あきのエンジェルルーム 略歴

2015年11月19日

資生堂ショック!? 女性に優しい企業が選んだ道とは…(後編) ♡Vol.58

 いつも心にエンジェルを。

 引き続き「資生堂ショック」の話です。前編で、女性に優しい企業として常に就職人気ランキングで上位を占める資生堂が1万人いる美容部員(ビューティーコンサルタント=BC)を対象に「子育て中の女性社員にも、他の社員と平等なシフトやノルマを与える」と方針転換をした背景について紹介しました。
 実家が頼れる人、夫が協力的な人でないと、働き続けることが難しいという状況は、ある意味、女性活躍社会の実現という視点から見ると、「後退」かもしれません。しかし、「女性に優しい企業」として先頭を突っ走ってきた資生堂が、顧客の大多数である女性に反発を受けるような施策を安易に選択するはずがありません。

 資生堂は一見、美容部員にシビアな施策をとっているように見えますが、2016年4月から11年ぶりに美容部員の正社員採用を再開しています。しかも500人という大量採用です。正社員採用を中断していた時期に入社した契約社員約2000人にも正社員登用試験を受けてもらい、順次、正社員にするとしています。美容部員のモチベーションを上げ、店頭販売、対面販売を本気で「強化」したいのは間違いありません。

 実は資生堂に限らず、子育て女性が働きやすい制度をもつ企業では同じことが起きています。時短勤務などの制限勤務を選択する社員がほんの一握りであれば、全体でその影響を吸収することができます。通常勤務ができる男性社員や独身、既婚でも子どものいない女性社員が多い企業であれば、時短勤務社員は「労働時間短縮による給与の減額」「出世や高い評価は望めない」という不利益さえ甘受する覚悟があれば、平和に働き続けることができました。「マミートラック」と呼ばれる子育て社員のたまり場ともいうべき職場や働き方を暗黙のうちに設けている企業もあります。

 しかし、女性社員の割合が増え、マミートラックはもう満杯、子育てや介護を担う一部の社員だけを配慮するわけにはいかない、そうなったときこそ、企業のホンネがわかるのです。
 たとえば新聞記者という仕事もそうで、朝日新聞社でも、ママ記者の配属については、突発的な事件に対応しなくても大丈夫な部署に集中させてみたり、逆に各部署に分散させてみたり、試行錯誤を続けています。ママ記者は地方勤務や夜勤ができない場合があります。時短をとるママ記者もいます。その分、他の記者に“しわ寄せ”(あえて通常勤務ができる社員の目線で表現しています)が集中してしまったときどうするのかに頭を悩ませているのです。

 この連載で取材したエンジェル企業でも、職場結婚した夫婦の妻のほうが育休や時短を取っていると、その部署のボスが、夫の部署のボスに、「なんでうちの部署ばっかり損しなきゃいけないのか。ダンナのほうにも育休(時短)取らせろ」と詰め寄った、なんて話も聞きました。
 つまり、ママ社員、あるいは子育てなどで労働時間に制限のある社員を組織が「痛み」(デメリット)と感じるという構図がまだあるのですね。本来は、男女、子の有無にかかわらず、どの社員もライフイベントに合わせた働き方を選択できるような組織運営がこれからは必要なのです。そして、もしだれかにその負担が偏っているとしたら、その人が不公平感を持たないような報われるシステムが必要なのです。それは収入かもしれませんし、出世かもしれませんし、まとめて1カ月のバカンスかもしれません。

 私は思います。時短制度など、子育て中の社員に優しい、福利厚生の整った企業に勤めている妻をもつ男性は、子育てにどの程度協力的でしょうか? 子どもが急に熱を出したとき、保育園に迎えに行くのはどちらですか? 「キミの会社はいい制度があってよかったね」と、自分は長時間労働も休日出勤も厭(いと)わず、自分のキャリアを最優先していないでしょうか? 妻が早退したこと、看護休暇を取ったこと、出張を断ったこと、時短勤務を選んだことによって社内で受ける不利益やキャリアダウンを想像したことがありますか?(写真は資生堂の社内託児所「カンガルーム」)
 資生堂が美容部員の働き方にメスを入れたことで、おそらく、子育て中の美容部員の各家庭では、大なり小なり夫婦で何らかの話し合いがもたれたと思います。自動的に、「出産」→「妻が時短勤務」(育児家事をメインに担うのは妻)というのではなく、いま目の前にある、逃げも隠れも出来ない「子育て」というミッションに家族がどう向き合えばいいのか。そこで夫にもできることはないのか。そこで初めて「そういえば、あなた(夫)の会社の子育て支援制度ってどういうものがあるの?」と確認した妻もいるかもしれません。実際に、「会社が決めたことだから仕方ない」という背景があったからこそ、夫と初めて子育ての分担についての話し合いができた、という女性社員もいたそうです。そういう一歩が肝心なのだと思います。
 個々の事情があるでしょうから一概には言えませんが、どんな企業に入るにしても、もしみなさんが、出産後も「働き続けたい」、しかも「お荷物扱いされずに」と思うのであれば、夫との価値観のすり合わせを早い段階でしておかねばならない、そんな時代が来たのです。冷静に話し合えればいいですが、夫の無理解に直面して、家庭内に不穏な空気が流れる可能性もあるでしょう。
 
 この連載でも紹介しましたが、「一人一殺」、妻が全体重をかけて夫一人だけでも、その価値観を「変える」ということも必要になってくるかもしれません(バックナンバーも読んでね)。

 夫は夫で、共働きは収入も増えるしウェルカムだけど、出産後は妻に妻の会社の制度を利用してもらい、自分の働き方は「変えない」というのでは、女性たちから「選ばれない」「納得してもらえない」時代が来るかもしれません。そうでなくても、妻が病気になったり、子どもに障害があったり、親の介護が必要になったり、ということはだれにでも起こります。男性であっても、自分自身が子育て支援の充実した企業に入社しておくことが、いざというときの「安全弁」になるかもしれません。そう考える男子学生が増えれば、企業もどんどん制度を充実させるきっかけになるでしょう。「女性の戦力化」という課題は、妻が働いている企業の努力だけでなく、夫が働いている企業の努力も不可欠なのです。

 そう、これはきれい事です。しかし、働く女性の約6割がいまだに出産を機に退職という道を選んでいるのは、企業の育児支援制度が充実していないからだけではありません。男性の育児参加がそもそも期待できない、という理由のほうが大きいのです。
 資生堂のように、子育て社員に優しい施策をもつ企業が、かえって、男女間の、夫と妻の間の家事育児における不平等を「温存させてしまう」というなんとも皮肉な結果をもたらしていた、という面もあるわけです。
 資生堂は女性社員に直接「夫と戦え」とハッパをかけたわけではありません。しかし、超高齢化社会は目の前です。資生堂に限らず、そして、子育てに限らず、遅かれ早かれ時間的な制約のある働き方が必要になる社員は増えていくでしょう。そういった課題に直面したとき、キャリアを優先するべきは「当然、夫でしょ?」と、妻側だけが最大限に制度を利用したり、退職したり、というのではなく、夫婦で等分に負担を分かち合う、あるいは妻のキャリアを優先するなど、いろんな選択肢を視野に入れておくことが大事なのだと思います。

 そして、そういった話し合いは、愛情の薄れはじめた夫婦では決定的亀裂になることもあります。まさに「一人一殺」、命がけの勝負です。ですので、できれば愛情の潤沢な、ラブラブな時期に、話を詰めておいたほうがいいでしょう。

 私自身はそのタイミングを逸してしまい、大変後悔しております。

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