2018年07月03日

「売上高」をめぐる二つの誤解【カイシャの数字ここに注目!第5回】

テーマ:カイシャの数字

 これまで4回にわたり、社員にとって働きやすいカイシャかどうかを、数字をもとに探ってきました。でも、いくら居心地のいい企業でも、成長が見込めなかったり、ましてやつぶれてしまったりしては、社員としては話になりません。今回からは、企業の業績を知るうえで押さえておきたい数字を、初歩からわかりやすく解説していきます。(朝日新聞社教育事業部ディレクター・市川裕一)

(写真は、新型車を発表するトヨタ自動車の豊田章男社長)

Key Figure#9 売上高

 29兆3795億円――。トヨタ自動車が2017年4月1日から2018年3月31日までにたたき出した日本一の「売上高」です。売上高をネットで検索すると、「企業が製品や商品、あるいはサービスを販売、提供した対価として顧客から受け取った代金のこと」などと解説されています。年間の売上高は「年商」とも呼ばれ、カイシャの大きさを示す代表的な指標です。業界のシェアを計算する際に使われるのも、通常はこの売上高です。

 では、ここでクイズです。
★問題1:「トヨタ」ブランドの自動車は、2017年度に約29.4兆円売れた。
★問題2:トヨタ自動車グループには、2017年度に約29.4兆円が入金された。
 「売上高29.4兆円」を表す文として正しいのはどちらでしょうか?

(写真は、トヨタ自動車の売上高を牽引したSUV「C-HR」)

軽自動車から住宅まで

 実はどちらも「ノー」です。どういうことなのか、解説していきましょう。

 まず問題1。車に詳しい方なら、トヨタ自動車には「トヨタ」以外に「レクサス」のブランドもあると答えるかもしれません。確かにそうですが、不十分です。この数字にはトヨタ自動車以外の軽自動車やトラック、さらには住宅なども含まれているのです。

 この29兆3795億円という金額、正確には「連結売上高」といいます。トヨタ自動車は、国内や海外の製造会社や主な販売会社の株を持っており、これらをグループ内の「連結子会社」とみなしているのです。その数は600を超え、軽自動車のダイハツ工業、トラック・バスの日野自動車、戸建て住宅のミサワホームなど、後から株を買って資本参加した企業もあります。

 つまり、29兆3795億円は、トヨタ自動車グループ全体を一つの企業に見立てた場合の売上高なのです。親会社のトヨタ自動車のみを対象とする「単独決算(単体決算)」に対し、グループ全体を対象とする決算を「連結決算」といい、2000年3月末に決算を迎える(これを「2000年3月期」と呼びます)上場企業から公表が義務づけられました。なお、グループ内部の取引は相殺されます。

 上場企業の決算などを一覧できる金融庁の「 EDINET 」から、トヨタ自動車の「有価証券報告書」を見てみましょう(見方は連載第2回を参照)。後ろのほうに載っている単体売上高の額は12兆2014億円と、連結売上高の半分もありません。工場や販売会社の分社化が進んだ現代では、単体売上高はあまり意味を持ちません。最近ではただ「売上高」というと、通常はグループ全体の連結売上高を意味するようになりました。なお、有価証券報告書では、主な連結子会社の名前なども確認することができます。

(写真は、トヨタ自動車の有価証券報告書)

売上高と入金額のずれ

 続いて問題2です。ネット辞書の解説には「顧客から受け取った代金」とあるので、正解と思ったかもしれません。しかし、この部分、より正確に言い直すと「顧客から受けることが決まった代金」なのです。

 たとえば、トヨタ自動車グループが2018年3月の1カ月間に、2兆円分の新車を売ったとしましょう。3月中に陸運局で登録されてナンバーが付けば、全額が3月の売上高としてカウントされるはずです。ただし、その代金がすべて3月中に回収できるとは限りません。一般的に企業同士の取引では、納品から入金まで数カ月を要することも珍しくありません。「売上高=入金額」とは限らないのです。

 決算は黒字でも、入金が大幅に遅れたり多額の出金があったりすると資金が足りなくなり、カイシャがつぶれてしまうこともあります。これを「黒字倒産」と呼びます。売上高や利益だけからは予測できないので、別の数字をウォッチする必要がありますが、そのことはいずれ触れたいと思います。

 どうです、わかりましたか? 経済学や経営学を勉強した方には、簡単すぎたでしょうか。次回は「利益」について解説します。

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