あきのエンジェルルーム 略歴

2016年03月03日

ときには“防犯カメラに映る自分”を想像しよう! ♡Vol.65

 いつも心にエンジェルを。

 「他人事(ひとごと)」という言葉がありますが、自分ではない「誰か」の立場になってものを考える、ということ。これは言うほど簡単なことではありません。

 この欄でも取材したIT企業のサイボウズは先日、2015年12月期の決算を発表、1997年の創業以来初の赤字になりました。売上高は約70億円で前年比17.6%増と順調に伸び、赤字幅も約2億円でそう大きくありません。業績予想では8億円の赤字で、同社は投資するフェーズだとして、青野慶久社長はかねてから「今期こそ赤字にする」宣言をしてきました。赤字の主な理由としては、17億円を超える多額の広告宣伝費だとしています。
 実は青野社長はもう一つ、「裏目標」があったと話していました。
「堅い経営、黒字体質のままバトンタッチするのではなく、創業者も普通に赤字を出すという実績を作っておきたかった」。近々社長を退く予定はないようですが、すでに後継社長のマインドセットについて意識しているというのに驚きました。

 同社は、働く母親を主人公にしたショートムービー「大丈夫」を2014年12月に公開して話題になりました。子どもの発熱で保育園に呼び出され、申し訳なさそうに退社するシーンから始まり、育児や、持ち帰り仕事に追われる日常の回想シーンなど、まさに「あるある」の詰まった内容で、「泣ける」「私のことかと思った」と共感を集めました。しかし、その第2弾「パパにしかできないこと」がリリースされるやいなや大炎上。その理由は、そのメッセージが、ざっくりいうと子育てで大変なママをパパが「抱っこ」して癒やしてあげましょう、という内容だったためです。働くママ世代を中心に「ふざけるな」「そんなことより、皿の一枚でも洗え」等々と散々な言われようでした。
 そんなサイボウズが、2015年12月から、計6回の連続ドラマ仕立てで、パパを主役にしたショートムービーを週一回ずつ更新してきました。1月に完結しましたが、共働き家庭の2児のパパ役で出演するのは俳優の田中圭、脇役にオダギリジョーと、地上波で流されてもおかしくない豪華さでした。広告宣伝費、ケチってないのは確かです。

 夫の描き方は、まずまずリアルです。帰りが遅く、子どもと向き合う時間はろくにないのに、唐突にかさばるおみやげを買ってくる。皿洗いを少ししただけで、家事を手伝っている気まんまん。何となく妻との会話の雲行きが怪しくなるとスマホのゲームに逃げこむ。
 こんなパパ、いそうだなあ。

 ある日、妻が倒れて入院し、病院に1泊します。いきなり、降りかかってくる子どもの保育園迎え、夕飯の世話……。いったん引き受けていた遅い時間の仕事も迷いながらも断ります。てんてこまいの一日で、ようやく妻の大変さに気付くという話です。
 結局、ここまでしないとパパはママの大変さに気付けないのか、というトホホな感じはありますが、まあ、そんなもんでしょう。公開後の反応は「まさに我が家のよう」という共感もあれば、「うちのパパはここまでひどくない」という驚きなど、さまざまでした。
 青野社長は、イクメン指数ゼロの、やや“ダメ”寄りのパパを主役にしたポイントは「あまり働くママ視点に寄り添いすぎると、結局、パパたちが『どうせ俺らが悪いって話だろ』と拒絶反応をして見てくれなくなるから」と話していました。それも一理あるかもしれません。だれだって見て不快になる、居心地が悪くなる、とわかっているものを見たくはありませんから。
 妻目線ではやや「なまぬるい」内容ですが、刃の切っ先が鋭くない刀で切られた傷のほうが、治りが遅いとよくいいます。このショートムービーにはそんな効果があるかもしれません。

 このムービーのいいところは、一つの出来事を、複数の視点で表現している点です。子育てでなく、仕事のシーンでもその視点が生きています。

 主人公はセキュリティ関係の技術系社員のようですが(当てずっぽう)、営業担当の同僚に泣きつかれ、仕方なく顧客のクレーム対応に同行します。クライアント企業の女性社員からは、なぜこんなに対応が遅いのか、と上から目線でガミガミ指摘されます。同僚である営業社員が平謝りするので、主人公は自分に非はないと感じていながら、仕方なく頭を下げます。その後、その女性社員が上司らしき人に、今回のトラブルを頭ごなしに注意され、懸命に謝っている姿を目撃します。そこで初めて、それぞれに立場があり、みんな大変なんだなあ、という事に気付くのです(遅いって!)。その後、営業担当からの依頼にも快く同行するようになります。クライアントの立場、営業の立場、そして、妻の大変さに、徐々に気付いていきます。その途中で、仕事人間だったせいで妻と子どもに愛想をつかされた先輩社員の自嘲にも出合います。
 このパパはイクメンとしてはまだまだです。でも、「気付く」という心の柔らかさがあれば、「変わる」ことはできます。人の事情、人の思惑に気付けば、おのずと自分が「やるべきこと」「やったら喜ばれること」が見えてきます。それは「気が利く」「周囲がよく見えている」「想像力がある」と周囲からの高評価につながります。その真逆が「自己中心的」という評価です。

 小さな行動でも、自分の行動がもたらす良い影響、悪い影響を意識することは、就活はもちろん、社会人として欠かせないことです。

 たとえば、集団面接やグループディスカッションで、一人、長々と話すとします。他の学生の持ち時間を減らし兼ねないことに気付けないわけですから、当然、自己中心的な学生だと思われます。OB訪問で企業HPに掲載されているようなことを聞けば、相手(OB社員)の時間の貴重さに配慮ができない、これまた想像力不足の学生だと思われます。
 悪気はないのに自己中心的という烙印(らくいん)を押されたらもったいないですよね。自分の言動を、相手の目線で考える、ときには防犯カメラのように、天井にカメラがついていると仮定して、いまの自分がどう映っているか、そんな映像を想像してみましょう。ちょっと息苦しいように感じるかもしれませんが、就活はもちろん、人間関係で無用なトラブルを避けるためにも、きっと役に立ちますよ。