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ウクライナ侵攻から1年、日本企業の「脱ロシア」が進んでいます。国際法違反の非道な侵略を犯した国で事業はできないと判断したり、サプライチェーン(供給網)が分断されて工場で生産ができなくなったり……事情は様々ですが、戦争が長期化する中、ロシア事業からの撤退や停止を決める企業が増えています。ロシアは2000年代から経済が急成長して市場が拡大したため、多くの日本企業が進出してきました。世界トップクラスの天然ガス輸出国のため、その生産・輸入に関わる企業もあります。ウクライナ戦争によるロシア事業見直しを機に「地政学的リスク」への関心も高まり、「台湾有事」が懸念される中国との関係を再検討する動きも出ています。グローバル企業はもちろんですが、国際情勢はすべての企業活動に大きな影響を与えます。今回は「戦争と企業活動」について考えます。(編集長・木之本敬介)
●ウクライナ侵攻1年、世界激変とこれから なぜ終わらないの?【時事まとめ】はこちら
(写真・営業休止中のモスクワのユニクロの店舗。休止前には多くの店で行列ができた=2022年4月)
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16%の企業が撤退方針
日本貿易振興機構(JETRO)の1月の調査(99社回答)では、ロシアからの撤退を決めた企業は4%にとどまりましたが、事業を全面または一部停止した企業は6割を超えました。「通常通り」と答えた会社は、2022年3月調査(55.7%)から大きく減って35.4%。「国民生活に直結する事業」「撤退すると他国にシェアを取られる」などの判断があるようです。一方、帝国データバンクによると、ウクライナ侵攻前にロシアに進出していた日本の上場企業 168 社のうち、今年の2月19 日までに事業の停止や制限・撤退を公表した企業は、半数近い79 社。撤退方針の企業は2022年8月までは10社未満でしたが、今回は27社で16%にのぼりました。大手自動車メーカーを中心に、一時的な事業停止措置から完全撤退、事業・現地子会社の売却といった「脱ロシア」が進んでいます。ウクライナ侵攻の長期化で、部品の調達難や現地企業・市場の需要縮小などを理由に挙げたケースが多くありました。
「意義なくなった」「苦渋の決断」
2月24日の朝日新聞の記事から、撤退を決めたり検討したりしている企業の例を紹介します。◆AGC ロシアでのガラス製造販売事業の売却を検討中。1997年にロシアに進出し2工場で建築用や自動車用のガラスを生産し、2022年の売上高は400億円、営業利益は78億円にのぼったが、「ロシアの状況と国際情勢を考えると、我々が運営する意義はなくなった」(宮地伸二副社長)。
◆トヨタ自動車 戦争で部品調達が難しくなり2022年3月に工場を停止。9月には日系自動車メーカーで最初にロシア撤退を発表した。「苦渋の決断で、悩みに悩んだ」(トヨタ幹部)ものの、ブランドイメージが損なわれる「レピュテーションリスク」などから判断。
◆日産自動車、マツダ 部品調達や物流の改善が見込めないなどとして撤退決定。
◆ソニーグループ 2022年9月に音楽事業から撤退し、現地法人や所属アーティストをめぐる権利をロシア企業に譲渡。その後、映画事業からも撤退。
◆電通グループ 現地合弁会社の株式の持ち分をすべて譲渡すると発表。
◆日立エナジー 送配電事業などのロシア事業を売却。
事業を止めたものの、撤退か継続か判断しかねている企業もあります。
◆ファーストリテイリング 2022年3月、全50店舗の営業とオンラインストアでの販売をやめた。ロシアの経済紙が今月、「ユニクロがロシアから完全撤退する可能性が高い」と伝えたが、ファストリの広報は「現在も事業停止であることは変わらない」。
(写真・ロシアで最初に生産されたトヨタ「カムリ」のお披露目=2007年12月、サンクトペテルブルク)
三菱商事・三井物産は国策で権益確保
経営上の理由や雇用、ロシアの一般消費者のために事業を続ける企業もあります。◆日本たばこ産業(JT) ロシアに4工場を持ち、2022年12月期の売上高のうちロシア市場が約11%を占める。寺畠正道社長は「原材料は調達できており、資金決済もできている。4000人以上の従業員を抱えており、継続できている状況の中では続けていく」と説明。
◆戸建て住宅大手・飯田グループホールディングス 「経営方針は変わっていない」としてビジネスを続ける考え。
◆日立 油圧ショベルの生産は止めたが、製品修理の対応は続ける。「一般の人の生活に密着している。『じゃあ、さようなら』ということはできない」(広報担当者)
◆楽天グループ 通信アプリ「バイバー」を「偽情報と戦うための主要な通信チャンネル」と位置づけ、通話やチャットのサービス提供を続ける。
大手総合商社の三菱商事、三井物産は、ロシア極東での天然ガスや石油の開発事業「サハリン1」「サハリン2」の権益を維持しています。日本政府は、中東への依存度が高いエネルギーの調達源を多様化させる必要があるとして、出資継続を「前向きに検討してほしい」と求めており、資源のない日本のエネルギー確保という国策によるものでもあります。
(写真・サハリン2から液化天然ガス〈LNG〉を積んで入港したタンカー=2009年4月、千葉県袖ケ浦市の袖ケ浦港)
「台湾有事」が起きたら…
海外事業に伴うリスクはロシアに限りません。海外から部品の調達などをする3507社への帝国データバンクの調査(2022年12月~23年1月)では「生産や調達の国内回帰または国産品への変更」を検討または実施している企業は24.6%。「国内回帰」の理由は、「安定的な調達」が52.7%、「円安により輸入コストが増大」が44.6%だったほか、「地政学的リスクが増大」も21.0%ありました。
キヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長は2022年10月、「メインの工場を日本に持って帰る」と表明。中国と台湾の緊張関係を例に挙げ、「経済の影響を受ける可能性のある国々においては(生産拠点を)放置しておくわけにはいかない」と語りました。米中の対立が激しくなっているうえ、最大の懸念は中国が否定していない武力による台湾統一です。「台湾有事」がもし起これば、日本企業はとてつもなく大きな影響を受けます。世界情勢にも視野を広げて、業界・企業研究を深めてください。
●台湾めぐり米中緊迫! 「一つの中国」と台湾の歴史を知ろう【時事まとめ】はこちら
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