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2020年06月03日

国際

台湾がWHOに参加できぬ事情 お隣のこともっと知ろう【時事まとめ】

中台関係はコロナ対策にも影響

 中国が香港での反体制的な言動を取り締まる国家安全法制の導入を決め、香港の「一国二制度」が揺らいでいます。この動きを「明日は我が身」と注視しているのが台湾の人々です。「台湾は中国の領土の不可分の一部」と主張する中国は、台湾にも一国二制度を適用する方針だからです。これに対し、台湾の蔡英文(ツァイインウェン=サイエイブン)総統は「断固拒否」の姿勢です。中台の対立は新型コロナウイルス対策にも影響しています。コロナの封じ込めに成功した台湾は5月の世界保健機関(WHO)総会へのオブザーバー参加を希望していましたが、中国の反対でかないませんでした。中国と台湾って、もとは同じ国だったんじゃないの? そもそもどんな関係? 中国がいう「一つの中国」や中台統一って? 台湾が「国」じゃなくて「地域」なのはどうして? お隣の台湾のこと、もっと知りましょう。(編集長・木之本敬介)

(写真は、2期目の就任式典で演説する蔡英文総統=5月20日、台北市、台湾・総統府提供)

世界が注目する台湾のコロナ対策

 新型コロナ対策で台湾政府は、中国で感染発生が伝えられた初期の段階で大陸との往来を即座に遮断。検疫強化やマスク増産など独自の対策も展開。感染者数や死者数を抑え込んだ取り組みは世界から注目されています。WHO総会は台湾の取り組みを世界が共有する機会でした。

 台湾はかつてWHO加盟国でしたが、中国が1971年に国連に入るとき入れ替わりに脱退。その後、国連の専門機関であるWHOからも離脱しました。2003年に新型肺炎SARS(サーズ)が広がったとき、ウイルスや治療に関する情報の入手が遅れ37人が死亡しました。親中的な国民党政権だった2009年には一時的にオブザーバー参加が認められましたが、民進党政権になって中国が認めない方針をとり、今回もかないませんでした。背景には中国と台湾の複雑な関係があります。

中国が圧力、台湾と国交もつのは15国だけに

 台湾にはもともと先住民がいますが、大陸から漢民族が移住するようになり、17世紀に中国の清朝が支配しました。日清戦争後の1895年、日本が領有し1945年の第2次世界大戦が終わるまで日本の植民地でした。中国本土で1912年に成立した中華民国の国民党政権が、共産党との「国共内戦」に敗れて1949年に台湾に逃れました。以来、大陸に共産党が建国した中華人民共和国対峙するようになりました。しばらくは国連に加盟する「中国」は台湾の中華民国でしたが、徐々に国力をつけた中華人民共和国が1971年に入れ替わり、台湾は国連代表の座を失います。以後、日本や米国などが次々に中華人民共和国(今の中国)と国交を樹立します。各国は、台湾も含む「一つの中国」を主張する中国と国交を結ぶと同時に中華民国と断交。中国経済の成長に比例してその数は急増しました。中国が経済力を武器に圧力をかけてきた結果、台湾と国交をもつ国は今ではわずか15カ国です。2021年に延期された東京五輪・パラリンピックには約160の国と地域が参加する予定ですが、台湾はこの「地域」の一つです。一方で、外交上の関係を断ったといっても、日本をはじめ自由主義国と台湾の経済的な結びつきは強く、貿易や観光などの交流は活発です。パソコン部品や自転車製造では、台湾は中国と並んで「世界の工場」でもあります。

民主主義が定着

 台湾海峡を挟んで対立する中台間では、1970年代までときどき砲撃も起きていましたが、中国は1979年に平和統一の実現を呼びかける「台湾同胞に告げる書」を公表。その後「一国二制度」が浮上しますが、台湾が距離を置いている間に、この制度は英国から中国に返還される香港に初めて適用されることになりました。

 そのころから台湾と香港は対照的な道を歩みます。長く国民党の独裁が続いた台湾では、香港返還前年の1996年、国家元首にあたる総統の直接選挙が初めて行われました。台湾の独自性を守ろうと訴える民進党と、経済大国・中国との関係を改善して経済を活性化しようという国民党の2大政党の間で、政権交代が3回あるなど民主主義が定着しました。一方、香港ではトップの行政長官の直接選挙も実現せず、今回の国家安全法制導入に至ります。習近平(シーチンピン=シュウキンペイ)国家主席は2019年1月、「一国二制度の台湾モデルを模索する」と表明。「武力の使用は放棄しない」とも述べ、台湾に強く統一を迫りました。香港の「高度な自治」を保証した約束が骨抜きにされるのを目の当たりにした台湾の人々が受け入れるわけがありません。

 台湾の蔡総統は5月20日、2期目の就任演説で「一国二制度による台湾の矮小化(わいしょうか)を受け入れない」と語りました。民進党の蔡氏は今年1月の台湾総統選で中国との統一拒否を掲げ、対中融和路線の国民党候補に圧勝しました。1期目は支持率が2~3割に低迷した時期もありましたが、2019年に香港で起きたデモに対する中国政府の露骨な圧力が追い風となりました。今はコロナ対策も評価され、支持率は歴代総統トップの70%超にのぼっています。

香港の自由がなくなる? 今さら聞けない「一国二制度」とは【時事まとめ】参照

独立でも統一でもない現状維持って?

 中台関係には米国も大きな役割を果たしています。蔡政権の後ろ盾は米国です。米国も中国との関係上、台湾を「国」としては認めてはいませんが、民主主義の価値観を共有する台湾との関係を重視しています。とくにトランプ大統領になってからは中国との関係が悪化。2019年には新型の戦闘機や戦車の台湾への売却を決め、米海軍の艦船は定期的に台湾海峡を航海し中国を牽制(けんせい)しています。

 これから台湾はどうなるのでしょうか。台湾政治の最大のテーマは常に中国との距離感ですが、いまや台湾の親中派は少数派となりました。民主主義の中で育った若い世代ほど中国への拒否感が強い傾向があります。多くの人の本心は「独立」だと思います。しかし、「一つの中国」を唱える中国が認めることは、今の共産党独裁が続く限りないでしょう。明確に「独立」を志向すれば、米国も乗り出しての大規模な武力衝突にも発展しかねません。だから、現実的な選択として統一でも独立でもない現状維持を望んでいるのが今の台湾なのです。日本にとっても、すぐ南隣に位置する台湾海峡の情勢は「対岸の火事」ではありません。

(写真は、蔡英文総統就任式で披露されたポンペオ米国務長官の声明=台湾・総統府提供)

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