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企業研究にはいろいろなやり方がありますが、社長の発言に注目するのもとても大事な手法です。朝日新聞デジタルに掲載中の「主要企業100社景気アンケート」に、26社の社長のインタビューが載っています。新型コロナウイルスの経営への影響や今後の展開、東京オリンピック・パラリンピック、働き方やジェンダー課題への取り組みなどについて、企業トップが率直に語っています。社長の言葉には、これからの成長戦略や、どんな会社を目指すのかなど、みなさんが知りたい情報が詰まっています。社長インタビューの中から、みなさんの企業研究の参考になりそうな発言をピックアップしてお届けします。(編集長・木之本敬介)
(写真は、サントリーホールディングスの新浪剛史社長)
(写真は、サントリーホールディングスの新浪剛史社長)
コロナの影響と今後の事業展開
あらゆる業界・企業がコロナの影響を受けましたが、多くの会社がウィズコロナ、アフターコロナに向けて戦略を練っています。◆TOTO 清田徳明社長
コロナ禍では、リフォームに前向きな人が増えました。おうち時間が増え、トイレに行く回数は多くなり、お風呂につかる時間は長くなる。洗面化粧台の自動水栓の割合も高くなっています。自動のモノがつけば当然、単価も高くなります。
海外でも需要は増えてくると思います。衛生意識が高まっているので、プラスの効果がコロナ沈静化の折には出てくるはずです。
私たちのなりわいの中心はリフォームです。節水などの技術が進んでおり、新しい商品に置き換えることで、どんどん環境負荷が小さくなります。社会的、環境的な課題を解決することと、経済的な成長は「必要十分条件」みたいな関係。つまり、ビジネスをでかくすればするほど、環境貢献ができる。恵まれた企業です。
◆サントリーホールディングス 新浪剛史社長
国内の飲食店向けは相当厳しい。お客さんが家庭内で消費することに慣れ、経済活動が戻ってもコロナ前と比べて8割、9割のマーケットになってしまう可能性があります。年初は飲食店の需要をコロナ前の7割と見込んでいましたが、大変難しくなりました。ただ、9、10月に繰り越し需要があれば、計画を達成できる可能性はまだあります。
秋口にはワクチン接種が進んで、世界各国で起こっているように消費が一気に回復することを期待しています。飲食店では、今までのように2次会まで行ってたくさん飲むことはないけど、プレミアム志向が出てくるでしょう。そこに付加価値が高い商品を出していきます。国産のウイスキーは量がないので、海外の蒸留所のもので日本人の好みに合うような商品を提供していくことも必要です。
◆エイチ・ツー・オー・リテイリング 荒木直也社長
今後、力を入れていく一つの分野は新しい市場である中国での展開です。4月には中国に「寧波阪急」を開店しました。4、5月は売り上げが想定の65%増となるほどの大盛況でした。地域で一番店にしたうえで、さらなる商売を展開していく拠点にしたい。
「関西ドミナント化戦略」にも力を入れます。関西の1800万人とつながっていくために、オンラインを活用することを考えています。これまではバラバラだった顧客管理システムを一元化し、阪急百貨店、阪神百貨店や、スーパーの阪急オアシスやイズミヤなど、当社のお店のどこにお客さんが来ても、(好みにあった)商品の案内などができるようになるのが理想です。顧客とのコミュニケーションを大切にした新しいビジネスの領域を探索しています。
◆ローソン 竹増貞信社長(写真)
オフィスでの食事だけでなく、朝昼晩すべての場面で「ローソンがあれば十分ね」といってもらえる存在。実は、これがコロナ前から僕らがなりたかった姿なんです。「ウィズコロナ」の今、日常使いを認知してもらうことが大事になります。この1年で、生鮮の野菜や果物、冷凍食品を拡充したり、お酒や調味料を増やしたりしてきました。
食品でも非食品でも「ローソンのあれがほしい」と指名してもらえる商品で30坪の店を埋め、日常使いをしっかり積み上げてコロナ前の売り上げを実現すれば、人の移動が戻った時にさらに成長できる。そういうところをめざしています。
◆松井証券 和里田聡社長
去年は経済全般は非常にマイナスの1年でしたが、反比例して株式市場は好調でした。積極的な財政政策と金融緩和を背景に、資金が市場に流れ込んで世界的に株価が上昇しました。当社も口座開設数が倍ぐらいになり、残高は資産の評価額が上がったので大いに増えました。
