言葉マイスター ナカハラハラハラ 略歴

2015年02月04日

前置きは要らない ずばり本題を

 作文や論文、そしてESといった文章の出来を決めるのは何でしょうか。ずばり、『書き出し』です。書き出しがうまく行くと、大体その後はスルスルと書けるものです。

 文章術に「絶対」や「王道」はないのですが、就活でESや作文・論文を書き始める際、間違いなく有効な「技」がひとつあります。それは

 「前置きは要らない」

 ということ。

 具体例を見てみましょう。「消費増税について、あなたの考えを述べて下さい」というお題に対して、以下のような書き出しをする人、いませんか?

 1:「消費税は2014年4月に8%になった。更に15年10月には10%に上がることが予定されている。さて~」
 2:「消費増税は社会福祉充実のためである、と財務省はじめ政府は語っている。さて~」
 3:「消費増税と言えば、私のアルバイト先であるコンビニでは~」

 いずれも悪い書き出しの典型。「据わりが悪いから」という理由で前置きを書きたくなる気持ち、分からなくはありませんが、はっきり言って全くの無駄です。

 これまでも何度か書いてきましたが、就活は「ビジネスの入り口」に皆さんを立たせるものです。
 ビジネスの世界で求められるものとは「スピード」と「結果」、文章で言うなら「答えを早く出せ」ということです。このお題なら消費増税について賛成なのか反対なのか、決めかねているのなら「賛否について悩んでいます」とまず言い切る。話を展開させるのはそこから。

 1は全くの「一般論」から始めています。誰でも知っている(このくらいのこと、知らないと困ります)「事実」から書き始めるのは字数の無駄。ばっさりカット。
 2も近いですね。仮にその「政府の主張」に賛同があるのなら、そこから書き始める。例えば

 2’:「消費増税は社会福祉のために使うと政府は言うが、私はその必要はないと考える。なぜなら~」

 インパクトがありますね。続きを読みたくなる。

 3は上二つに比べるとまだマシです。個人的な体験から書き出そうとする姿勢は悪くない。ただこれも「消費増税と言えば~」というお題の繰り返しが無駄です。

 3’:「消費増税なんて厄介でしかない。私のアルバイト先のコンビニで~」

 以下、小銭で困った体験や自分のアルバイト時給など「身近な」目線で語り始めると面白くなりますよね。

 作文だけではなくESでもそう。鉄板の「あなたの長所を教えて下さい」「あなたが打ち込んだことを教えて下さい」に対して

 「私の長所は~です」
 「私が最も打ち込んだのは~です」

 と書く人の多いこと多いこと。繰り返します。

 要  り  ま  せ  ん  。

 「気が長いことです」「忍耐力です」「気配りできることです」。続けてそれを裏付けるエピソードを展開する。
 「小学校2年生から続けている水泳です」「大学2年から始めたボランティアサークルです」。続けて体験談。

 これで十分。全く失礼ではありません。文字で書くと冷たく見える(=失礼ではないか)、と心配する人が多いのですが、ESではなく面接(=会話)だと考えると分かります。相手の質問をおうむ返しにするのは「こいつ人の言うこと聞いてないのか?」と思われてしまいます。もっときつい事を言えば、頭が悪くさえ見えます。

 「まず答えろ!話はそれからだ」。これを常に念頭に置いて下さい。

今週のおまけ ~有名小説に学ぶ「いい書き出し」~

 ビジネス文書はとにかく「簡にして要を得る」ことが必須。しかしその対極にある文学作品も、書き出しが短く強いものはやはりインパクトがあります。個人的には太宰治と夏目漱石はその双璧だと感じます。

 ☆メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。(太宰治「走れメロス」)
 
 メロスがどんな人なのかはどうでもいいのです(実際はこの後に説明されます)。とにかく「怒っている」ことが大事なのです。

 ☆私は、その男の写真を三葉、見たことがある。(太宰治「人間失格」)

 「え……?誰?何?」と思わない人はいませんね。先を読みたくなる。

 ☆親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。(夏目漱石「坊つちやん」)

 こちらも「で、どんな損を?」と催促したくなる。この後にそれを説明する抱腹絶倒のエピソードが続きます。

 ☆私はその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。(夏目漱石「こころ」)

 こう書かれて「先生」と筆者の関係が気にならない人はいませんよね。

 もちろん文学作品の中には、冒頭を非常に長い文で始めたり、情景描写から書き起こしたりするものもあります。それは「文体」ですから、もちろんどちらが良い悪い、ではありません。

  いずれにせよ小説の「書き出し」には、ESや作文にも生かせるものがまだあります。

 ☆「おい地獄さ行ぐんだで!」
 二人はデッキの手すりに寄りかかって、蝸牛が背のびをしたように延びて、海を抱え込んでいる函館の街を見ていた。(小林多喜二「蟹工船」)

 「会話(やセリフ)から始める」方法です。会話というものは極めて個人的な体験なので、読み手にとっては未知であり引き込まれやすい(先述した「一般論」の正反対)。もっともこれ、あまり乱用すると陳腐になるので注意が必要ですが……。

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