あきのエンジェルルーム 略歴

2015年06月18日

社会に出る前に知っておきたい! 派遣法改正案 ♡Vol.40

 いつも心にエンジェルを。

 就活をしているみなさんは、おそらく正社員での就職を目指していますよね? なにか夢があって、その夢を実現するために、食いぶちを稼ぐ手段(仕事)ではできるだけ自由時間を確保したいから非正規で、という人もなかにはいるかもしれません。とはいえ、新卒でパート、アルバイト、契約、派遣といった非正規雇用を最初から「狙う」人は少数派だと思います。
 最近、新聞やテレビで「派遣」という文字を見ない日はありません。一つは集団的自衛権にからんで今国会で議論になっている安保法制、自衛隊を中東など、日本の領海外に「派遣」することの是非やその要件についてです。

 もう一つが、働き手を3年以内に代えれば企業が「派遣」社員をずっと受け入れられるようにする、という労働者派遣法改正案です。これから社会に出るみなさんにとって重要なニュースですが、まず労働者派遣法を知らないと何が問題なのか、さっぱりわかりませんよね。いますぐ派遣社員になるつもりはなくても、出産を機に退職して、再就職するときは派遣、ということも考えられます。予習しておいて損はありません。
 そもそも派遣労働というのは例外的な働き方と言われてきました。同じ非正規雇用でも、契約社員やパート、アルバイトは自分が働く会社と直接雇用契約を結びます。これに対し派遣労働は「間接労働」です。派遣社員を受け入れる企業には仕事の指揮命令をする権限はあっても雇用を守る責任はありません。雇用契約を結んでいるのは労働者と派遣会社だからです。中間搾取や強制労働の温床になるとして、戦後は法律で禁止されていたくらい、「問題のある雇用形態」だったのです。

 その後、派遣への規制は緩められたり、強められたりしてきましたが、企業の力を重視する安倍政権が誕生。アベノミクスの成長戦略の一つとして、多様な働き方を推進するために、再び規制が緩められようとしているのです。ちなみに2014年の派遣労働者数は男性48万人、女性71万人、あわせて約120万人です。

 今回の労働者派遣法改正案のポイントは次の7点です。

・同じ派遣先の職場で働ける上限を3年に
・同じ職場でずっと働ける「専門26業務」を撤廃
・人を代えれば企業は派遣社員をずっと受け入れ可能
・派遣会社に「無期雇用」される派遣社員は、同じ派遣先の職場でずっと働くことができる
・派遣会社に派遣社員への教育訓練などを義務づけ
・派遣社員の直接雇用を派遣先に頼んだり、新たな派遣先を提供したりすることを派遣会社に義務づけ
・派遣事業をすべて許可制に
 いまの派遣法では、企業が無期限に派遣社員を受け入れられる仕事を、専門的なスキルを必要とする通訳や秘書、事務用機器操作など、「専門26業務」に限っています。それ以外の職種では最長3年まで、という制限があります。

 じゃあ、どっちにしても派遣は3年で辞めさせられるんじゃん!?と思ったかもしれません。しかし、そこには大きな違いがあります。これまでの派遣法では、3年という期間が過ぎたら、その業務は派遣社員ではなく、「直接雇用」した社員にやらせなくてはいけない、という規定がありました。

 3年後、結局、別の直接雇用社員にその業務を引き継がせるのであれば、その業務に「慣れた」派遣社員を直接雇用しよう、という企業もこれまで少しはありました。

 しかし、一般的に賃金の安価な派遣社員の雇用期間が切れた後、また同じように派遣社員を雇えるのであれば、業務を教える手間はかかるとしても、トータルでの企業の人件費支出は抑えられます。正社員と違って景気の上がり下がりに合わせて、人数を調整するのも簡単です。みなさんが企業の経営者だとして、どっちが「お得」かは、明らかですよね。
 そうすると、派遣社員は、たとえ正社員と同等の業務をしていたとしても、3年ごとに職場を追われ、新たな環境で働かねばなりません。しかも、派遣社員から正社員へ、という道はますます狭くなるでしょう。直接雇用を派遣先に頼むことを派遣会社は義務づけられていますが、派遣会社は、派遣先の企業にとってはいわば下請けです。そう強気な交渉ができるとも思えません。しかも、派遣先にその社員が「直接雇用」されてしまうと、派遣会社の収入源はなくなりますから、自ら「直接雇用」を促すとは到底思えません。

 労働者にとってのメリットは見当たらないけど、デメリットならいくつも考えつく、というのがこの労働者派遣法改正案なのです。野党や労働組合は「生涯ハケン法案」と批判しており、条文の誤記載や衆院解散もあり2回廃案になっていました。今国会でも、反対が根強く、厚生労働委員会で採決の見通しが立っていなかったのですが、先週、その風向きが一気に変わりました(右写真は派遣法改正案の採決に反対する集会)。
 維新、民主など野党3党は、派遣法改正案の対案として「同一労働・同一賃金」推進法案を提出しています。与党が維新と修正協議を行って、この法案に賛成する代わりに、派遣法改正案の採決に維新が出席することで話がまとまったのです(右写真は派遣法改正案の審議終了を宣言しようとする衆院厚生労働委員長と、それを阻止しようとする民主党議員ら)。

 わかりにくい話ですが、与党は、野党がどこも出席していない場で採決をすると国民に数の力に物を言わせた独裁的な「強行採決」の印象をもたれてしまうので、少しでも野党に来てほしい。維新は維新で、自分たちが提出した法案を成立させた実績がほしい。でも、派遣法改正案そのものには賛成はせず、出席するだけだよ、ということです。

 「同一労働・同一賃金」推進法が本当に機能すれば、正社員と非正規社員で有期雇用か無期雇用かの違いは残るにしても、賃金など待遇面では公平になるわけですから、派遣法改正案で労働者が受けるデメリットを少しは緩和できるのでは? そう思いますよね。

 しかし、そこにも落とし穴がありました。次回、この「同一労働・同一賃金」推進法案について、詳しく紹介します。まずは19日の採決(予定)に注目してください。