あきのエンジェルルーム 略歴

2015年10月08日

出世をあきらめれば、面白いことができる? ♡Vol.54

 いつも心にエンジェルを。

「企業経営に大事なのは、『採用』と、『ダメな人に辞めてもらうこと』」

 なんとまあ、率直な言葉でしょうか。言葉の主はプライベートでも何度かご一緒している、前LINE社長の森川亮(あきら)さん。LINEを辞めたいまは女性向けにファッションやトレンド情報の動画サイト「C Channel」を立ち上げ、運営しています。冒頭に紹介したのは朝日新聞の社内講演会で出た話です。
 以前から、「この会社でずっと働き続けたい、と思っている人より、さっさと辞めたいと思っていて、実際に辞めちゃうような社員を採用したい」と、雑談のなかでも言っていました。
 今年出版された著書『シンプルに考える』(ダイヤモンド社)=右写真では、好調だったLINEを突然退社した経緯や、森川さんの経営理念が紹介されています。「事業計画は立てない」「偉い人はいらない」「情報共有はしない」「定例会議はしない」など、独創的な「ないない尽くし」で、LINEを引っ張ってきました。
 講演で聞いた話も、こういう経営者のいる会社なら働きやすいだろうな、という点、しんどいだろうな、という点、両方ありました。就活中のみなさんにも役立ちそうな“名言”もあったのでいくつか紹介したいと思います。


「出世をあきらめれば、新しいこと、面白いことができる」
 森川さんは筑波大学を卒業後、1989年に日本テレビ放送網に入社、理系社員ということで、財務システムや視聴率の分析システムなどを作ってきました。音楽が好きで、エンタメ志望だった森川さんは、「つまらない」「早く辞めたい」と思っていたそう。上司には「石の上にも3年」「3年経ったら、好きな部署に行かせてあげるから」と言われていたそうですが、上司のほうが先に異動し、約束を反故(ほご)にされたといいます。サラリーマンにはよくあることですね。
 我慢の限界になり、辞表を出したら、転職する数日前に、慰留と、これまでの会社への貢献の見返り(?)として、会社が森川さんのために新しい部署を準備してくれたのだそう。デキる人は違いますね。

 部下は1人だけでしたが、社内でインターネットのプロバイダーを作って、メールサービスを始めたり、BSデジタルの動画配信や海外輸出をしたり、新規事業を積極的に立ち上げてきました。しかし、相変わらず社内からの反応の多くは「余計なことするな」「こんなことやってもらったら困る」といったネガティブなものが多かったそうで、その後、2000年にソニーに転職します。

 テレビやオーディオをネットにつなぐ機能をつけるなど、新規事業を立ち上げる要員として、当時の社長に採用されたのですが、実際に出勤すると、直属の上層部が「そんなこと必要なの?」と反対します。納得できず辞令もないまま違う部署に勝手に席を移して、新規事業を始めたそうです。後で前の部署の上司に「森川くんは全然会社に来ない」と怒られたそうですが、すでに新しい部署で売り上げなど実績を上げていたので、前の部署に戻されることなく働き続けられたといいます(上写真はLINE画面©LINE Corporation)。
 結局そのソニーも辞めてしまうのですが、森川さんは、早い段階で、「会社で出世できなくても、自分が面白いと思うこと、世の中に役に立つことをやっていたら、いずれ外の人が引っ張ってくれる」と確信をもっていたそう。青色発光ダイオードの実用化で、2014年にノーベル物理学賞を受賞した中村修二さん(右写真)を思い出すエピソードです。

 その後、2007年にLINEの社長になるわけですが、経営者になっても森川さんのスタンスはそう変わりません。自分自身が社員として、「管理されたくなかった」経験もあり、マネジメントを専門にする社員、単なる管理職は不要だと思っていました。もちろん、マネジメントが必要な社員もいらない、つまり「指示されたことをやることが仕事だと思っている社員はいらない」ということです。
 じゃ、どういう社員が欲しいのか、というと、「放っておいてもやりたいことがあって、止められてもやってしまう、という、『ライオン』みたいな人」だそう。「右肩上がりの時代が終わった成熟社会では、新しい産業を作らないと利益は生まれない。そういうときに活躍できるのは、組織の歯車みたいな人ではなく、周りからみると多少扱いにくくても、タフな仕事をしてくれる人」だといいます。でも、変化を嫌う日本人は、そういう尖った人の足を引っ張りがち。

 どうしたら、ライオンみたいな人がのびのび働けるか、森川さんの結論は、「人事評価制度はいらない」でした。

 あくまでも森川さんがLINEの社長だった時の話ですが、評価制度を作ってしまうと、評価されるための“演出”をする「ハッカー」(by森川さん)が出てきて、管理職(人事考課する人)は疲弊してしまう。だから、当時のLINEでは一人の社員を全員が評価する「360度評価」を導入していたそうです。質問はたった一つ。
「この人がいなくても仕事はまわるか」


 回答は「YES」か「NO」の二択です。それを全員に聞いて、全員が「いなくていい」、あるいは「代替可能」と思った人は評価を下げます。辞めてもらうこともあります。シビアな話ですね。

「がんばっていない人を応援して、底上げするより、がんばっている人を応援するほうが楽」

「教育で仕事のスキルは与えられるけど、人のマインドは変えられない」


 ほかにもいろいろ「名言」がありました。「デキる人だからこそ言える言葉」かもしれませんが、何か一つでも心に響くものがあったら、これからの社会人生活に生かしてください。私は、「この人がいなくても仕事はまわるか」の質問にできるだけたくさんの人に「NO」と言ってもらえるよう、もっと仕事をがんばろうという気になりました。