あきのエンジェルルーム 略歴

2015年09月03日

鉄道はダイバーシティそのもの!? ♡Vol.50

 いつも心にエンジェルを。

 今年の終戦記念日、アジア太平洋戦争中、徴兵されて不足する男性運転士に代わって、広島で路面電車の運転士をしていた女子学生のドラマ「一番電車が走った」を見ました。男性がいないから、という身も蓋もない理由で「女性活用」されるのはとても悲しい。しかし、女性が自由な職業選択の結果として、これまで男性中心だった職場で働くことは、苦労以上のやり甲斐を感じるものではないでしょうか。
 今回紹介する東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は、知る人ぞ知る、女性活用が進んでいる鉄道会社です。2015年7月現在、山手線だけでも車掌の約4割は女性、駅長も11人います。(企業ロゴ=JR東日本提供)
 今でこそ、女性社員は6000人を超え、全社員数5万8551人の約1割を占めるようになりましたが、1987年の会社発足当初は8万人を超える全社員のうち、女性はわずか680人(0.8%)。しかもその大半が同社の運営する医療機関に従事する医師や看護師などでした。1988年、いわゆる総合職としてようやく大卒の女子学生の採用を始めましたが、当時は労働基準法で女性の休日労働・深夜業が制限されていたため、主な活躍の場は旅行業部門や企画部門でした。 
 1999年に女性の深夜勤務などの規制が撤廃されたのを機に、鉄道事業に配置する女性社員の採用を拡大し、2000年から乗務員への運用をスタートしました。これまで男性しかいなかった職場に、女性用の宿泊施設などを整え、女性を配置してきましたが、女性比率は依然として低く、同社は女性が働き続けられるように抜本的な対策を迫られました。
(写真は東京駅=JR東日本提供)
 同社にとっての女性活躍元年は2004年。「多様な人材の活躍で競争力を強化」という経営戦略的観点と、「仕事と育児の両立支援は企業の社会的責務」というCSR(企業の社会的責任)の観点の2つから、ポジティブアクション「Fプログラム」をスタートしました。まず採用者数に占める女性の割合を20%以上にする、という数値目標を掲げ、2005年以降、毎年達成してきました。いまではその割合は30%に近くなっています。育児休業や、育児支援金の支給、ベビーシッター利用補助など、両立支援制度も整えました。そうした社内の変化は、女性社員の意見を生かしたマーケティングや商品化にもつながり、中でも、2005年に誕生したエキナカ商業施設「エキュート」をはじめ、授乳室の整備や沿線住民へのサービス拡大へと発展していきました。そこからさらに、性別に関わらず社員全員がいきいきと働ける職場へ変えていこう、という新しいステージに進んだのです。

 そのために2009年に着手した新たなステージが「ワーク・ライフ・プログラム」、略して「ワラプロ」です。2007年に「男女共同参画グループ」という専任部署が人事部内に設置され、それが2012年に「ダイバーシティ推進グループ」に名称を変え、両立支援からダイバーシティへと新たな目標を見据えて、現在奮闘しています。
 2012年6月からダイバーシティ推進グループ課長を務める松澤一美さん(左写真)は、1991年に入社。自分が配属されるたび、その部署に女子トイレができる、というような同社の女性活用の草創期を経験してきました。先例がないことで、かえって新しいことにチャレンジしやすかったと言います。特に、同社が1996年から進めてきた「駅型保育園」など沿線での子育て支援施設の開設事業を長く担当。2009年当時20カ所だった施設を3年で40カ所に増やすなど、事業拡大に貢献してきました。いまでは子育て支援施設は累計で80カ所、さらなる拡大を目指しています。

 「会社の外で地域に根ざした子育て支援に長年かかわってきて、地域との連携も、両立支援の大切さも実感できていたのですが、“ダイバーシティ”はまだ腹落ちしていない部分もありました。地域社会を多少なりとも変えてきたつもりなのに、正直、『今から社内?』という気持ちもありました」と松澤さん。
 しかし足もとを見ると、制度は整っていても多様な人材が「活躍」できているとは言いきれない現状がありました。育休制度やワークライフバランスは「女性のもの」という思い込みを持つ男性社員もまだまだ多かったといいます。
 松澤さんは着任当初に冨田哲郎社長から言われた「さまざまな立場の人が力を合わせないと走れない、鉄道はダイバーシティそのもの。女性が男性に同質化するのではなく、バラバラのまま合わさって束になるほうが強い集団になれる」というメッセージで、迷いがなくなったといいます。JRは国鉄が経営破綻して生まれた会社。モノカルチャーへの反省をトップが一番痛感していたのです。

 2010年度からは3歳までの子を持つすべての社員を対象に6時間の時短勤務を導入しました。本社部門だけでなく、乗務員など鉄道業務の社員ももちろん利用できます。公休以外に育児・介護休日を設け、養育休暇、看護休暇などの制度も充実させました。
 また事業所内保育所も計4カ所、設置しました。不規則な交代勤務のある乗務員でも利用できるように24時間保育日もあります。また駅型保育園開設時のノウハウも結集して、おむつ、ミルクや布団などを持参しなくてよいようにしたり、洗濯を代行したりして、通勤時の負担軽減をはかっています。その後、制度だけでなく、「お互い様」「感謝」を社員同士が認め合う双方向のコミュニケーションの場として社内ポータルサイト「ダイバーシティ・コミュ」を開設。今では月間4万PVを超えるほど定着しています。
 松澤さんは「我が社にはこの職種の人しか使えないという制度はありません。働くということにおいて平等主義が徹底している。部署内で調整は必要ですが、どの部署の人でも制度は同じように使えます。もちろん現場などで女性社員が時短勤務を利用することで、例えば忙しいラッシュ時に乗務しないなどの経済的ロスが出たりするのは事実ですが、『ダイバーシティ推進のためには超えねばならぬ壁』というトップのメッセージが一貫しているので、現場で話し合い、工夫してくれています」と話します。(写真はJR東日本の新幹線車両)
 子育てが一段落した乗務員の女性社員が「美魔女会」という有志の会をつくり、いま子育てがピークの社員を積極的にフォローしたり、不規則な勤務と子育ての両立のコツを伝授したり、と大活躍なのだそう。

 「女性管理者(管理職)は3.2%と他社に比べるとまだ少ないけれど、ついに女性役員も誕生しました。平成採用の社員で執行役員になったのは、男女1名ずつ。ここにも会社としてのメッセージが貫かれています」
 徹底した取り組みが社外からも評価されて、2012年には厚生労働省のファミリーフレンドリー企業部門の厚生労働大臣優良賞、均等推進企業部門の東京労働局長優良賞をダブル受賞。2015年には鉄道事業者として初のダイバーシティ経営企業100選にも選ばれています。

 同社で事業の4本柱は、鉄道事業、生活サービス事業、IT・Suica事業、鉄道車両製造事業と、ますます幅広くなっています。(Suicaロゴ=JR東日本提供)

 松澤さんは言います。
「例えるなら、以前は30人のクラスで足の速い人4人をリレーの選手に選び、金メダルを目指していました。いまは30人全員が、その時々に応じて、どこを切り取って出ても、それぞれが確実に成果を上げ、会社に貢献することが求められている。出る大会は草野球から、ワールドカップみたいな大きな大会まで、いろんなレベルのものがあっていい。それもまたダイバーシティだと思います」