感染拡大を抑え込んでいる米中の経済が強く、米国の株価はコンスタントに上がっています。経済活動の抑制が続く日本では、最近の3、4カ月ぐらいは上値が重かった。ただ、ワクチンの接種率が上がれば正常化に向かい、今年末には日経平均が3万2000~3万3000円まで上がる可能性があるとみています。
投資をサポートする部署を立ち上げ、3月から金融商品やマーケットの旬な情報を動画で提供し始めています。コロナ禍により、オンラインでも十分コミュニケーションが成り立つと分かってきました。ネット証券の強みを生かしていきたいと思います。
脱炭素の取り組み
「脱炭素」もあらゆる業界が迫られている課題ですが、ビジネスチャンスとして積極的に取り組む企業も目立ちます。専門用語も出てきますが、これを機に研究を深めてください。◆日本ガイシ 小林茂社長(写真)
今後10年間で研究開発に3000億円を投じます。そのうちの8割はカーボンニュートラルとデジタル関連の分野です。たとえば、脱炭素に向けては二酸化炭素(CO₂)の分離や回収が課題ですが、当社にはCO₂を分子レベルで分離するセラミック膜の技術があります。技術を確立し、製品化できれば脱炭素社会に大きく貢献できます。
再生可能エネルギーで、水を電気分解してつくる水素とCO₂を利用して(天然ガスの主成分である)メタンをつくる「メタネーション」の研究も力を入れます。蓄電池も期待しています。すでに製品化している、大量の電気をためられるNAS(ナトリウム硫黄)電池のほか、屋内に設置できる安全性が高い亜鉛二次電池や、小型のチップ型セラミックス二次電池の技術もあります。他社とも協業しながら、ビジネスを育てていきます。
◆旭化成 小堀秀毅社長
変化があるところには、チャンスがあります。脱炭素の流れは、大手住宅メーカーには有利に働くでしょう。当社の「ヘーベルハウス」は災害に強く、50年、60年と資産価値を保てるのが強みです。これにZEH(ゼッチ)(ゼロ・エネルギー・ハウス=エネルギー消費を実質ゼロにする住宅)が加わります。
再生可能エネルギーに対する関心が高まり、住宅の屋上に太陽光パネルを付けるニーズがさらに増します。賃貸住宅「ヘーベルメゾン」の屋根にも太陽光パネルの設置を進めています。その電力を当社が買い取り、川崎製造所で使い始めました。これも大手だからできる取り組みです。
AI、EVなどの最新技術
人工知能(AI)やビッグデータの活用も広がっています。総合商社がAIを使って医療事業を展開しているのを知っていますか。自動車関連では電気自動車(EV)への対応がカギを握ります。自動車大手や部品メーカーだけでなく、ガラスやタイヤのメーカーも最新技術を競っていることが分かります。◆三井物産 堀健一社長(写真)
当社はIHHヘルスケア(マレーシア)というアジア最大の病院事業者に2011年から事業参画しています。約33%を出資する筆頭株主です。シンガポールやインド、中国など10カ国で事業を手がけ、約80病院(計約1万5000床)を保有しています。患者の診療や臨床検査、病院経営に関するデータが毎日積み上がり、約3000万人分に達しました。これらを匿名化し、統合する作業にシンガポールで着手しています。統合したデータはAIを使って分析します。活用方法の一つには、病院経営の効率化があり、検査や診断の精度とスピードを高めます。また、潜在的な罹患(りかん)リスク、重症化リスクも予測できます。予防や未病の改善にも使えるし、遠隔診療診断のサポートもできます。長期的には、日本の医療にも展開したいと思っています。心身ともに健康で豊かな暮らしを後押ししたいのです。
こうしたビジネスを将来の収益エンジンの一つにしようと思っています。データを活用し、周辺事業や予防、未病の分野での投資先と連携します。ウェルネスオール三井(Wellness All Mitsui)といって、組織内の連携を進めています。
◆AGC 平井良典社長
自動車関連事業は長期的にみれば車の電動化がポジティブに働き、大きな成長が見込めると考えています。EVが普及すれば、これまで以上に付加価値の高い商品が提供できる可能性があるからです。
例えば、EVは電池の容量に限りがあるため、エアコンの消費電力を少なくすることが求められます。エアコンの負荷が大きいと、それだけ1回の充電で走行できる距離が短くなる。電池を節約するために、断熱性に優れたガラスが今よりも必要とされるでしょう。
また、エンジン音が消える分、ドライバーは小さい音でも気になるようになることから、遮音性の高いガラスも求められるはずです。インターネットに車がつながるようになれば、スマホのようにタッチパネルの内装品が増え、画面に使うカバーガラスの引き合いも伸びるでしょう。
