
日本と欧州連合(
EU)が経済連携協定(
EPA)に署名しました。お互いの
関税の多くが撤廃・削減され、世界の
国内総生産(GDP)の3割、貿易の4割を占める巨大な自由経済圏が生まれます。米国のトランプ大統領が進める
保護主義に対抗する意味合いもあります。ヨーロッパのワインやチーズがより手軽に味わえるようになるのはうれしいですね。でも、就活生はこうした「消費者目線」だけでなく、企業にはどんな影響があるのか、ニュースを「ビジネス目線」で捉えることが大切です。(編集長・木之本敬介)
(写真は、EPA締結の署名を終えて握手する安倍晋三首相と、EUの大統領にあたるトゥスク首脳会議常任議長=左、ユンケル欧州委員長=7月17日、首相官邸)
GDP1%押し上げ

日欧EPAが発効すれば、日本側は全品目の94%、EU側は99%の関税を撤廃します。EUから輸入するワインやチーズ、豚肉などが安くなり、日本の自動車や電化製品の輸出がしやすくなります(表参照)。日本の外務省によると、経済効果は日本の
実質GDP(国内総生産)を約5兆円(約1%)押し上げ、29万人分の雇用を増やすといいます。大きな効果ですね。
日本の自動車を欧州に輸出すると今は10%かかる関税が7年で撤廃されます。すでにEUとの自由貿易協定で関税ゼロになっている韓国の自動車と同じ条件になります。ただ、トヨタ自動車、日産自動車など大手は欧州での現地生産を進めていて「EU域内を走る日本車の6割は現地生産」(外務省)のため、効果は限定的との見方もあります。自動車部品の輸出関税は大半がすぐに撤廃されますが、やはりすでに現地化が進んでいます。一方で、現地生産拠点がないマツダなど一部メーカーは恩恵を享受しそうです。
食品・飲料メーカーも追い風

表にあるように、緑茶、日本酒、しょうゆなどの関税はすぐに撤廃されます。世界的な日本食ブームもあり、食品・飲料メーカーには追い風です。
ワインやチーズの輸入業者、小売業者もチャンスが広がります。全国に約270店のスーパーを展開するライフコーポレーションの売れ筋ワインはこれまでチリ産やオーストラリア産が中心でしたが、日欧EPAが発効すれば欧州ワインはすぐ関税ゼロに。同社はフランス産ワインの品ぞろえを増やす方針です。外食産業も歓迎しています。イタリアンレストランのサイゼリアは、食材の減税分を質の高い食材の購入などに充てたり、新しいメニューを開発したりする予定です。
(写真は、大手百貨店のワイン売り場=東京都)
どうなる「酪農王国」

日欧EPAで損をするのは国内の農林水産業界です。チーズ、ワイン、チョコレート、木材など農林水産分野の8割の品目で輸入関税が撤廃されます。国内の「酪農王国」北海道の生産者にも危機感が広がっています。地元特産の昆布を使ったモッツァレラチーズが全国のチーズ品評会で優秀賞を受賞した道央の浜中町の「おおともチーズ工房」の社長は「ここでしかできない製品をつくって試行錯誤を続ける」と語っています。生き残りにはさらなる工夫が求められそうです。
(写真は、「おおともチーズ工房」の大友孝一社長。地元北海道産の生乳を使ったチーズやヨーグルトを製造販売している=北海道浜中町)
自由貿易協定で「米国包囲網」作戦

日欧EPAのほかにも、米国抜きで合意した
環太平洋経済連携協定(TPP11)が今国会で承認され、2019年初めにも発効する見通しです。TPPには、来年EUを離脱する英国のほか、タイやコロンビア、インドネシア、韓国、台湾が参加に意欲をみせており、11カ国から広がりそうです。
東南アジア諸国連合(ASEAN)など16カ国が参加する
東アジア地域包括的経済連携(RCEP=アールセップ)も年内妥結を目指しています。
いま世界は、トランプ政権の保護主義に危機意識を高めています。日本政府は、EPAやTPPなど米国抜きの自由貿易圏をいくつもつくって米国産品だけに高関税がかかる「米国包囲網」を築き、トランプ大統領に自由貿易圏への復帰を促す作戦です。
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