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初任給をあげている企業は人気も高まりそうです。ただし、初任給が高い=生涯でもらえる給料(生涯賃金)が高い、というわけではありません。「初任給」の定義や、企業に入ってからの賃金の上がり方は実は企業によってまちまちで、それぞれの仕組みによって生涯賃金は変わってくるのです。就活ニュースペーパーでもこれまで何度か取り上げていますが、初任給の高さだけにまどわされず企業をきちんと選ぶための基礎知識を整理しましょう。(編集部・福井洋平)
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(写真はPIXTA)
初任給増やした企業が7割以上に
初任給が年々上昇しています。民間シンクタンクの産労総合研究所が2023年に公表した調査では、2023年度の大学卒の初任給は約21万8千円と、前年度にくらべて約3%上昇。初任給を「引き上げた」企業は68.1%と前年度に比べて約30ポイントも増え、1998年度以降で最も高く、25年ぶりに6割を超えたとのことです。初任給を引き上げる理由は「人材を確保するため」が70.2%で、前年度から7ポイント増えました。
2023年に朝日新聞が行った全国主要100社アンケートでも、初任給を前年度より増やした企業が7割超に上りました。前年度から4.5%引き上げたセコムは「特に若年層の賃金の引き上げ率を高くした。優秀な人材を確保するため、賃金水準を高めることは重要」(尾関一郎社長)と話しています。
「固定残業代」は要チェック
では、初任給が高ければその後の会社人生も安泰なのでしょうか。実はそうとは限りません。●給与は上げるが、賞与は……?
おもちゃメーカー大手のバンダイは、2022年春に初任給を大卒、院卒ともに6万6千円増の29万円として、30%も引き上げたことで話題となりました。しかしこれは単なる月給の引き上げではなく、月給と賞与の割合を変えたのです。同社のプレスリリースには「年収における月額給与の比率を引き上げ」とあります。
年収は月給のほかに賞与、つまりボーナスが含まれます。そしてボーナスは月給の額や会社の業績によって決まります。バンダイは年収における月給のしめる割合を増やす一方で、ボーナスを抑えたのです。もしバンダイの業績が同じなら、月給が増えても年収全体はほぼ変わらないことになります。ただ、月給の割合が高いと、業績の影響を受けにくくなり、同社は「社員が安心して働ける環境」を整えることがねらいだと説明しています。 単純に月給増=年収増とはならない、というところに注意する必要があります。
●固定残業代は含まれる?
IT大手のサイバーエージェントは2023年春、初任給を42万円に引き上げました。バンダイに比べても非常に高い初任給のようにみえます。
ただ、同社にはボーナスがありません。1年間に支払う給与=年俸が504万円と決まっていて、それを12で割った数字が42万円なのです。また、同社の募集要項をよく見ると、初任給の金額には「固定残業代」が含まれていることがわかります。月給制職種の場合は「固定残業代の相当時間:時間外80.0時間/月、深夜46.0時間/月」とあり、これを越えないと残業代は追加されないのです。このようにボーナスが設定されていなかったり、「月○時間までの残業代は給与に含まれる」という仕組みで給与を上げていたりするケースもありますので、初任給の金額だけを見て「給料が高そう」と判断するのは早計です。固定残業代については残業が0時間だった場合でも支払われるので、残業が少なければ少ないほど社員にとって得になる仕組みでもあります。固定残業となる時間をチェックして、判断する必要があります。
ジョブ型雇用だと賃金上がらないことも
・「職能給」か「職務給」かをチェック
また、入社後にどのように給与が伸びていくかをチェックする必要もあります。これまで日本の多くの企業は「職能給」として、年齢や勤続年数に応じて給与が上がっていく仕組みをとっていました。この場合、初任給はどうしても低くなる傾向があります。ただ、年齢や職歴にかかわらずその人の仕事内容に応じて給与が決まる「職務給」を取り入れる企業も増えてきています。仕事の内容を明示して採用する「ジョブ型雇用」を取り入れている企業の場合、基本的には給与も職務給になります。
職務給を取り入れている企業の場合、最初の給与は高くても、同じ職種をつづけている限りは給与が上がらないという仕組みになっていることが考えられます。また、その職種で求められる役割が果たせなかった場合は減給するリスクもあります。もちろんスキル次第でさらに昇給できる可能性もあるわけで、これも企業の仕組みをよく調べてメリット、デメリットを判断する必要があります。
有価証券報告書などをチェック
初任給以外に会社の給与水準を調べるには、その企業が上場企業の場合、公表している有価証券報告書に記載されている平均年間給与を見るという方法があります。さきほど紹介したサイバーエージェントは2023年9月現在で806万円となっています。バンダイは上場していないため、平均年間給与は公表はされていません。持ち株会社のバンダイナムコホールディングスは上場しており平均年間給与が公表されていますが、ここと間違えないようにしましょう。持ち株会社は一般的に年齢の高い社員がいることが多く、平均給与もかなり高くなる傾向にあります。
また、東洋経済新報社が出している「就職四季報」には平均年収のランキングのほか、各社のページで「25、30、35歳賃金」を載せている企業、35歳については「最低~最高」額を載せている企業もあります。志望企業については初任給だけではなくこういったデータも幅広くチェックして、入社後に自分がどういう賃金カーブをえがくのかイメージしておきましょう。
無理をして初任給あげてない?
いま初任給が上昇している一番の原因は人手不足です。採用が難航している企業のなかには、当初求人票に書いていた初任給を引き上げてでも人数の確保をめざすところもあるといいます。経団連が2021年11月に公表した「新規学卒者決定初任給調査結果」では、初任給を決めるにあたって最も考慮した要因は「世間相場」(27.9%)となっていました。業績がかんばしくなくても、人を採るために相場にあわせてがんばって初任給をあげている企業も、これから増えてくるのではないでしょうか。そうすると、年齢や勤続年数に応じた賃金の上昇率を下げるか、もしくは能力・成果主義をおしすすめて賃金の個人差を大きくするかして、全体の人件費はなんとか抑えようとする動きが出てくるかもしれません。初任給だけをみて企業を選ぶのではなく、その企業の給与体系や将来性も含めて考え、納得のいく企業選びにつなげてください。◆朝日新聞デジタルのベーシック会員(月額980円)になれば毎月50本の記事を読むことができ、スマホでも検索できます。スタンダード会員(月1980円)なら記事数無制限、「MYキーワード」登録で関連記事を見逃しません。大事な記事をとっておくスクラップ機能もあります。お申し込みはこちらから。
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