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2022年08月05日

国際

台湾めぐり米中緊迫! 「一つの中国」と台湾の歴史を知ろう【時事まとめ】

台湾のことどのくらい知ってる?

 台湾をめぐって、米国と中国の関係が緊迫しています。米国のペロシ下院議長が、中国の反対を押し切って台湾を訪問し蔡英文(ツァイインウェン=サイエイブン)総統と会談しました。下院議長は大統領職の継承順位2位の要職です。猛反発した中国は、台湾をぐるりと取り囲むような空海域で大規模な軍事演習や経済制裁で威嚇しています。中国の弾道ミサイルは日本近海にも落下しました。いったい何が起きているのでしょう。ロシアによるウクライナ侵攻のようなことがいずれ台湾でも起きるのではないかと心配する声も強まっています。もし軍事衝突が起きたら、隣国であり米軍基地を抱える日本も無関係ではいられません。ところで、沖縄県のすぐ近くの台湾のこと、どのくらい知っていますか。中国と台湾ってもとは同じ国だったんじゃないの? 中国がいう「一つの中国」や「中台統一」って? 台湾が「国」じゃなくて「地域」なのはどうして? どうして米国はそんなに台湾にこだわるの? 複雑な歴史も振り返りながら、台湾をめぐる「基本のき」を分かりやすく整理します。(編集長・木之本敬介)

(写真は、台湾、韓国の後に訪日したペロシ米下院議長と岸田文雄首相=2022年8月5日、首相公邸)

筋金入りの対中強硬派

 ペロシ下院議長は8月3日、蔡総統と会談し、「今日の世界は、民主主義専制主義の間で選択を迫られている」「米国は決して台湾を見捨てない」などと語りました。ペロシ氏は、筋金入りの対中強硬派として知られています。米国は三権分立の国ですから、議会のトップの意向は必ずしも政府の意向ではありませんが、大統領に何かあったときには副大統領の次に職を継ぐ地位。25年ぶりの下院議長の訪台は中国を強く刺激しました。ペロシ氏はその後訪日し5日、岸田文雄首相と会談しました。首相は会談後、記者団に「台湾海峡の平和と安定を維持するため引き続き日米で緊密に連携していくことを確認した」「中国の弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)を含む我が国近海に落下したことは、我が国の安全保障および国民の安全に関わる重大な問題であり、中国に対し強く非難し抗議をしたこと、そして、今回の中国側の行動は地域および国際社会の平和と安定に深刻な影響を与えるもので、軍事訓練の即刻中止を求めた旨を述べた」と語りました。

(写真は、米国大使館で会見するペロシ米下院議長=2022年8月5日、東京都港区)

中国の台頭で台湾は国から「地域」に

 台湾の面積は九州よりやや小さい程度で、人口は2340万人。歴史を振り返ります。台湾には先住民がいますが、大陸から漢民族が移住するようになり、17世紀に中国の清朝が支配しました。日清戦争後の1895年、日本が領有し1945年に第2次世界大戦が終わるまで日本の植民地でした。一方、清朝崩壊後の中国大陸では、1912年にできた「中華民国」の国民党中国共産党の間で内戦が続き、1949年に勝利した共産党が「中華人民共和国」の成立を宣言しました。国民党は台湾に逃れて国が分裂。以来、台湾海峡を挟んで対立が続いています。しばらくは国連に加盟する「中国」は台湾の中華民国でしたが、徐々に国力をつけた中華人民共和国が1971年に入れ替わり、台湾は国連代表の座を失いました。中国は、台湾は中国の一部だとする「一つの中国」の主張を認めた国としか国交を持たないため、日米を含む各国は中国(中華人民共和国)と国交を結ぶと同時に台湾(中華民国)と断交。中国経済の成長に比例してその数は急増しました。中国が経済力を武器に圧力をかけ、台湾と国交をもつ国は今ではわずか14カ国で、台湾は五輪・パラリンピックにも国ではなく「地域」として参加しています。外交上の関係を断っているものの、各国の台湾との経済的な結びつきは強く、貿易や観光などの交流は活発です。中でも、いま世界中で不足している半導体の製造では、台湾が世界シェアの60%超を占めていることでも注目されています。

