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東南アジアのミャンマーが大変なことになっています。民主化のリーダー、アウンサンスーチー氏のもとで10年前から民主主義の道を歩んでいたミャンマーで、国軍がクーデターを起こし全権を掌握してから40日が過ぎました。市民の抗議デモが各地で続き、治安部隊の発砲などによる死者は60人以上にのぼっています。国連など国際社会は国軍の行動を非難していますが、軍事政権に譲る気配はありません。コンビニのアルバイトなど日本で働くミャンマー人も多いので身近に感じている人も多いかもしれませんが、そもそもミャンマーってどんな国か知っていますか? どうして今クーデターが? アウンサンスーチー氏って? 日本との関わりは? 今さら聞けない「基本のき」をまとめます。(編集長・木之本敬介)
(写真は、最大都市ヤンゴンでの大規模デモ=2021年2月22日)
(写真は、最大都市ヤンゴンでの大規模デモ=2021年2月22日)
国会開会直前にクーデーター
国軍がクーデターを起こしたのは2月1日。この日から始まるはずだった国会では、スーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝した2020年11月の総選挙を受け、新たに大統領を選出し、スーチー氏は政権の事実上のトップである国家顧問への再任が確実視されていました。ところが、国軍はスーチー氏やウィンミン大統領らNLD政権の幹部を拘束。非常事態宣言が出され、国軍トップのミンアウンフライン最高司令官が全権を握りました。「総選挙に不正があった」との指摘に政権側が対応しなかったためと主張しています。ミャンマーって?
かつて「ビルマ」と呼ばれていたミャンマーは、東南アジアで2番目に大きな国土を持ち人口は5000万超。米作りが盛んで国民の9割が仏教徒です。今後の経済発展の可能性から「アジア最後のフロンティア」とも呼ばれています。1948年まで英国の植民地で、独立後は軍政が続きました。長年の民主化運動の末に2011年に民政移管。2015年の総選挙でNLDが勝利し、半世紀に及んだ軍の政治支配に終止符を打ちました。それでも、国会の議席の4分の1を「軍人枠」と憲法が定めるなど国軍の影響力は強く、NLDは憲法改正を昨年の総選挙の公約に掲げ改選議席の8割を超す議席を得て圧勝しました。国軍系の連邦団結発展党(USDP)は惨敗。軍人枠を含めても過半数には届かずNLDに単独過半数を許しました。憲法改正には国会の4分の3超の賛成が必要で実現のハードルは高いものの、危機感をもった軍が影響力の退潮を食い止めるにはNLD政権2期目が始まる前のこのタイミングしかないと判断し、クーデターに踏み切ったとみられています。
アウンサンスーチーさんって?
スーチー氏は、「建国の父」アウンサン将軍の長女として生まれ、1988年に民主化運動に身を投じました。軍事政権によって3度拘束され計15年間も自宅軟禁されましたが、それでも意思を曲げず抵抗を続けたことからカリスマ的な人気があります。1991年にはノーベル平和賞を受賞。2016年にできたNLD政権では、外国人の家族がいると大統領になれないとの憲法の規定があるため、国家顧問として事実上の政権トップに就きました。
日本企業433社が進出
ミャンマーは日本との関わりが深い国です。第2次世界大戦中、日本軍は英領ビルマに侵攻。日本軍と共に英軍と戦った独立軍を率いたのがスーチー氏の父アウンサン将軍でした。戦後、経済復興した日本はミャンマーを支援。軍政時代も、欧米などの制裁路線とは一線を画し、民主化と経済改革を促す関与外交を続けました。民政移管後は海外の資本が相次いで流入。自動車や食品メーカーなど日本企業の進出も続き、2011年度末の53社が2020年12月には433社に急増しました(日本貿易振興機構=JETRO調べ)。最大都市ヤンゴン郊外の「ティラワ経済特区」には総合商社の住友商事、三菱商事、丸紅が参画。日本政府も計1000億円近くの円借款を供与するなど支援を続けてきました。しかしクーデターを受け、キリンホールディングス(HD)が現地で展開するビール事業について国軍系企業との合弁解消を発表するなど、対応に追われています。
デモのシンボル「3本指」の意味は?
国軍に対する抗議デモは全土に拡大し、公務員らが職場を放棄する「不服従運動」も広がりました。治安部隊は多くの市民を拘束するなど弾圧を強め流血の事態も相次いでいますが、道半ばとはいえ10年間の民主主義を経験した国民には軍政への逆戻りに対する拒否感が極めて強いことが分かります。デモのシンボルになっているのが「3本指」のポーズです。もともと米映画「ハンガー・ゲーム」に登場したポーズで仮想の独裁国家に対する抵抗のしるしでした。映画の原作小説によると、指はそれぞれ「愛する人への感謝、称賛、別れ」を表現していましたが、実際に使われたタイでの軍政抗議デモでは「自由、平等、友愛」「民主主義、選挙、連帯」といった解釈もあり、それぞれの人が自らの思いを込めているそうです。
(写真は、在日ミャンマー大使館前で3本指を掲げて抗議する人たち=2021年2月7日、東京都品川区)
これからどうなる?
憲法の規定では非常事態宣言の解除後、半年以内に総選挙が実施されることになっています。国軍は非常事態を1年としていますが、さらに1年延長できるため計2年半は今の体制を続けることが可能。その後も「超法規的」に総選挙を先延ばしして権力の座に居座ることも考えられます。総選挙を実施するにしても、それまでにNLDを弾圧して弱体化させたり、解党に追い込んだりするのではないかとの指摘もあります。スーチー氏に対しては無線機の違法輸入など4件で訴追しており、拘束を長期化する構えです。国連安全保障理事会は3月10日、「抗議デモの参加者への暴力を強く非難する」「国軍に最大限の自制を求める」などとする議長声明を出しましたが、「軍事クーデターを非難する」などの文言は中国やロシアの反対で削除されたといい、強い圧力はかけられていません。日本政府は「西側諸国で唯一、国軍とのパイプを持つのが強み」(外務省幹部)として、米欧とは一線を画した対話路線をとっています。ミャンマーが国際的に孤立すれば中国に接近してしまうという心配もあるため日本独自の制裁には慎重です。
さらなるデモの弾圧や、軍政の長期化が心配されています。ミャンマー情勢は多くの日本企業の関心事でもあります。アジアの友人の一大事として、今後のニュースを注目してください。
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