◆住友ゴム工業 山本悟社長
EVには、バッテリーが重いという特徴があります。走行距離を最大化するためには、走行中のタイヤに生じる抵抗力を減らすことが基本中の基本になります。タイヤの軽量化や、エンジン音がなくなることで際立つ、タイヤから生じる音を減らすことも、重要になります。それと、発進する時の力が大きいので、タイヤが摩耗しにくくなる性能がしっかりしていることも大事です。これらの技術を融合させて、環境対応車に最適な性能のタイヤを開発していきます。静粛性でいえば、走行音とは別にタイヤの内部から響いてくるノイズを消すために、タイヤ内に取り付ける特殊な吸音スポンジの技術を持っています。
次世代の車に必要な技術の方向性を「スマートタイヤコンセプト」と位置付けて研究を進めており、EVにも活用できると考えています。EVは、MaaS(マース)(次世代型移動サービス)やCASE(ケース)(ネット接続や自動運転、電動化など自動車の次世代技術)の中核です。
たとえば、タイヤの空気圧や摩耗、路面の状態などをタイヤが発する信号から解析する技術も、2025年に実用化する予定です。摩耗や空気圧の低下を防げるだけでなく、センサーとして得られたデータを他社と連携してビッグデータ化することができます。高速道路上を走る車からデータを集め、路面の滑りやすさといった状態をカーナビに配信するなどの活用方法が考えられます。
働き方と女性活躍
働き方改革や女性の登用には、社長の考え方や意欲が不可欠です。それぞれの発言から、自分が働く未来の会社の姿を思い描くことも大切です。◆アルプスアルパイン 栗山年弘社長
転勤も単身赴任も減らしています。コロナ後、制約がなくなっても、ビジネスによる海外渡航はかつての半分くらいにとどまるのではないでしょうか。
社員からは時間でなく成果での評価を望む意見が多く出ています。働き方は変わっていかざるをえないでしょう。来年度から新制度に切り替えます。現状のメンバーシップ型の働き方から一気にジョブ型とまではいきませんが、その中間の働き方をめざします。約20年ぶりの大変更です。
◆三菱ケミカルホールディングス ジョンマーク・ギルソン社長
私たちは外国人、女性を含め多様な人材からなるチームを作っています。みんなが自分の言いたいことを言えたり、言ったことを聞いてもらえたりする会社を目指しています。私はヒエラルキーや、強いトップダウンが好きではありません。「ギルソン社長」とは絶対に呼ばれたくない。チャレンジできる雰囲気をつくっていきたいです。
◆西武ホールディングス 後藤高志社長
改革のキーワードは「アセットライト(資産の軽量化)」です。子会社のプリンスホテルでは従来、土地や建物といった資産を所有したうえでホテルを運営してきました。今後はこの所有と運営を分離します。専門性をより発揮できるようにするとともに、機動的な経営体制の構築をめざします。
外部への資産売却を検討するほか、今後再開発する可能性のある資産についてはグループ傘下の不動産会社に移すことで、プリンスホテルは運営だけに集中できるようにします。外部へ売却する際にはホテル運営をプリンスホテルが受託する方針で、運営するホテルが減ることはありません。
女性活躍につながるとも期待しています。グループ全体で女性総合職の絶対数が少なく、女性のさらなる活躍は当社グループの課題の一つです。ホテル運営に関しては特に優秀な人材が豊富で、すでに主要ホテルの支配人として活躍している女性が複数います。プリンスホテルの業務から不動産管理がなくなることをきっかけに、女性の管理職登用がより一層進むでしょう。人事体系についても従来の年功序列型にとどまらない、女性を含めた多様な人材が活躍しやすいものを整備することを検討します。
◆資生堂 魚谷雅彦社長(写真)
女性の管理職比率は実は世界全体では57.5%、海外だけだと70.3%です。
グローバル化を促進すると必然的にダイバーシティー(多様性)がついてくるんですよ。ジェンダーや国籍・人種の平等も進めてグローバル化しないと、事業はできないと思います。
選択的夫婦別姓の導入も、もう当たり前ではないでしょうか。従来の名前をあえて変えさせる必要はなく、個人の自由でいい。別姓を選べるようにするのは、単に名前だけの問題ではありません。新卒一括採用でみんなが同じようにレールを進んでいかずとも、自分でキャリアを考えてデザインしていけばいいという話の一環でもあります。
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