あきのエンジェルルーム 略歴

2015年10月01日

人生の選択肢、あえて絞ってみませんか? ♡Vol.53

 いつも心にエンジェルを。

 みなさんは10代のころ、親や先生から「やりたいことをやりなさい」「好きなことを見つけなさい」と言われた経験が一度や二度はあるのではないでしょうか。
 以前、臨床心理士の信田さよ子さんに、就活中の子どもをもつ親へのアドバイスという取材で聞いた話です。信田さんいわく、親が子に「好きなことを見つけなさい」とか「やりがいを持てる職業につきなさい」というのは“禁句”なんだそうです。
 親にそう言われ続けた子どもは、「何かすてきな夢をもたなきゃいけない」「ちゃんとした仕事につかなきゃいけない」と刷り込まれ、就活でも、親が納得するような知名度の高い企業ばかり受けたり、思うように内定を得られない自分が受け入れられず、うつ状態になったりすることもあるといいます。

 信田さんは「そもそも今は正社員というパイそのものが減っている。3K職場はイヤとか、スーパーや飲食業は大変そう、とか選り好みしていたら、一握りの優秀な学生以外は、どこかの段階で必ず壁にぶつかります。親は子どもに『ものわかりが悪い』と思われてもいいから、ふわふわした夢とかやりがいの話でなく、現実に即した話をしてあげてほしい」とも言っていました。
 そのアドバイスの一例が、「就職したら、とにかく自立してね。もし自宅から通うなら、月に食費3万円は入れなさい。それができる安定した仕事に就きなさい」でした。

 確かに子どもの立場からしても、企業の知名度や、仕事の内容といったいろんな物差しを持たされるより、「経済的に自立しなさい」の一点に絞って要求されたほうが、就職先を見つけやすい気がします。
 そんな話をふと思い出したのは、先日、都内の美容専門学校で授業をする機会があったからです。テーマは新聞記者が教える「雑談力」の磨き方というもの。生徒の年齢は20歳前後、卒業まであと半年です。ちょうどこれからが彼、彼女らにとっての就活の本番。中にはすでに内定をもらっている人もいます。就職先は美容院だったり、ネイルサロンだったり、ブライダル業界だったりいろいろですが、何かしら「美容」にかかわる仕事を目指す人が多いようでした。
 ワークショップの一つで、10年後をグループ内で互いに想像してもらったのですが、「上戸彩のヘアメイクになっている」という憧れに近いものから、「そろそろ独立を考え始めている」という現実的なものまで、いろいろありました。もちろん仕事に関係なく、プライベートでも、「公務員と結婚している……はず」「スーパーのチラシを見るのが日課」など、面白い答えがありました。
 高校卒業後に、大学でなく専門学校を選択した時点で、彼、彼女らの「軸」はいったん決まっています。親が美容院を経営しているから、などの理由で自然にこの進路を選んだ、という人もいれば、経済的に大学進学は難しかった、学校でいじめに遭って不登校になり、普通の勉強が苦手になったという人もいて、動機は人それぞれです。
 でも、私が最近会うことの多い就活生に比べると、いろんな意味で「スッキリ」している、言い方を変えれば「モヤモヤしていない」人が多いように感じました。
 なぜか。それは「美容にかかわる仕事に就きたい」という自分の軸が決まっているからでしょう。就職先もある程度絞られています。また、自分が卒業までに磨くべき実技や座学がはっきりしていますから、あとはスキルを高めることに集中すればいいのです。もちろん美容は接客業ですからコミュニケーション能力も欠かせません。マナー講座などもあります。

 どんな職種でも、どんな企業でも、就職先として自由に選択できる(入社できるかどうかは別にして)というのは、実は苦しいことです。なぜなら、その会社に入れるか否かは、能力や選択眼も含めて「自分次第」「自己責任」と思ってしまうから。大海原から真珠貝を見つけるだけでも大変なのに、その真珠貝を狙っている人は日本中にわんさかいる、という場面を想像してみてください。

 いま現時点で内定のない人へ。ここは思い切って、漁場(選択肢)を絞っていきましょう。「なんでも選べる」ではなく、「ここだけは譲れない」という発想で、改めて企業研究してみてください。
 10年後の自分はどうなっていたいのか。

 たとえば、その答えが「子どもがほしい」だったら、子どもを産んでも働き続けられるように、転職や起業のしやすい「スキル」を身につけるとか、福利厚生がしっかりした会社を選ぶなど、企業選びの視点がどんどん絞れていきます。専業主婦になれるような稼ぎのいい夫をつかまえる、という選択肢もアリですが、できれば「自力本願」がいいですね。
 「10年後は東京スカイツリーの見える場所に住んでいたい」→「家賃高いかも」→「その頃には手取りで月25万はほしいな」→「ちゃんと昇給のある会社でないとダメだな」→「つまり正社員?」→「でも転勤はイヤ」→「じゃあ、地域正社員制度のある会社にしよう」あるいは「遠方に支店や営業所のない会社にしよう」などと考えていけば、おのずと、志望企業は絞れていきます。
 「10年後、せめて部下が一人くらいはいてほしい」でも、「親に仕送りしたい」でも、「月に1本、映画を見に行ける休日と経済力は確保したい」でも、どんな未来予想図でも構いません。できるだけ具体的に、自分の心にウソをつかずに考えてみてください。それが可能なのはどんな会社なのか。そうすると、とりあえず業界だけ絞って、人気企業を上から順にエントリーするような、テキトーな就活はしなくてよくなります。
 いきなり大海原に漕ぎ出すのではなく、まずしっかり陸に立ちましょう。岸から数十メートルの浅瀬にも自分が食べたい魚はいるかもしれません。調子をみながら、徐々に漁場を広くする、あるいは海岸を少しずつ移動すればいいのです。自分に自信がもてたら沖釣りもいいでしょう。

 コツは、しばし自分(自己責任論)を棚に上げること。どんな太公望(釣り名人)でも釣果のない日があるように、自分がコントロールできることには限りがあります。肩の力をフーッと抜いてみましょう。