2024年01月31日

いまの日本は女性にとって働きやすい? 「夫婦別姓」と「賃金格差」から考える【就活イチ押しニュース】

テーマ:社会

 女性が働きやすい社会をつくる――日本が長年かかげる目標ですが、いまそういう社会はどの程度実現しているでしょうか。日本の現在地点について考えさせられるニュースを2つ紹介します。就活にいどむ女性にはぜひチェックしてほしいニュースです。また、女性が働きやすい社会は、つまり誰にとっても長く持続的に働くことができる社会です。女性だけでなく男性も関心をもってほしいです。(編集部・福井洋平)

(写真はPIXTA)

経団連が「選択的夫婦別姓」導入を要望

 1つめは、「選択的夫婦別姓」についてのニュースです。

 1月17日、日本の大手企業でつくる経済 団体「日本経済団体連合会」(経団連)が加藤鮎子・女性活躍担当大臣との懇談会で、選択的夫婦別姓の導入を要望しました。経団連が公式な会議で政府に選択的夫婦別姓の導入を要望したのは、初めてのことといいます。

 選択的夫婦別姓は家族制度という文化の問題で、経済団体が口を出すのはいっけん不思議なことのようにも思います。しかし、選択的夫婦別姓が実現していないことはさまざまな点で経済活動にも影響を及ぼしていると経団連は指摘しました。一例が、国際的なビジネスの場での不都合です。

 ご存じのとおり日本は夫婦が同じ姓になることを法律で義務づけており、9割以上の夫婦は女性が改姓しています。そして、結婚して改姓したあとも旧姓を通称、ビジネスネームとして使い続ける人も多いのが現状です。ちなみにいま、夫婦同姓を法律で義務づけているのは日本だけです。

 しかし、ビジネスネームと戸籍やパスポートに記載される公的な名前が食い違うと、特に海外でのビジネスに支障が出るのです。経団連の魚谷雅彦・ダイバーシティ推進委員長(資生堂会長)は会合でこの問題に触れ、「国際機関で活躍する研究者の継続的なキャリアを阻害する要因となっている。海外出張先のホテルや訪問先で閉め出されるといったこともある」と具体例を挙げた上で、「選択的夫婦別姓の実現に向けて強力にリーダーシップを発揮してほしい」と求めています。

(写真・経団連の会員企業の役員らと加藤鮎子・女性活躍担当相が女性登用について意見を交わした=東京都千代田区/朝日新聞社撮影)

海外でのビジネスに大きな支障が

 経団連がまとめた、ビジネスネーム使用の「限界」事例は下記のとおりです。

●社内ではビジネスネーム(通称)で通しているため、現地スタッフが確保してくれたホテルもその姓名で予約していた。パスポートの姓名と異なるため、宿泊を断られた。
●海外の公的施設などで、パスポートを要求されるが、名簿と名前が違うとゲートを通れない。いつも結婚前の古いパスポートを持ち歩いて証明している。
●多くの金融機関では、ビジネスネームで口座やクレジットカードを作ることができない。
●契約書のサインもビジネスネームではだめなことがある。
●空港では、パスポートのICチップのデータを読み込むが、そこに旧姓は併記されていないのでゲートでトラブルになる。

 現状だとこの不都合はほとんど女性側がかぶることになっているわけで、たいへん不公平な状況といえます。

夫婦同姓は「経済的損失」にも

 昨年の12月5日に経団連が開催したダイバーシティ推進委員会企画部会では、選択的夫婦別姓が認められないことによって海外での活動が難しくなる以外にも、

●姓がかわることで過去の研究や成果が同一人物のものとして認知されない
●過去の実績の本人証明が難しく、転職活動時に圧倒的な不利益を被る
●旧姓の使用者が災害時に新姓で被災者名簿に載っても同一人物と認識されない
●多くの金融機関で旧姓名義での口座作成は認められていない
●企業や行政にとっても、旧姓・新姓の両方を適切に管理するためのシステム改修と業務体制が別途必要になっており、非効率

 というデメリットがあり、「企業経営の足かせ」「経済的損失」となっているという指摘もなされました。経団連の要望を受けた加藤大臣は「経済界から要望をいただいたことを重く受け止める」と朝日新聞の取材に答えています。

 夫婦同姓の義務づけにより、改姓後も旧姓を使い続ける人にデメリットがあることは、女性はもちろんのこと、男性にも広く知っておいてほしいことです。就職だけでなく、これから結婚を含めたライフプランを考えるときにも絶対に必要な視点です。結婚している女性社員が直面する不都合を知っておくこと、不都合に想像力を働かせられるようになることは、就活に必要な「考える力」を養うことにもつながると思います。

「説明できない」7%の賃金格差

 もうひとつ、女性の働きやすさを考えるうえで気になるニュースを紹介します。

 昨年9月、フリマアプリ大手のメルカリが「男女の賃金に7%の『説明できない格差』がある」という社内調査結果を発表しました。メルカリの国内社員1700人のうち女性は3割以上いて、賃金を人数で割った単純計算で男女の平均賃金の差は約37.5%になるそうです。これは、経営陣や高いグレード(等級)に男性が多いことが理由とのことです

 しかしメルカリがさらに分析をすすめると、職種や業務内容の違いでは説明できない格差が7%あることが明らかになりました。メルカリはジェンダー平等のためさまざまな制度や運用の改良を重ねてきたといい、この結果には衝撃が走ったそうです。

 調べた結果、原因として考えられたのが、入社時の基本給の決め方でした。メルカリは9割以上が中途採用で、採用時に年収を提示します。エンジニアは技術のテストをして年収を決めるため、ここには説明できない格差はなかったそうです。ところがそのほか、管理部門やサービス部門などでは前職での年収を参考に、メルカリ入社後の年収を提示していた結果、「社会に存在するジェンダー格差を再生産する形になって」(同社の調査担当者)差が生まれてしまったのだそうです。メルカリは、報酬見直しのほか前職の年収情報を採用担当者に示さないなどの制度変更を行い、「説明できないギャップ」を1%以内におさめるという目標を掲げています。

●2023年インタビューした「人事のホンネ」メルカリ編はこちらから
前編 後編

日本の現在地を知っておこう

 企業で出世する女性がそもそも少ないという根本的な問題もありますが、同じ仕事、同じ負担の男女で比べても男性のほうが賃金が高いという問題もこの調査で可視化されました。女性、男性とわず、この問題もいまの日本の現在地ということでぜひ知っておいてほしいと思います。

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