織的な指示と受け止めた」という日生社員の声を紹介しています。日本生命は取材に対して「出向者は情報収集に関するプレッシャーを受けていたと言わざるを得ない」というところまでは認めました。

 情報持ち出しは先に述べたように「不正競争防止法」違反にあたるおそれがあります。不正競争防止法は、企業の「営業秘密」の不正な取得や外部への開示、使用を禁じています。日生から出向しているとはいえ、出向先の銀行の「営業秘密」にあたるような情報を日生に勝手に流すことは、不正な取得にあたる可能性があります。

生命保険会社から銀行への出向は原則廃止へ

 さらに今回の情報持ちだしの舞台となった「銀行窓販」という販売方法自体も問題視されています。先に述べたように、銀行の窓口では複数の生命保険の商品を扱います。そして客にはそれぞれの商品のメリット、デメリットを説明して、客にあった商品をすすめなくてはいけません。生命保険は保険料や保険期間、保障内容など商品の内容が複雑で、客側が比較するといってもなかなか難しく、売り手がすすめるままに商品を購入しがちです。そのため、もし出向社員がもともと所属していた生命保険会社に有利になるように商談を誘導したら、客はいいなりになってしまうリスクがでてきます。生保から銀行に出向して働く人は自分の出向元を明かさないそうですが、もし自分のもと所属の生保商品に誘導されているかもしれないとしたら、窓販自体の信頼も失われてしまいます。業界団体の生命保険協会は9月、生保から金融機関などの保険代理店への出向を原則廃止する、新たな指針を公表しています。

 今回のニュースからは、生命保険がどのようにして売られているのか、その実態を読み取ることができます。また、生命保険から金融機関への出向が原則廃止されることから、今後それぞれの生保会社で新たな窓販戦略を模索していくことになる、という変化も読み取れます。日本生命はもちろん、生保各社が今回の件でどのような対応をとっていくかは、会社の社風や内実を知るうえで大きな判断基準になるでしょう。関心ある業界のニュースをチェックしていくことで、このように重要な動きや会社の雰囲気を知る材料をつかむことができます。ぜひ、今後の就活に役立ててください。

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