あきのエンジェルルーム 略歴

2015年08月06日

CM好感度No.1! 「三太郎」シリーズが誕生したわけ ♡Vol.47

 いつも心にエンジェルを。

 女性活躍やダイバーシティを推進している担当者のみなさんからよく聞く苦労話に、男性社員(主に管理職)から「女性社員や女性管理職が増えれば、会社に何かいいことあるのか?」と言われる、というものがあります。女性登用と業績にはプラスの相関関係があるという研究結果もありますが、この連載(2014年11月13日)で紹介したカルビー(ダイバーシティ推進→5期連続増収増益)のようにわかりやすい成果を得ている企業は少数派かもしれません。

 今回紹介する通信大手KDDIでは、ダイバーシティ推進の成果がCM好感度アップにつながったといいます。同社は1984年創業(当時はDDI=第二電電)、2000年に携帯キャリアのIDO、国際電話のKDDの3社が合併してKDDIが生まれました。社員数は10671人、女性比率は約18%です(上写真はテレビCM「三太郎」シリーズ)。
 通信事業は重要なインフラの一つ。24時間365日、ネットワークを維持することが求められ、部署によって、急な呼び出しや深夜労働が必要な職場です。実際、十数年前までは、出産や結婚を機に退社する女性社員がたくさんいました。

 そんな会社が変わったのは2005年、当時のトップが、高度成長期のようにみんなが同じ方向を見て走ればいいという時代は終わったと女性活躍推進を後押しするメッセージを社内ホームページなどで発信したのがきっかけでした。「女性が働きやすくなれば、男性も働きやすくなるはず」という思いで、まず役員や管理職研修には必ず女性活躍推進についてのカリキュラムを設定するようになりました。さらに2006年には役員合宿に当時まだ11人しかいなかった女性ライン長(組織のリーダー職・人事評価の権限をもつ管理職)を参加させます。経営の中枢に女性を呼ぶことで会社側は女性に能力があることが、女性社員は経営層が考えていることが理解できたといいます。
 とはいえ、いきなり女性を管理職に抜擢することが女性活用ではありません。まず女性に働き続けてもらおうと2007年に立ち上げたのが「Win-K」という社長直轄の女性活躍推進プロジェクトです。部門横断的に課題を集め、2008年には人事部にダイバーシティ推進室を設置、両立支援に取り組みました。育休や時短勤務、子の看護休暇の時間取得、在宅勤務制度の拡大などで、女性が出産を機に退職するケースはほぼなくなりました。
 ダイバーシティ推進室室長の小島良子さん(右写真)は1990年に入社。寿退社する気で、20代のとき、上司に「結婚が決まったので辞めます」と報告に行ったら、偶然、同じ部署に出産退社を決めた女性社員がいて、「2人同時に辞めてもらっては困る。妊娠での退社のほうが優先だから」と“待った”をかけられたそう。
「笑い話のようなホントの話で、思いがけずこんなに長く働くことになりました。いまでは、女性社員が妊娠を上司に報告すると、『いつ戻ってくるの?』と聞いてもらえる。大違いです」
 同社のダイバーシティの取り組みの中でも、一番の成果が2011年10月にスタートした役員補佐への女性登用です。社長や専務など5人の役員に、幹部候補の男女2人1組(社長は3人1組)をつけ、1年任期で補佐させます。補佐には2つのミッションがあり、1つは忙しい取締役にかわり案件の事前確認や進捗状況の確認などを行うサポート役、もう1つは役員が参加するすべての会議に同席するなど、補佐自身が経験と勉強を重ねることです。
 トップがどんな情報を得て、どんなジャッジをするのかを目の前で見て、会議の意味やポイントをフィードバックしてもらうなどの指導も受けます。1年間役員とほぼ毎日一緒に過ごすと、社内外の人の動かし方、ネットワークの作り方などのコツがつかめるといいます。
「スキルだけなら独学でも上げられますが、経験は一朝一夕には増えません。補佐に選ばれた社員は、役員が忙しい時間を割いて自分を“育成”してくれていることを意識するので、その経験をどのように会社に還元、貢献できるかという視点をもつようです」と小島さん。

 現在4期目ですが、補佐経験者の女性15人はそれぞれライン長として活躍、そのうち2人は部長へ昇格しています。第1期で初代の社長補佐を務めた矢野絹子さんは、補佐経験を経て、これまで未経験分野だったコミュニケーション本部宣伝部長に就任。これまでの機能面や料金プランのメリットなどを強く打ち出したプロモーションから、「年齢性別を問わずに好感をもたれるストーリー」にさりげなく機能や商品を入れ込んでいくものに方針転換しました。
 その流れで誕生したのが2015年1月にスタートした、俳優の松田翔太が桃太郎、桐谷健太が浦島太郎、濱田岳が金太郎に扮する「三太郎」シリーズです。かぐや姫(有村架純)や乙姫(菜々緒)など、新しいキャラクターも登場させながら、CM総合研究所の2015年上半期の「銘柄別CM好感度ランキング」(2015年7月発表)で「au/KDDI」が、歴代最高の好感度で初の1位に輝きました。
 2014年度までは通期で「ソフトバンク/SoftBank」が「白戸家」シリーズで史上初のV8を達成していただけに、社内でもその喜びはひとしおだったといいます。
 2012年からは、「2015年度にライン長に女性90人(比率7%)」という数値目標を掲げ、第2ステップとして女性ライン長登用プログラム「LIP」をスタートしました。本部長推薦された女性社員をバイネーム(指名)して管理し、職場での育成と同時に、集合研修などを通じて経験値を高めてもらいます。選ばれるのは年間100人程度。もちろん実際にライン長に登用するのは実力の伴った人のみ。2015年4月には女性ライン長は74人、比率5.7%と目標値に近づいています。

 2015年には3期連続で、東京証券取引所と経済産業省のよる「なでしこ銘柄」に選ばれました。さらに企業におけるダイバーシティ・マネジメントの促進と定着を支援するNPO法人「J-Win」(ジャパン・ウィメンズ・イノベーティブ・ネットワーク)が選ぶ「J-Win ダイバーシティ・アワード」大賞も受賞しました。

 小島さんはいいます。
「女性活用の取り組みが目立っているかもしれませんが、障害者活用、LGBT(性的少数者)理解への取り組みなど、あらゆる立場の人に目配りできているというのが当社の自慢です。LGBTでいうと、今年から新卒採用のエントリーにも性別欄はなくしましたし、10月からは同性カップルにも家族割適用を始めます。2020年の目標は、そうですねえ、もう女性活躍推進なんていわなくていい職場になっていることですかね」