話題のニュースを総ざらい!面接で聞かれる!就活生のための時事まとめ

2021年04月07日

国際

香港の民主主義が死んだ日 政府批判しない「愛国者」しか…【時事まとめ】

「自由」も「民主主義」も…

 香港から「自由」と「民主主義」が失われつつあります。香港は共産党独裁体制の中国の一部でありながら、「一国二制度」のもと自由と一定の民主主義を謳歌(おうか)し、国際金融センター、国際貿易港、人気の観光地として繁栄してきました。ところが民主化を求めるデモの広がりに危機感を抱いた中国政府は、まず2020年に香港国家安全維持法(国安法)で香港市民の自由を奪いました。さらに2021年3月末、政府を批判しない「愛国者」しか政治に参加できないよう選挙のルールを変え、民主派の完全排除に乗り出したのです。一国二制度は完全に形骸化してしまいました。国際社会は非難の声を強めていますが、中国は「内政干渉だ」として聞く耳を持ちません。世界からどう言われようと共産党政権への異論・反論は一切認めず、強権で不満を抑え込んで経済発展を目指すと腹をくくったようです。香港の歴史を振り返り、なぜこんなことになったのか、いま何が起こっているのか、分かりやすく解説します。(編集長・木之本敬介)

50年間の「高度な自治」を約束

 まず、香港の歴史を知りましょう。清朝とのアヘン戦争に勝利した英国が1842年の南京条約で香港島を獲得したのが香港開発の始まりです。当時は辺境の漁村でしたが、英国はその後獲得した対岸地区とともに貿易拠点を築きました。日本が占拠した第2次世界大戦のあと英国の統治に戻ると、対外開放前の中国にとっても大事な貿易の窓口としてさらに発展しました。英国の植民地だったため行政のトップを選挙で選ぶことはできませんでしたが、英国流の資本主義経済や言論の自由がある社会で人々は暮らしてきました。

 香港が中国に返還されたのは1997年。中国政府は投資家の利益を損なわないと英国に約束し、「中英共同宣言」で50年間は外交と国防を除き政治や経済の仕組みを維持する「高度な自治」を保証しました。以後、中国の「特別行政区」として資本主義、独自の通貨、司法の独立、言論の自由などが認められてきました。一つの国に異なる制度が併存する「一国二制度」のもとで発展を続けてきたのです。

200万人デモに危機感

 約束の50年間は2047年まで。まだ半分も過ぎていないのに、何が起きたのでしょうか。中国返還後の憲法にあたる香港基本法には、少しずつ民主化を進め、最終的にはトップである行政長官立法会(議会)議員を普通選挙で選ぶことが明記されています。しかし2014年、中国は行政長官選挙を1人1票とする一方、中国側の意向が働く候補者しか立候補できない制度を導入。「ニセの普通選挙はいらない」と反発した若者らが香港中心部を占拠した「雨傘運動」が起き警察に排除されるなど、民主派と親中派の対立が深まりました。2019年には、刑事事件の容疑者の中国への引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案をめぐって、反対する市民のデモが空前の200万人規模に膨らみ、反中の機運が一気に高まりました。改正案は撤回されましたが、民主化を求めるデモは収まらず、危機感を抱いた中国政府が1年後、香港の頭越しにつくったのが国安法です。

 国安法は、中国政府が出先機関国家安全維持公署」を設けて香港政府を監督・指導し犯罪の処理も行うなど、治安維持に直接介入する仕組みで、国安法が香港の法律と矛盾する場合、国安法が優先されます。これで「一国二制度」は完全に骨抜きになり、言論や集会の自由も「高度な自治」も失われました。林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は「香港に三権分立はない」と言い切り、司法、立法の権利行使には「中央(政府)の制約と監督を受ける」という中国政府の立場を追認しました。国安法施行後、周庭(アグネス・チョウ)さんら民主派のリーダーや中国共産党に批判的な新聞「リンゴ日報」の創業者、議員らが何十人も逮捕されています。

選挙制度変更でだめ押し

 そして、香港の民主主義の息の根を止めることになりそうなのが、今回の選挙ルールの変更です。立法会議員の選挙はもともと親中派に圧倒的に有利な制度ですが、それでも民主派は多くの票を得て一定の議席を占めてきました。そこで今回、親中派が選ばれやすい選出方式での議員枠を増やす一方、民意が反映されやすい直接選挙枠を大幅に削減。「愛国者」でないと行政長官選挙や立法会選挙に立候補できなくしました。2021年9月に立法会選挙、2022年春に行政長官選挙が予定されており、その前に制度を変えて民主派を事実上排除することにしたわけです。

 選挙ルール変更のキーワードは「愛国者」です。中国政府が定義する「愛国者」とは、共産党政権に異を唱えない人のことです。本当の愛国者なら、国のためを思って政府の方針に異を唱えることだってあるはずです。でも、共産党以外の政党を認めない中国では異論は許されないのです。私は経験はしてませんが、戦前・戦中の日本と似たような息苦しさを感じます。

日米欧が批判しても…

 米国のバイデン大統領をはじめ、日本も英国も欧州連合(EU)も、香港統治をめぐる中国の約束違反や人権侵害を強く批判しています。しかし、中国は「内政干渉」と反発し、譲る気配はまったくありません。中国は国連 安全保障理事会(安保理)の常任理事国ですから、仮に世界中が中国を非難したとしても安保理で圧力をかけるようなことは望めません。仮に中国を非難する決議をしようとしても、中国自身が「拒否権」を発動すれば決議案が葬り去られてしまいます。すべての加盟国が参加する「国連総会」に非難決議を提案する手もありますが、中国と経済的に深くつながっている国も増えており、これも一筋縄ではいかないでしょう。各国が独自に経済制裁などをかけたとしても、中国が強権的に推し進める香港の中国化政策を止めさせるのは難しいのが現実です。

 香港を脱出する人が増えています。旧宗主国の英国政府は香港からの移民を受け入れる特別ビザの申請受け付けを始めました。英政府によると、2020年7月以降、英国に渡って申請に備えている香港人は約7000人にのぼり、今後5年で30万人が移住するとの予測もあります。そんな中、私たちにできることは何か。香港関連のニュースに目を凝らして何が起きているのかを知り、自分の言いたいことを自由に言えない社会をひとごとと思わず、香港の人々思いをはせることだと思います。

●関連する台湾の情勢については「台湾がWHOに参加できぬ事情 お隣のこともっと知ろう」【時事まとめ】を読んでください

◆人気企業に勤める女性社員のインタビューなど、「なりたい自分」になるための情報満載。私らしさを探す就活サイト「Will活」はこちらから。

※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから