あきのエンジェルルーム 略歴

2015年06月25日

社会に出る前に知っておきたい! 「同一労働同一賃金」って何? ♡Vol.41

 いつも心にエンジェルを。

 なんだかエンジェルじゃないシビアな話が続いてごめんなさい。先週、紹介した労働者派遣法改正案が衆議院で可決されましたね(前回も読んでね)。3年ごとに働き手をかえれば企業が派遣社員をずっと受け入れられるという内容です。今回はその対案として同時に可決された「同一労働・同一賃金」推進法案について考えます。
 そもそも「同一労働同一賃金」とは、性別や雇用形態、年齢、人種、国籍など働く人の属性にかかわらず、同一の仕事には同一の賃金水準を適用すべし、というごく真っ当な原則です。国際労働機関(ILO)では、同原則をILO憲章の前文に挙げており、基本的人権の一つと考えられています。国際人権法では、勤労権に関して、いくつかの条文で『同一労働同一賃金』を明記しています。
 日本では、かつて性別による賃金格差などが深刻でした。日本の労働基準法では、男女の賃金格差を禁じる規定があり、男女の格差は徐々に改善されてきました。
 一方、正社員と非正規社員の賃金格差については、責任の重さ、働き方の違い、たとえば転勤を伴う異動の有無など、さまざまな違いを根拠として賃金格差が「適法」であるとして「放置」されてきたのです。相場としては派遣社員の賃金は同じ業務に従事している正社員の約7割といわれています。
 当初、野党3党が「同一労働・同一賃金」推進法案を提出したのは、「労働者派遣法改正案」にどれだけ反対しても、議員の数からいえば成立する可能性が非常に高いという背景があったからです。「同一労働同一賃金」が実現すれば、正社員と派遣社員で有期雇用か無期雇用かの違いは残るにしても、賃金など待遇面では公平になるわけですから、派遣法改正案で派遣労働者が受けるデメリットを少しは緩和できるのではないか、そう思ったのです。なるほど、ですね。

 しかし、自民と維新の修正協議で、あっけなく骨抜きになってしまいました。
 当初案にあった「職務に応じた待遇の均等の実現を図る」という、最も核をなすべき文言が、「待遇の均等および均衡の実現」に変わりました。均衡とはバランスという意味で、均等とはまったく異なります。さらに「職務に応じた」を「その業務の内容及び当該業務の責任の程度その他の事情に応じた」という長い前置きに変わっています。つまり、派遣と正社員では、労働時間や休日が違う、部署での地位が違う、など、さまざまな「事情」で、賃金の違いを正当化することができます。

 均等と均衡の違いは、算数で考えればよくわかります。8個のリンゴを夫婦、姉、弟の4人家族で「均等」に分ける、ということは1人にもらえるのは2個。でも、8個のリンゴを4人の「均衡(バランス)」を考えながら分ける、ということは、「一家の長」(古い表現ですね)であるお父さんは3個、お母さんはダイエット中だから1個、お姉ちゃんは部活でお腹が空いているから3個、弟はそんなにリンゴが好きじゃないから1個、ということもあっていいのです。つまり「理由」があれば、必ずしても「均等」にしなくてもよい、というのが「均衡」なのです。
 なんだ、「同一労働・同一賃金」推進法ができたとしても、これまでと変わらないじゃん!ということがよくわかりますね。

 しかも、この推進法案は当初は派遣法改正案の「施行後1年以内」に、正規労働者との均等実現のための法改正や立法(法律をつくること)措置を講じるとなっていましたが、それも「3年以内」に緩和されました。
 さらに、原案では均等の実現のために「法制上の措置」を講じるとされていたのに、その後、法改正などをせず、厚生労働省の通達などでも良いことになりました。拘束力が一気に弱まったわけです。
 「均等の実現のため絶対、法律を作ります」から「均等・均衡の実現のために何らかの努力はします」に変わってしまったのです。現在の派遣法にも「派遣労働者の賃金等の決定にあたり、同種の業務に従事する派遣先の労働者との均衡を考慮」と明記されています。それでも実効性がないからこそ、法律などの強制力が期待されていたのです。
 
 また、均等・均衡の際、待遇を比較すべき対象者について、修正前は「正規労働者」という定義だったのが、修正案では「通常の労働者」と変更されています。どういう意味か、それは書き換えた人にしかわかりませんが、正規労働者の待遇でなく、パートや契約社員も含め、その会社で働く人たちの待遇の平均と比較して、バランスを取れば十分、ということでしょうか。
 この法案が成立したところで、「同一労働・同一賃金」が実現するかははなはだ不透明になってきました。なのに、デメリットてんこもりの労働者派遣法改正案のほうは、成立が濃厚になってきました。トホホとしか言いようがありません。

 巷ではアベノミクスで「売り手市場」だの、「女性が輝ける社会」だの、きらびやかな話もありますが、足元を見つめるとそんな有り様なのです。「こうなったら絶対に正社員になってやる!」というのもいいですが、正社員になったら安泰というわけではありません。

 正社員の働き方に大きな影響を及ぼす「労働基準法改正案」というのも着々と成立に向けて進んでいます。いつかこの内容についても紹介します。