中国は専制強化、台湾は民主主義定着

 米国や日本が「国」として認めていない台湾を重視するのは、民主主義が定着しているからです。日米などが「一つの中国」を認めた背景には、中国も経済が発展すればいずれ民主化するだろうという期待があったからだといわれています。ところが、中国は共産党による一党独裁を強める一方で、2020年には香港で「一国二制度」の約束を破って自由と民主主義を奪いました。

 長く国民党の独裁が続いた台湾では、1996年に国家元首にあたる総統の直接選挙が初めて行われて以来、台湾の独自性を守ろうと訴える民進党と、中国との関係を改善して経済を活性化しようという国民党の2大政党の間で政権交代が3回行われるなど、自由と民主主義がすっかり定着しました。日米などの民主主義国家にとって、専制国家である中国が、価値観を共有する台湾を軍事力などで一方的に支配下に置くことは絶対に許せないわけです。

 香港については、こちらを読んでみてください。
香港の民主主義が死んだ日 政府批判しない「愛国者」しか…【時事まとめ】

(写真は、2022年3月18日、オンライン会談した中国の習近平国家主席〈右〉とバイデン米大統領=新華社)

「中台統一」は中国の悲願

 一方、中国共産党にとって「中台統一」は悲願です。19世紀半ばのアヘン戦争以来、欧米や日本の侵略で国土を分断されてきた歴史があるからです。習近平(シーチンピン=シュウキンペイ)国家主席は2019年、「一国二制度の台湾モデルを模索する」と表明。平和統一を目指すことを基本としつつ、台湾独立の動きについては「武力の使用を放棄しない」とも述べ、強く統一を迫りました。

 当の台湾の人々はどうなのでしょう。香港での圧政を目の当たりにした今、親中派は少数派になりました。民主主義の中で育った若い世代ほど中国への拒否感が強い傾向があります。多くの人の本心は「独立」かもしれません。ただ、表だって唱えれば中国の武力侵攻を招くでしょうから、現実的な選択として、世論は統一でも独立でもない現状維持派が多いのが現実です。蔡総統(写真)は「一つの中国」は認めていませんが、表立って独立は唱えていません。とても微妙なバランスの上にあるのが今の台湾なのです。

米国の「あいまい戦略」変更?

 ロシアによるウクライナ侵攻も影を落としています。米国政府は、「一つの中国」政策を支持するとしつつ、一方的な現状変更は認めないという立場で、台湾を防衛する意思があるかどうかを明らかにしない「あいまい戦略」を取ってきました。しかし、米国内では最近、「あいまい戦略」では軍事増強を続ける中国を抑止しきれないとの意見が強まってきました。ウクライナで一方的な現状変更の試みを許してしまったからです。米国には、台湾の自衛に必要な武器供与を定める台湾関係法があり、近年、供与を増やしていますが、台湾を防衛する義務はありません。ただ、バイデン大統領は5月、中国が台湾に侵攻したら台湾防衛のために軍事的に関与するかを問われ、「イエス。それが我々のコミットメント(誓約)だ」と明言。「あいまい戦略」の転換を示唆したのでは、と注目を集めました。

 中国は秋に習主席のトップ続投がかかる党大会があり、米国も議会の中間選挙を控えています。ともに国内の世論に「弱腰」ととられる姿勢はとれないことから、対立がエスカレートしかねません。日本にとっても「対岸の火事」ではない台湾情勢から目を離せません。

(写真は、日米首脳会談の後、岸田文雄首相と共同記者会見をするバイデン米大統領=2022年5月23日、東京・元赤坂の迎賓館、代表撮影)

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