言葉マイスター ナカハラハラハラ 略歴

2015年11月11日

「手書き」文字の味わい深い世界 ~「木」の縦棒ははねる? とめる?~

 日本におけるパソコンの世帯普及率は約8割です。その一方、最近ではパソコンを持っていない20代も多く、大学のリポートもスマホで済ますものだから、いざ入社するとオフィスソフトなどが使えない人が増えている……なんてニュースを読んだ方もいるのではないでしょうか。

 パソコンにせよスマホにせよ、このIT化社会の中で「手書きする」という場面が減っているのは事実です。先日行われた国勢調査にもインターネットでの回答が導入され、総務省が想定していた1000万世帯を大きく上回る1917万世帯が利用したそうです。

 ところがどっこい(死語?)。こと就活になると、なぜかまだまだ「手書き」が幅を利かせている……というのは私より皆さんの方が痛感されていることでしょう。ESしかり、履歴書しかり。作文・論文しかり。ウェブエントリーが多数派ですが、今でも、あえて手書きさせる会社もけっこうあります。

 10枚くらいならいざ知らず(それでも十分大変ですが)、何十枚と手書きをさせられる皆さんにしてみれば、

 「(業界・会社によって違う)ESはまだしも、基本的に同じ事を書く履歴書くらいコピー&ペーストのたやすい電子入力にさせてほしい……」

 と思うのもやむを得ません。

 先月、お笑い芸人の厚切りジェイソンさんが「履歴書の手書きは効率が悪い」とツイッターで発言したことで、ちょっとした議論が起きました。その話は次回に回して(毎度恒例のじらし……笑)、今日はそもそも「手書き」、特に漢字の手書きの「正しさ」ってなんぞや、という話をご紹介したいと思います。
 毎年文化庁が発表する「国語に関する世論調査」。9月に発表された2014年度版では、「手書き文字の字形に対する感じ方」も初めて調査されました。皆さんはどう思いますか?

・「保」。右下は「木」?それとも「ホ」?
・「木」の縦棒。「とめる」?それとも「はねる」?
・「女」の「ノ」の形。横棒の上に「出る」?それとも「出ない」?

 ちなみに……これはどちらも「正解」なんです。どちらも国が定めた常用漢字表で認められています。手書き文字には多様な書き方があって、字形の多少の違いは許されていますよ、とも記されています。いわゆる

 「細けぇことはいーんだよ!」

 という世界です(笑)。

 「保」は恐らく皆さんの大半が「木」と答えたでしょう。調査でも20代の8割以上が「木」だけが適切だと答えました。しかし70歳以上の7割は反対に「ホ」だけが適切だと回答しました。「木」や「女」でも、世代差の違いこそあれ「どちらかが正しい」という回答が8割以上という結果になりました(画像参照)。

 文化庁の分析によると、これは「自分の小学校時代の教わり方に影響されている」そうです。いわゆる教科書に採用された印刷字体がどれだったか、に左右されてしまっているわけです。刷り込みって恐ろしい(笑)。

 文化庁国語課には「どの字が『正しい』のですか」という問い合わせが、学習塾・小学校のお子さんを持つ親・銀行の窓口などからあるそうです。先ほど触れた「どちらも誤りではないよ」という事実が広く知られていないがゆえの混乱ですね。

 「混乱」とサラッと書きましたが、入学・入社試験の書き取りで「誤字だ!」と減点されたり、銀行や郵便局の窓口で口座を作るときに「字が違っているので書き直して下さい」と言われたりすれば、これはもう「実害」と言って差し支えないでしょう。

 今回の調査結果も影響したのでしょう。2136文字ある常用漢字について、文化庁の「漢字小委員会」が具体的な字形の例を複数示し、正誤はゆるやかに認めましょう……という指針を出す準備を進めています。

今週のおまけ ~何度読んでも意味のわからない作文、その理由が……~

 手書き、と言えば弊社の記者志望者には、毎年入社試験で論文を書いてもらっています。私も2回ほど採点を担当したのですが、あるとき目を疑うようなものに出くわしました。

 弊社の論文の体裁は、なにがしかの「お題」について原稿用紙に書くものです。当然のことですが「縦書き」です。原稿用紙のマス目を見れば分かりますよね。ところが毎年結構な数、「横書き」で書く人がいるんですね……。ネット時代の影響でしょうか。

 ちなみに、横書きくらいでは「目を疑ったり」はしません。本当に驚いたのはある志望者の原稿。縦書きなのに読み始めても文意がさっぱりつかめません。何度も読み返してその違和感の答えが分かりました。なんと……。

 「縦書きだけど左から右に書いていた」

 のです。「またまた~話盛ってるでしょ?」と感じたかもしれません。ウソではありません。それどころか、同じように書いていた志望者がもうひとり、つまり2人もいたのです(汗)。さすがに新聞社を受けに来て(まあ冷やかしかもしれませんが)、これは無いだろう……と絶句しました。

 もしかしたら「ウケ・インパクト狙い」では?と感じた人もいるかもしれません。しかしもう時効だと思うからあえて書きますが、論文の中身自体も全く説得力も独創性もないお粗末なものでした。頭のいい人が奇をてらって使った「作戦」とはとても思えませんでした。

 その後の面接などにかかわったわけではないので子細は分かりませんが、おそらく弊社には入社していないだろうと思います(苦笑)。