あきのエンジェルルーム 略歴

2015年07月30日

“幻の赤ちゃん”より、ダーリン改造が先!? ♡Vol.46

 いつも心にエンジェルを。

 就活関係の取材をしていると、いろんなところで最近の女子学生は「幻の赤ちゃんを抱いて就活している」という話を聞きます。つまり、将来、出産するかどうかもわからないのに、母親になっても働き続けられる会社かどうかを気にしている、という意味です。企業やキャリアセンターの人は「そこまで考えないで、もっと今、自分はどうしたいのか」を考えて会社選びをしてほしいという、やや否定的なニュアンスで使っていましたが、私は女子学生の慎重になる気持ちもよーくわかります。私は共働き家庭で育ったのですが、小さいころから母親から、「手に職をつけなさい」と言われ続けました。「経済的自立」をしていないと、夫と離別、死別したら貧困が待っていると心配していたのだと思います。何事も「備えあれば憂いなし」です。
 でも、幻の赤ちゃんより、もっと大切なのが、ダーリン(伴侶)選びです。先日、あるドキュメンタリー映画を見て、そのことを痛感させられました。
 タイトルは『何を怖れる~フェミニズムを生きた女たち』(松井久子監督)。1970年代の日本のウーマンリブに始まる四十数年の日本のフェミニズムの歴史と、いまも続く女たちの活動を映像で綴る作品です。書籍化もされれています(写真)。
 映画の中にも登場しますが、当時は、女性差別を追及したり、女性の権利を主張したりすると、「ブスのヒステリー」などというひどい言葉で嘲笑される時代でした。男性や社会に疎まれるだけでなく、同性からも偏見や誤解をもたれ、それでも自分らしい生き方に立ちはだかる「壁」と戦ってきた女性たち。60代、70代になった彼女らが、「美魔女」とは全く違う次元で、澄み切ったように美しいことにも驚かされました。
 いまは映画館でなく、自治体や市民団体、有志のメンバーでの上映会がほとんどですが、公式HPに上映会の情報が掲載されているので、よかったらチェックしてください。

 私が参加した上映会(下写真)では、上映後に社会学者の上野千鶴子さんのトークイベントがあり、これがまた刺激的でした。
 上野さんによると、ウーマンリブの女性たちの合言葉は「一人一殺」。どんなにがんばっても女性を男性と対等の一人の人間と認めてくれない当時の社会に苦しみながらも、せめて、自分のパートナーだけでも、女性としての幸せと、全体重をかけて、リベラルな男性に「転向」させたいという思いがつまった言葉です。そのテーマに挑んだ女性のごく一部が成功し、多くは離別という道をたどったといいます。
 映画の中に登場するフェミニストの一人、主婦の再就職問題について長年取り組んできた桜井陽子さん(現・世田谷区立男女共同参画センター館長)のエピソードには身の引き締まる思いがしました。1947年生まれ、団塊の世代です。結婚、出産を経て、編集プロダクションで働いていた桜井さんは、当時、夫婦できっちり家事当番を決めていました。夫(桜井さんは「彼」と表現されています)が料理当番の日に帰りが遅くなったときは、子どもと一緒にお腹を空かしながら待ち続けたそうです。手を出さずに我慢するのもしんどかった、と当時を振り返っていました。(写真は1991年当時の桜井さん)

 一見、ナンセンスに思える我慢かもしれません。「できる人がやればいいじゃん」と思う人もいるでしょう。でも、逆を考えればよくわかります。もし妻が料理当番の日、あるいは妻が食事を作るのを当たり前と思っている夫であれば、妻の帰りが遅くて夕飯を待たされたなら、自分は早く帰宅していても、妻の帰りが遅いことを堂々と責めるでしょう。外食する人もいるでしょう。妻は妻で、謝りながら、大急ぎで夕飯をつくるのではないでしょうか? 
 今だって、両親共働きで、子どもが熱を出して保育所から電話がかかってきたら母親が迎えに行くものと思っている人がほとんどです。そこに根深いジェンダーバイアス(男女の役割に固定的な観念をもつこと)があるのです。
 離別に至らず、当番制を貫かれた桜井さんの夫を思わず尊敬しそうになりましたが、女性がやれば当たり前のことを、男性がやったからと尊敬するのもホントはおかしい話です。でも、介護をする夫、育児に積極的な夫はまだ少数派ですから、どうしても周囲はもてはやしてしまいがち。桜井さんの夫も最初のころは、「自分はほかの父親に比べるとよくやっている」という、“にわかイクメン”にありがちな台詞を言っていたそうです。それに対する桜井さんの言葉がしびれます。

「ほかの男と比べてもダメ。私と比べてどうかということが問題なのよ」
 キャー、言ってみたい! でも、その言葉の背後で、気の遠くなるような諍(いさか)いや論争が繰り広げられていたことは想像に難くありません。夫には変わってほしい、でも家庭内で論争するのはイヤ、という根性なしの私に、上野さんは「自分の男ひとり変えられない女は社会なんて変えられないわよ」とバッサリ。さらに「要求しないで男が自発的に変わってくれるなんてありえない。要求して、要求し続けて、ようやく言われたことだけ少しやる、もしくは要求してもやらないのが男です」(写真は上野さん)。

 どんなに社会的に女性活躍が推進されても、家庭内での男女平等が実現しないかぎりは、女性の負担はただ増えるだけ。女性が働き手として男性と同じ“機会”を与えられても、家事や子育てを一方的に背負ったままなら、フェアな競争はできません。先ほど紹介した桜井さんも、あるとき夫が名古屋に引っ越すことになり、桜井さんは東京で仕事をしているので、娘にどうするかと聞いたら「どっちでもいい」というので、名古屋に行く夫につけてやったと。すると、すごく仕事がはかどって、「私って案外、力あるじゃん」と思ったのだそう。女性が仕事で力を発揮できないのは、能力差でも怠慢でもなく、構造的な問題だと実体験から確信したといいます。
 この連載でも紹介していますが、女性が働きやすい職場づくりをしている企業は徐々に増えてきています。でもその変化を生かすためには、どんなパートナーを選ぶかが肝心です。もとからリベラルな人が見つかれば最高ですが、「私作る人、僕食べる人」(1975年のハウス食品の即席ラーメンのCM)といった刷り込みをされた男性もまだ多いです。
 そういえば2年前にも味の素の企業CM「日本のお母さん」編で、共働きのお母さんが朝食、キャラ弁づくり、洗濯、そして自転車で子を保育園へ送り、お父さんは背後でパソコンをさわっているだけ、というとんでもないものがありました。「お母さんってすごい」と単純に感動する人もいるかもしれませんが、CMの根底に流れているのは、「(共働きであろうと)家事は女性がするもの」「お母さんは大変だけど、だからこそすばらしい」といった価値観です。40年たっても企業やCMづくりの中枢にいる人たちの価値観が変わっていないということに愕然(がくぜん)とします。
 だから目の前にいる男性本人が悪いのではなく、そういう男性に育ててしまった社会が悪い、という広い心を持ちつつ、パートナーをあなたの愛の力で、全体重をかけて、変えてください(自分を棚に上げて言います)。たとえ専業主婦だったとしても、子どもが生まれても働き方を一切変えない男性と暮らしていたら、心も体も疲弊します。

 もちろん結婚しないという選択もアリです。幸せの形はいろいろ。あなた自身も、家庭環境、情報、社会、教育、知らず知らずのうちに刷り込まれた価値観に縛られているかもしれません。就活は自分さがしの旅でもあります。この機会に人生の優先順位をじっくり洗い出してみるのもいいですよ。

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