あきのエンジェルルーム 略歴

2015年11月13日

資生堂ショック!? 女性に優しい企業が選んだ道とは…(前編) ♡Vol.57

 いつも心にエンジェルを。

 11月9日の朝のNHKニュース「おはよう日本」で特集された「資生堂ショック」がネットなどでも盛り上がっていますね。見ていない人もいるでしょうから、簡単に内容を説明しますと、これまで女性社員に優しい会社としてワークライフバランスの実現のため、他社に先駆けて1990年代から育児休業や短時間勤務の制度を導入してきた資生堂が、昨年4月、1万人の美容部員(ビューティーコンサルタント=BC)を対象に、「子育て中の女性社員にも、他の社員と平等なシフトやノルマを与える」と方針転換をした、というニュースです。新制度では短時間勤務利用者でも、原則「月2日の土日祝勤務」「月10日の遅番勤務」が必須。日程はそれぞれの家庭事情を考慮しつつ、会社のほうが決めるとしています。接客ノルマはフルタイムと変わらず1日18人です。
 国内約2万人の女性従業員を抱え、結婚しても出産しても働きつづけやすい会社として女子の就職人気ランキングでは常に上位に上がる資生堂が、いったい突然何を言い出したのか……。ネットではニュースサイトに批判的な記事が掲載され、掲示板に「ブラック確定」「不買運動をする」「イメージダウン」など、辛辣(しんらつ)なコメントの書き込みが相次いでいます。

 女性にとって働きやすい=だれにとっても働きやすいエンジェル企業だとして、その取り組みを紹介してきたこの連載では、実は連載の立ち上げ前から、エンジェル企業の筆頭格として資生堂を取材したいと思っていました。しかし、そのとき担当者の方ははっきり「福利厚生充実、女性に優しい企業、というところはもうアピールしたくないんです。制度そのものも大幅に見直している最中なので、今回の企画趣旨に合わないと思います」と言っていました。それがまさにこの方針転換だったのです(写真:資生堂)。
 今回、にわかに話題になっていますが、この資生堂の方針転換については今年6月下旬に日経新聞が「女性が創る」というシリーズ連載の中で、「脱『優しい会社』 甘えなくせ、資生堂の挑戦」という見出しで取り上げています。資生堂が「優しさの次のフェーズに向かっている」というポジティブな取り上げ方で、「資生堂ショック」という言葉も登場しません。「資生堂ショック」という言葉を使い始めたのは週刊誌「AERA」(8月3日号)です。見出しは「働く女性に『資生堂ショック』 女性は保護の対象から戦力へ」。“ショック”という単語は使いつつも、決して批判的な記事ではありません。NHK「おはよう日本」でも、スタジオで“受ける”アナウンサーは「職場の不公平感をなくすことで、お互い助け合おうという意識がより強くなるのかもしれませんね」とおおむね好意的な表現でしめくくっていました。

 おそらくネット上で話題になったのは、紙である新聞や雑誌ではなく、テレビという媒体、しかも全国区のNHK、というのがもちろん大きいのでしょうが、それに加え、育休から復帰する女性社員に渡されるというDVDの映像のもつインパクトが大きかったような気がします。「仕事と育児の両立 新たなステージの進化」というタイトルのそのDVDでは、女性役員が「月日を重ねるごとに、なんとなく『育児時間』を取るのが当たり前、甘えが出てきたりだとか、そこを取るという権利だけ主張しちゃったり」と話していました。時短勤務する女性社員はつねに会社や同僚に「罪悪感」と「感謝」を持ち、小さくなっておれ、といわんばかりの一昔前の「おじさん社員」的な言動には私も驚きました。人事担当者も「育児期の社員は常に支えられる側で、本人たちのキャリアアップも図れない。なんとか会社を支える側に回ってもらいたいという強い思いがあった」と、子育て社員はこれまで会社の“お荷物”だった的な文脈でコメントしていました。
 いま、女性はもちろん、多様な人材が社内で活躍できるために、さまざまな企業で、子育て社員や、介護中の社員が働き続けやすい制度を充実させています。その取り組みはまだ道半ばです。
 
 一方、資生堂は、1990年には育児休業を3年まで取得できるようにしていましたし、91年には時短勤務制度も導入していました。2003年にはカンガルームという社内保育所まで設置しています。この連載の日産自動車の回でも紹介しましたが社内託児所というのは、企業にとっては完全な持ち出しの取り組みです。育児期間中の転勤への配慮、配偶者の転勤に伴う異動考慮など、資生堂は、ワークライフバランスや女性活躍、ダイバーシティなどという言葉が浸透していないころから「これでもか」というほど、女性社員が「働き続けられること」に注力してきたのです(画像:資生堂)。

 その果てが「女性を甘やかすとろくなことはない」「売り上げも下がった」というのでは、後に続く企業も不安になります。特にダイバーシティの推進に対して、やや懐疑的な経営陣や管理職のいる企業では、政府がうるさいから手は着けてみたけど、そんなにがんばる必要ないな、とならないとも限りません。そもそも「ダイバーシティの推進」というのは、「長時間労働可」「転勤可」「会社命!」の画一的なスペックの社員集団を率いるより、時間もお金もロスが多い取り組みなのです。ロスが多くても、多様な社員が社内にいることで起きる「イノベーション」が、新たな利益をもたらすとその効果を信じて取り組む「先行投資」なのです。
 ちなみに、資生堂の場合、美容部員の1割強にあたる1100人以上が時短勤務を選択しています。会社側は、時短勤務者の増加と、国内年間売り上げの1000億円減少とを結びつけて考えているようです。時短勤務者(多くは早番)が退社してしまい、書き入れ時の17時以降に美容部員の数が足りなくなっているのが、その原因というのです。因果関係がどこまで証明できているのか、報道だけではわかりませんが、仮に人員不足による機会損失により、売り上げが減少したのが本当だとしても、それは「時短勤務者のせい」ではなく、会社の人員配置のミスでしかありません。実際に、資生堂は美容部員の不足する時間帯に契約スタッフなどを入れて補うこともしています。時短勤務と、それをカバーする他の社員の不公平感、モチベーション悪化などを安易に「業績悪化」と結びつけるのはどうみても無理があります。

 しかし、そこは天下の資生堂です。私はここに大きな狙いが潜んでいるとみました(後編に続く)

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