
(写真は、総資産トップの三菱UFJフィナンシャル・グループの中核となる三菱UFJ銀行。今年4月、三菱東京UFJ銀行から行名変更した)



基本的に1年間のお金の出入りを示す損益計算書に対し、貸借対照表はカイシャが生まれてから今日に至るまでの全取引の蓄積の結果です。右側(簿記の用語で「貸方」といいます)は、決算期末時点で企業がどのような形でお金を調達しているかを、左側(同じく「借方」)はそのお金をどのような形で運用しているかを表しています。このように、すべての取引を貸方と借方の両面から記録する帳簿の付け方を「複式簿記」といいます。
貸方の「負債の部」(図の黄色の部分)は、借入金や社債など返済の必要のあるお金を示しています。基本的に1年以内に支払期限がくるお金を流動負債、それを超えるものを固定負債に分けて計上します。トヨタの場合、それらの負債合計は30.4兆円です。一方、その下の「純資産の部」(図のオレンジ色の部分)は、株式を発行して得た「資本金」や過去の利益の蓄積である「利益剰余金」など、返す必要のないお金です。トヨタの純資産合計は19.9兆円にのぼりますが、うち19.5兆円は利益剰余金が占めており、さすが純利益日本一を積み重ねてきたカイシャといえます。
今度は左側にある借方の「資産の部」(図の緑色の部分)を見てみましょう。現金や定期預金などの「流動資産」と、土地、建物、機械装置などの「固定資産」、長期保有を目的とする株式などに分かれます。それらの資産合計は「総資産」ともいい、売上高と並んでカイシャの規模を表す基本的な指標です。トヨタは50.3兆円にのぼりますが、じつは日本一ではありません。直近の決算で総資産がいちばん大きかった国内企業は、三菱UFJフィナンシャル・グループの306.9兆円(2018年3月期)でした。銀行や証券会社などの金融機関が総資産ランキングの上位を占めています。メーカーや流通業者が出荷した製品や商品はバランスシートから落ちますが、金融機関の場合、貸付金や自己勘定で投資した有価証券などは資産として残るため、総資産が大きくなりがちなのです。
(写真は、イタリアの商都ベネチア。この地の商人が複式簿記を発達させたといわれる)
複式簿記の貸借対照表は、基本的に引き算だけの損益計算書に比べ、とっつきにくいかもしれません。ですが、その読み方をざっくり知っておくことは、社会人にとって必須です。もう少しお付き合いください。
先のトヨタの貸借対照表の要点の太字の部分をもう一度見てみましょう。何か気づいたことがありませんか。そうです。貸借対照表には、つねに次の等式が成り立っているのです。
総資産(資産合計)=負債合計+純資産合計
トヨタのように毎年、多額の利益を上げて内部留保している企業は、純資産合計がふくらみ、負債合計は減っていきます。無借金経営が実現するのです。逆に赤字決算が続くと、新たに株式を発行して資金を調達する「増資」でもしない限り、借金に頼らざるをえなくなり、負債合計の割合が高くなります。その状態が悪化して負債合計が総資産の額を超えてしまうと、純資産はマイナスになり、「債務超過」に陥ります。すべての資産を売却しても借金を返せないことを意味し、カイシャは存続の危機に見舞われます。
このように貸借対照表の右側、つまり貸方の負債と純資産の割合は、企業の健全度を測る目安になります。次回はその指標について解説します。

2025/12/06 更新
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