2018年07月10日

「利益」いろいろ、この二つは押さえよう【カイシャの数字ここに注目!第6回】

テーマ:カイシャの数字

 前回はトヨタ自動車の日本一の実績を例に、「売上高」について学びました。売上高は、製品や商品、サービスなどを売って入ってくるお金のことですから、基本的には大きければ大きいほどいいはずです。ただ、出ていくお金も大きければ、カイシャに残るお金、つまりもうけは減ってしまいます。今回は「利益」に関する数字の読み方を押さえましょう。(朝日新聞社教育事業部ディレクター・市川裕一)

Key Figure#10 営業利益

 前回のおさらいも兼ねて、金融庁の「 EDINET 」からトヨタ自動車の「有価証券報告書」を検索してみましょう。ページを繰っていくと、「連結損益計算書」が見つかるはずです(図)。2017年4月1日から2018年3月31日までの1年間に、トヨタ自動車やその連結子会社が稼いだお金から、事業で使ったお金を引いていき、最終的にもうけがいくら残ったかが示されています。まず上から3行目に、前回も確認した売上高合計29兆3795億円が書かれていますね。これにはリース事業などの売上高に相当する「金融収益」1兆9592億円が含まれていますが、話がややこしくなるので深入りはしません。

 損益計算書には、売上高の下に、出て行ったお金が順番に示されています。まずは「売上原価」です。ネット検索すると「売上高に対する商品の仕入れ原価や、製品の製造原価のこと」などとあります。つまりは直接部門のコスト(費用)で、メーカーなら工場などの人件費も含まれます。トヨタの連結売上原価は22兆6004億円でした。次の「金融費用」は先に述べた金融収益に対応するものですから省略して、その次の「販売費及び一般管理費」を見てみましょう。「販管費」と略されることも多く、メーカーの営業活動にかかる費用や間接部門の人件費、福利厚生費、賃料、通信費などの間接的なコストといえます。トヨタでは3兆904億円かかりました。

 売上高からこれら直接、間接のコスト(「営業費用」と総称します)を引いたものが「営業利益」です。本業でどれだけもうけが出ているかを示しており、これが赤字(マイナス)の場合は「営業損失」といい、要注意です。本業で入ってくるお金より出ていくお金のほうが多いわけですから、カイシャは大規模なリストラでもするか、土地などの資産を切り売りしてしのぐしかありません。トヨタの営業利益は2兆3998億円。こちらも売上高と並んで日本一でした。

(図は、トヨタ自動車の2018年3月期連結損益計算書)

もうかっているのはどの部門?

 これだけの営業利益をたたき出したのは、トヨタのどの部門でしょうか。有価証券報告書の「事業別セグメント情報」には、部門ごとの営業利益が載っています(図)。トヨタの事業は「自動車」「金融」「その他」と3部門に大別されており、営業利益の内訳は自動車部門が2兆111億円、金融部門が2855億円、その他部門が1008億円。トヨタの営業利益の8割以上は自動車部門が稼いでいることがわかります。

 もっとも、売上高に対する営業利益の割合(「売上高営業利益率」)を見てみると、トヨタの金融部門は14.2%と、自動車部門の7.6%、連結平均の8.2%のいずれをも上回っています。トヨタの金融部門は、稼ぎ出す営業利益の金額はさほど大きくないものの、売上高営業利益率で見ると自動車部門よりもうかっているともいえます。

 売上高営業利益率は、企業間の比較にも使えます。たとえば同じ自動車業界で見ると、スバルは売上高こそ3兆4052億円と6位ですが、売上高営業利益率は11.1%とトヨタを上回り業界トップでした(ただし、昨年来の検査不正問題などで2019年3月期は減収<売上高の減少>を予想しています)。図体の大きさに関係なく稼ぐ力のある企業を見抜くには、この売上高営業利益率に注目するのも手です。

(図は、トヨタ自動車の2018年3月期の有価証券報告書から)

Key Figure#11 純利益

 再びトヨタの連結損益計算書に戻りましょう。営業利益の下には、「その他の収益・費用」がありますが、この部分の書き方は企業によって異なります。トヨタの決算書は「米国会計基準」で作られているのに対し、ホンダは「国際会計基準(IFRS)」、国内のその他の自動車会社は「国内会計基準」で書かれているためです。

 ただ、共通するのは、営業利益の下の項目は本業とは直接関係ない収益や費用だということです。たとえば、預金の利息や有価証券配当金為替差益などの収益(国内会計基準では「営業外収益」といいます)や、借入金の支払い利息や為替差損などの費用(同じく「営業外費用」)がこれに当たります。営業利益にこれら営業外の収益や費用を足したり引いたりした数字を、国内会計基準では「経常利益」(赤字=マイナスの場合は「経常損失」)といいます。

 さらに、土地や有価証券などの資産を売却して出た一時的な利益(同じく「特別利益」)や損失(同じく「特別損失」)を足したり引いたりした後に、「税金等調整前当期純利益」(略して「税引き前当期利益」、赤字=マイナスの場合は「税引き前当期損失」)が求められます。トヨタの場合、2兆6204億円ですね。ここから法人税などを差し引くと、最終的な「当期純利益」(略して「純利益」、赤字=マイナスの場合は「純損失」)が算出されます。トヨタの純利益は2兆4939億円で、日本企業として過去最高を更新しました。

 企業は、この純利益の一部を設備投資に回したり、株主に配当として還元したりします。今回はいろんな「利益」が出てきて混乱したかもしれませんが、本業のもうけを示す「営業利益」と、最終的なもうけの「純利益」だけは覚えておきましょう。前述したとおり営業利益は1期でも赤字になると要注意、純利益は3期以上続けて赤字だとカイシャの将来が危ぶまれます。企業研究の際にはチェックするよう心がけましょう。

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