あきのエンジェルルーム 略歴

2016年04月25日

太っ腹な海外インターンには理由がある…… ♡Vol.68

 いつも心にエンジェルを。

 先日、めちゃくちゃ太っ腹なインターンシップを見てきました。ユニクロなどを展開するファーストリテイリングの海外インターン「グローバルスタディプログラム」です。渡航費や滞在費はもちろん、食事代や現地での移動交通費も会社持ちという破格の待遇。こんなインターンなら私だって参加したい! ただ、このインターンに選ばれるのは、もしかしたら採用されるより大変かも……?
 応募者総数は大学生・大学院生約2400人。事前のレポート提出や面接を経て選ばれた参加者は73人。競争率約33倍の狭き門です。3年生が目立ちますが1、2年生もいます。インターンを受け入れるのは、ユニクロの店舗のある上海(中国)、シンガポール、台北(台湾)、メルボルン(オーストラリア)、ロンドン(英国)の5都市。学生が滞在するのは約1週間です。日本での事前研修もあり、「10年後のユニクロ」をテーマに派遣都市ごとに分けられたグループで、ビジネスプランについてプレゼンテーションを行います。役員らの助言を得た上で、海外の市場調査や店舗研修に参加しました。そして、学生自身が発見した現地の課題を踏まえて、それぞれの都市における同社の「成長戦略」を考えるというものです。

 私が行ったのは帰国後、参加学生らが行き先ごとに分かれて、役員らの前でその成果を披露する最終発表会です。学生らはそれぞれの地域ごとに、パワーポイント資料を投影しながら、その地域でユニクロが今後どういった展開をすべきかを説明していきます。発表後は執行役員らから厳しいダメ出しもあります(上写真)。

 この海外インターンにかかる費用は数千万円以上。同社がそれだけのコストをかけてもグローバル人材を採用したい背景には、ユニクロが国内出店より海外出店に注力するようになったことがあります。海外展開は加速し、2015年11月には海外店舗数(864店)が国内の店舗数(844店)を初めて上回りました。しかし、棚に欠品なく商品を積み上げたり、さりげない接客をしたり、国内店舗では当たり前にできている「ユニクロ流」の店舗運営が海外ではなかなか徹底できない、という悩みがありました。
 今回のインターンを企画した人事部長、中西一統さんは、「オーストラリアや韓国など、海外でも積極的に人材を育成していますが、海外店舗を運営できる人材は絶対的に不足している。だからこそ、ファーストリテイリングに入れば早くから海外で働くチャンスがまわってくる、という部分を学生にアピールしたかった」といいます。

 参加するメンバーを選考する際、レポート内容や面接での人物観察に加え、重視したのは学生の「発信力」。インターン期間中はSNSを一部制限したものの、終了後、ブログやSNSなどでインターン体験談を発信してくれることも期待しているといいます(上写真はシンガポールのユニクロでインターン中の学生ら)。

 「このインターンで優秀な人材を見つけたい、というより、あくまでもファーストリテイリングで働くことの意味、面白さを学生に伝えたい。間接的にここから採用につながればいいと、中長期的な視点で取り組んでいます。実際にかなりの学生が周囲にリアルな口コミを発信してくれ、効果があったと思っています。予算との兼ね合いは当然必要ですが、来年も地域を広げてぜひ実施したい」と中西さん。今回のインターンにかなり手応えを感じている様子です。

 人事部門の役員、小山紀昭さんも「他文化のなかで働くという経験は、学生がどこの企業に就職したとしても財産になるはず。当社はグローバル企業と言われるが、あくまでもルーツは日本ということにこだわってこその強みがあると思っている。一企業のための取り組みというより、日本発のグローバル企業の『志』を多くの学生に理解してもらうための最初の種をまいたつもり。いつか花開いてくれることを期待している」といいます。
 インターンや説明会では学生にエース社員を会わせろ、というのが人事業界の常識ですが、今回のインターンでは、現地CEO(最高経営責任者)や、マーケティングの責任者などはもちろんのこと、取引先の銀行関係者、現地の大学の学生との接点など、もりだくさんなプログラムを組みました。中でも学生に好評だったのが、20代で大規模店の店長を務めるようなエース社員とのコミュニケーションだったといいます。
 
 アパレルにはまったく興味がなかったという学生もこのインターンには参加しています。その一人、ロンドン研修に参加した慶応大学文学部4年(インターン時は3年)の三瓶聖奈さんはこう話します。

「本命は外資系のコンサルティングで、インターンを受けるまでは、ファーストリテイリングといえば服を売る会社だよね、というイメージしかなかったんです。でも、今回ロンドンに派遣されて、日本ではこんなに有名でも海外ではベンチャー、ということがわかりました。これまでは業界としての面白さで志望業界を選んでいたけど、今回働いている社員のモチベーションの高さを体感して、どんな社員と働きたいか、企業選びに『人』という軸が新たに増えました。実際に選考を受けるかは未定ですが、ファーストリテイリングが大好きな企業の一つになったことは間違いありません」(上写真は柳井正社長)
 離職率が高く、「ブラック企業」との批判を受けたこともある同社。2012年の新卒採用者のうち3割超は、3年以内に辞めているという現状があります。地域正社員や週休3日制など、働き方の選択肢を増やし、早期の離職を食い止めようと工夫はしていますが、優秀な人材を集めるにはそれだけでは足りません。
 
 ファーストリテイリングが就活生にとっての「人気企業」に生まれ変われるかどうか。そのための投資と考えればこの海外インターン、決してお高くはないのかもしれませんね。